19話 再会
目覚ましの音で目を覚ました俺は、まず体の感覚を確認した。
……多少、筋肉に鈍い痛みはある。
けど、動かないほどじゃない。
これなら、問題ない。
布団を抜け出すと、台所から母親の声がした。
「……アキラ、本当に大丈夫? どこか痛くない?」
心配そうに、けれど少しだけ距離を取るような、そんな口調。
昨日の異常な過保護ぶりに比べたら、まだマシか。
「大丈夫だよ。ほら、ちゃんと動ける」
軽く腕を振ってみせると、母親はようやく、ほっと息をついた。
「……そう、ならよかった」
心配を完全に拭いきれない顔をしていたけど、それ以上は何も言わなかった。
俺はそのまま、出された朝食──トーストとスクランブルエッグに手を伸ばす。
特に意識せず、黙々と食べた。
痛みはある。
でも、日常を続けるには十分だ。
朝食を終え、ランドセルを背負って家を出た。
少し肌寒い朝の空気が、体に心地よかった。
学校に着くと、昇降口で見知った顔が手を振ってきた。
「おーい、アキラ!」
──ショウタだ。
俺にとって、数少ない話しかけてくれるクラスメイトの一人。
「よっ」
軽く手を挙げて応じながら、俺は自然に彼のもとへ歩み寄った。
「昨日さ、新しい特撮ヒーロー見た?」
ショウタが嬉しそうに話しかけてきた。
「……ああ、まあね」
俺は適当に相槌を打つ。
本当は見てない。
昨日は、それどころじゃなかったから。
「ガイザーブレイカー、めっちゃかっこよかったよな! あの一刀両断のシーン!」
「うん、すごかったな」
話を合わせながら、適当に相槌を打つ。
ショウタは気づく様子もなく、嬉々として話し続ける。
特撮ヒーローの新必殺技がどうとか、敵がかっこよかったとか。
そんな取り留めのない会話をしながら、俺たちは教室へと向かった。
教室に入り、チャイムが鳴る。先生の点呼が始まったが、桜の姿が見えない──。
いつもなら、必ず何かと俺に話しかけてきたはずだ。……前回の襲撃の影響かもしれない。
明日になっても登校しなかったら、確認した方がいいかもしれないな。
授業中、俺は澪への接触について思考を巡らせていた。
今日こそ、いよいよ澪と接触する日だ。……長かった。
これで俺の復讐への手がかりが手に入るかもしれない。
だが、ファーストコンタクトでの失敗は絶対に許されない。
そのためにも、澪に会ったときのシミュレーションを繰り返し頭の中で描いておく必要がある。
まず重要なのはファーストコンタクトの入り方だ。
警戒を解かせつつ、信用を勝ち取らなければならない。
これは難易度が高いが──俺だけが知っている機密情報を餌にするか……。
いや、それよりも。
あいつが限られた人物にしか明かしていない"フルネーム"を口にする方が効果的かもしれない。
澪のフルネーム。
恐らくあいつは、本当に信用している相手にしかそれを教えていない。
ならば、それを逆手に取って、俺の存在価値を認識させる。
たとえ完璧には信じてもらえなくても、話くらいは聞く気になるはずだ。
──それでいこう。
思考を研ぎ澄ませているうちに授業は終わり、いつの間にか放課後になっていた。
澪との接触プランを何度も頭の中でシミュレーションしながら、心の準備を整える。
さあ──ここが一つの山場だ。
暗号を伝えた後、指定した集合場所はとある駅の、古びた掲示板前。
放課後から移動すれば、十分に間に合う距離だ。
俺は迷いなく学校を後にし、駅へと向かった。
駅に着くと、そこは相変わらず廃れた無人駅だった。
すでに廃線になって久しいが──これが都会の片隅にひっそりと残っているのだから、妙に味がある。
だが、俺たちのような日陰者には、これ以上ないほど好都合だ。
無人駅の掲示板付近を見回す。澪の姿は、まだない。
だが、きっとどこか遠くから様子を窺っているに違いない──あいつは、そういうやつだ。
掲示板脇の柱に背を預け、じっと待つ。
すると、遠くから見覚えのある制服姿のシルエットがこちらへ向かってくるのが見えた。
胸の奥が熱くなる。
あぁ──今までの出来事が、どこか現実感を欠いていたが。
この瞬間、ようやく俺は、本当に死に、転生したのだと実感した。
そして、かつての"知り合い"に再び出会えたことが、胸を激しく揺さぶる。
澪は警戒心を露わにしながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
「よっ。」
俺は軽く手を挙げて声をかける。
澪は驚いた様子で俺を見るが、すぐに表情を引き締め、周囲を警戒し始める。
「……」
無言のまま、澪は俺の存在を無視するかのように周囲に視線を巡らせる。
俺は静かに澪へ近づき、再び口を開いた。
「安心して。暗号を入力したのは僕だ。」
そう告げると、澪は感情を押し殺したまま、冷たく言い放った。
「冷やかしはごめん。パス。」
そう言って、俺の前から立ち去ろうとする。
──まずい、今しかない。
「天馬澪──さん、だよね?」
俺は、過去に聞いたフルネームを澪に投げかけた。
その瞬間、澪は目を見開き、まるで本物かどうかを見極めるように俺をじっと観察し始めた。
「……あたしの、その名前を知ってる人は、ほんの数人しかいないんだけど。どこで聞いたの?」
その声には、鋭い圧力がこもっていた。
何度も一緒に仕事をしてきた澪──だが、こんなにも剥き出しの警戒と殺気を見せたのは初めてだ。
「僕は──ある人から澪さんを頼れって言われたんだ。僕が求めている情報は澪さんしか知らないって。そして、あの名前を伝えたら、話を聞いてくれるはずだって。」
俺の説明を聞いても、澪の疑いの目は緩まない。
「言っとくけど、この名前を知ってるのは数人だけ。その人の名前、教えてくれない?
──じゃないと、何も話せない。」
ここで引き下がれば、すべてが水の泡だ。
澪を説得できなければ、復讐への道も──この先のすべても閉ざされる。
呼吸を整える。
心臓の鼓動が、やけにうるさく響いた。
──さあ、どう出る。
ここで、俺のすべてを賭けるしかない。
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