プロローグ
この物語は──
とある“元・死刑囚”の話だ。
名前は、影山アキラ。
仲間からはただ「アキラ」と呼ばれていた。
金と命が、等価でやり取りされる世界。
そこで俺は、裏切られ、嵌められ──
そして“死刑”を宣告された。
……だが、その時だった。
俺は“死神”と出会った。
――――――――――――――――――
「判決を言い渡す。
主文、被告人を……死刑に処す」
無機質なその声が、法廷に響いた。
まるで録音でも流しているかのように、淡々と。
空気が凍った。
傍聴席から、誰かの息を呑む音が聞こえる。
でも──俺は動かなかった。
両手には手錠。
それを膝の上に置いたまま、背筋を伸ばし、判決文を最後まで聞いていた。
「なお、被告人の行為は極めて悪質かつ反社会的であり──
更生の余地は、認めがたい。よって──」
長々と続く断罪の言葉。
それは、まるで俺を“人間じゃない何か”として扱っているかのようだった。
けど、否定はしない。
俺は悪事を重ねてきた。
裏の金を動かし、汚れた手と手を繋げ、
……結果として命を奪った人間も、いる。
だが。
──俺がここにいるのは、それだけが理由じゃない。
あの日、すべてが暴かれた。
晒され、追い詰められた。
きっと最初から、仕組まれていたんだ。
完璧な罠。
狙いすました“計画”だった。
……裏切り者がいる。
仲間の中に、確実に。
それだけは、わかっていた。
「……被告人に、何か言いたいことは?」
弁護士がこちらを見た。
形式だけの問いだった。
俺は立ち上がり、傍聴席をゆっくりと見渡す。
目が合う奴。視線を逸らす奴。
けれど──その中に“敵”がいるとは限らない。
俺は視線を、まっすぐ裁判官に戻した。
「……ありません」
それだけを言って、また静かに座る。
心に決めていたことがある。
死ぬまでに、必ず突き止める。
俺をハメたのは、誰か。
なぜ、何を隠すために俺を消そうとしたのか。
死刑を宣告されたその瞬間から──
俺の“復讐”は始まっていた。
怒りは、次第に静かへと変わる。
だが──その静けさは、どこか異様だった。
まるで、すべてを受け入れたかのような、落ち着き。
……いや、違う。
俺の心が静まるほどに、
周囲の空気が異様に“浮いて”見えた。
人々の姿が、命を抜かれた人形のように……止まっていた。
不自然なほどの静けさの中、
ひとつだけ──“動く何か”があった。
傍聴席の最後列。
光の届かない死角の中に。
黒い“影”が、立っていた。
深く沈むような、異質な気配。
存在しているだけで、時間の流れがねじれるような。
──そいつは、こちらを見ていた。
目が合った。
そう思った瞬間、
“影”は霧のように掻き消えた。
……この時の俺は、まだ何も知らない。
だが、あの“影”と出会った瞬間から、
すべてが狂い始めたのだ。
これは──死神を楽しませるための、舞踏会。
──さあ、開幕といこうじゃないか。
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