18話 母の葛藤
夜。
アキラが眠ったあとのリビングで、私は暗闇に沈んでいた。
ぐちゃぐちゃだった。
感情が、胸の中で暴れて止まらなかった。
あのとき――
汚れた服、土埃と血の匂いをまとって、玄関に立つアキラを見た瞬間、私は気づいてしまった。
もう駄目だ、と。
今まで、何度も自分に言い聞かせてきた。
アキラは「計画」のための駒にすぎない。
愛情を持ったら、すべてが壊れると。
それなのに。
玄関に立つ小さな姿を見た瞬間、
理屈も、理性も、計算も、すべて吹き飛んでしまった。
「守りたい」と思った。
この手で、この子を、絶対に。
抱きしめたくなる衝動を必死に抑え、震える手でアキラの汚れを払った。
何か喋ろうとしたけれど、声が震えて出てこなかった。
代わりに、ただ必死に世話を焼こうと動き回った。
すべてを失ってもいい、そんな狂った想いすら、よぎった。
怖い。
この感情が、怖い。
胸の奥が痛い。
押し込めても押し込めても、あふれ出す感情。
私は震える指先で、自分の腕を抱きしめた。
父親が帰ってきたらどうする?
もしこの感情を悟られたら?
私は……。
アキラは……。
──無事では済まない。
あの人の冷たい目が頭をよぎる。
利用価値がないと判断された瞬間、アキラは。
ぞくり、と全身が震えた。
組織だって、私たちを監視している。
少しでも計画から外れたら、私は即座に切り捨てられるだろう。
分かってる。
分かってるのに。
それでも。
あの笑顔が、頭から離れない。
あんな状態でも、それでも笑おうとした、あの顔。
必死に「大丈夫だよ」って笑った、あの顔。
守りたかった。
すべてを敵に回してでも、あの笑顔を。
私はいったい、何を選ぶんだろう。
計画か、アキラか。
まだ答えは出ない。
けれど、胸の奥では、もう結論が出ている気がしてならなかった。
今夜だけは。
せめて今夜だけは。
この子の穏やかな寝息を、誰にも奪わせない。
そう、強く、強く願った。
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