表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死刑囚だった俺が小学生に転生!? 裏切られて死んだけど、ここからは俺のターン。裏切り者は詰みです。  作者:
1章 序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/74

20話 情報

 澪の目は疑いに満ちていた。

 当然だ。俺のような小学生に、いきなり依頼を持ちかけられれば、誰だって警戒する。


「ある人から伝言があって。澪さんにとっても、有益な話なんだよ」


 その言葉に、澪の目にわずかに熱が宿るのが見えた。


「へぇ……。適当なこと言ってるんじゃないの?」


 やるしかない。

 この勝負に出なければ、進展はない。


「その人が、ある場所に情報を残してる。確認してほしい」


 澪の目がまた鋭くなる。


「すぐに伝えられない情報なんて、信用に値しないわ」


 それでも俺は引かない。

 生前に用意しておいた金庫──情報、金、証拠。すべてを詰め込んだ切り札がそこにある。

 あれを掴ませれば、澪を動かせる。


「百聞は一見に如かず、ってね。場所とパスワードを書いたメモを渡すよ」


 俺は授業中にこっそり書いたメモを澪に差し出した。


「……なるほど。じゃあ中身を確認して、価値があればあなたの要望、聞いてあげる」


 澪は冷静にそう言ってメモを受け取る。

 確約ではないが、これは大きな一歩だ。


「じゃあ先に、僕の要望も伝えておくね。ある家族の情報と、ある“単語”、それと……ある名士について」


 一瞬、澪の眉間にしわが寄った。

 けれど何かを納得したように、ゆっくりと頷く。


「……まあ、あなたの情報にそれだけの価値があれば、調べてあげる」


 そう言って、彼女は立ち去ろうとする──が、すぐに立ち止まり、振り返った。


「連絡手段は?」


 ……痛恨の見落としだった。


「ごめん。なにも持ってないから……また掲示板に書き込むよ」


 呆れたような顔で、澪が言う。


「……あんたねぇ。私、プリペイド式のスマホ持ってるから貸すわ。着信専用だけど、ネットは使えないから」


「ありがとう。ちゃんと返すよ」


 俺は苦笑しながら礼を言い、スマホを受け取る。


「まあ、どうせすぐ返してもらうことになるから。──あ、約束破ったら殺すけどね?」


 冗談めかして放たれる脅し文句。

 俺は少し笑って返す。


「ありがとう。きっと、スマホだけじゃなくて、いろいろ提供してもらうことになるよ」


 その言葉に、澪の表情がほんの少しだけ、苛立ちに染まった。


「……その言いぐさ。知ってる人に似ててイライラするから、やめて」


 そう吐き捨てるように言い、澪はそそくさとその場を離れていった。


 俺はその背中をしばらく見送る。

 手応えはある。だが、不安も拭いきれない。


(……はたして、うまくいくか)


 澪の姿が完全に見えなくなったのを確認してから、俺も歩き出した。


 俺が調べてもらいたいのは──

 俺の家族の情報、「クジョウ」、そして伊集院家のこと。


 あの金庫の中身で、どこまで澪を動かせるか。

 情報は引き出せるのか。そして、それがこの世界の歪みを暴く手がかりになるのか……。


 ──答えは、まだ闇の中だ。


 澪の姿が角の向こうに消えるのを見届けてから、俺はようやく歩き出した。

 空はいつの間にか茜色に染まり、風がほんの少し肌寒い。小学生の体には、季節の変わり目がやけに堪える。


 家へ向かう道は、妙に静かだった。犬の鳴き声も、子どものはしゃぐ声もない。

 まるで、俺の帰りを待ち構える何かが、じっと身を潜めているかのように思えた。


 疑念に駆られて、周りの気配などを確認するが、追ってなどの様子はない。


(襲撃があってから、少しナーバスになっているのか)


 今まで裏社会で生きていた感覚を思い出す。

 そういえばいつもこんな生活をしていたな……。

 過去を思い出し少し顔が綻ぶ。


 玄関の前に立ち、いつもの鍵でドアを開ける。


「アキラっ! おかえりなさい!」


 母親が俺の顔を見た瞬間、ほっとしたように微笑み、出迎えてくれた。


 ……違和感。


 いつもと同じ玄関。変わらない家の中。けれど、彼女の雰囲気がどこか違っていた。


 以前はどこか義務的で、温度のない「演技」のような対応だった。

 それが今は、ごく自然な、母親そのものの表情だった。


(養子っていう立場は、別に気にしてなかったけど……こんなに違うもんか?)


 微妙な変化。その裏に何かがある気がして、胸の奥に小さな引っかかりが生まれる。


「ただいま~っ!」


 とりあえずはテンションを上げて、同じ調子で返事をしてみせた。

 俺の返事を聞いた母親は、安堵したように顔を綻ばせる。


「ご飯できてるわよ! 早く手を洗って食べましょう!」


 その声もまた、どこか「普通すぎる」くらいに自然だった。


 母親に言われるまま洗面所に向かい、手を洗う。

 流れる水の音が、妙に静かに感じた。


(……俺が神経質になりすぎてるだけか?)


 食卓には、俺の好きなメニューが並んでいた。

 ハンバーグに、ポテトサラダ、味噌汁も具だくさんで、まるで誕生日でも祝ってるみたいな内容だ。


「……すごいね。今日、なんか特別な日だったっけ?」


 俺は嬉しそうな顔を作りつつ探りを入れる。


「え? ううん、別に。アキラ、最近頑張ってるから、ちょっとだけご褒美」


 そう言って笑う母親の表情は、穏やかで、嘘をついてるようには見えなかった。


 けれど俺は、目の前の料理を警戒してしまう。


(毒なんて、さすがに……な)


 そう自分に言い聞かせて、ゆっくりと一口、ハンバーグを口に運ぶ。

 ……ちゃんと温かくて、ちゃんと美味しい。

 家庭的で、どこにでもあるような“普通の夕食”だった。


「うん、おいしい」


 俺がそう呟くと、母親はまた嬉しそうに笑った。

 食事を終え、風呂をすませ、歯を磨き、布団に入る。


 天井を見上げながら、今日の澪とのやり取りや、母親の態度の変化を思い出す。


(今はまだ全体が見えない……)


 澪からうまく情報を得られることが出来れば……進展するが色々もどかしい。

 ほんの少しだけ緊張を残したまま、まぶたを閉じた。

 深く、浅く、意識が沈んでいく——。


 ……その時だった。


 耳元で、まるでガラスを爪で弾くような、乾いた音が響いた。

 眠りの境界線にあった意識が、ゆっくりと引き戻されていく。


「寝顔は悪くないのに、なかなか起きないのね」


 聞き覚えのある女の声。

 冷たく、柔らかく、そしてどこか愉しげなその声に、俺の心臓がひとつ跳ねる。


 目を開けると——そこには、

 月の光の中、逆光のシルエットとして佇む“あいつ”がいた。


 ——死神。


 黒い影のような服に、血のような赤い瞳。

 この世界の理からはみ出した、俺に「命の再契約」をさせた存在。


「こんばんは、アキラ。ちょっとだけ、お話ししましょ?」


 その唇が笑みを浮かべた瞬間、空気が一変した。

 夜の温度が、肌の奥から冷えていくような錯覚。

 俺は静かに息を吸った。


 ——死神との第2幕が開演する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ