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第5話 深夜の尋ね人って大体迷惑だよね

 尊い労働の末に手に入れた宿で、俺は異世界に来て初めての夜を迎えていた。

 うーん……濃いような薄いような微妙な一日だったな。


「あのー」


 よく分からんマッチョに轢き殺されて、女神に異世界に連れて来られて、ボコられて、顔と声を変えられて。

 いや、イケメンになってみたいと思ったことはあるが、まさかこんな形で叶うなんて思いもしなかったわ。

 オマケで変態がついて来たが、まぁそこは目を瞑ろ……無理だな。存在が強すぎる。


「もしもーし」


 なんだアイツ、自分の性癖の為に見知らぬ他人を整形するとか頭おかしいんじゃねぇか?

 初対面時は真面目系美少女だと思ったのに、実際は非常に残念な奴だった。

 まぁその残念さのおかげで宿に泊まれてるんだが。


「聞こえてますかー? おーいクズニートさーん?」

「はいクズニート……じゃねぇ、誰だ!?」


 思わず寝転がっていたベッドから跳ね起きる。

 部屋の中には誰もいなかったはずだが……まさか幽霊的なサムシングか!?

 ええい、物理攻撃が効かない奴は苦手なんだよ!

 仕方ない、ここはうろ覚えの般若心境でも唱えて……


「幽霊ではありません、女神です。あなたのクラウディアですよー」

「出たな諸悪の根源! くらえ物理の力!」


 ひゅんひゅんっ! びしびしっ!


「いたっ! 痛いです! 何投げてるんですかそれ!? や、やめてええええ!!」


 ふはははは! 見たか、これが酒場で拾っておいた木の実の殻パワーだ!

 ほのかに香ばしい感じがたまらんだろう!


「うう、ひどい目に遭いました……私、女神なのに」

「うるせぇ、必要な時にまったく役に立たない駄女神の癖に……で、何の用だよ?」


 酒場で俺の事無視した癖に何しに来やがった。


「あれはたまたま席を外してまして……すみませんでした」


 席を外してただぁ?

 うーん、まぁ確かに女神ってのも忙しいものだろうし、色々あるんだろうけど。

 

「仕方ねぇなぁ。ちなみに何してたんだ?」

「スマブラしてました」

「ギルティ」


 ひゅんひゅんひゅんっ! びしべしばしっ!


「いーたーい! やめてっ! やめっ……ほんのり香ばしい!?」


 うるせえ、悪の権化が。

 ちなみにスマブラとは対戦ゲーム『超乱闘!スマートブラザーズ!』の略である。

 いいね? そこは間違えちゃいけないよ? お兄さんとの約束だぞ?


「うう。せっかく異世界初心者セットを持ってきてあげたのに……」

「なんだ、そういう事なら早く言えよ。ほれ、水でも飲むか?」

「お酒がいいです!」

「金がねぇんだよ! お前のせいでな!」


 まぁ日本での所持金を持ってこれたとしてもほぼ無一文には変わらなかったけどな。

 でも俺は悪くない、社会が悪いんだ、うん。きっと。めいびー。


「だ、だからほら、そのための初心者セットです!」


 何やら布製のきんちゃく袋を取り出して……何だそれ?


「これはいわゆるインベントリです。無限にアイテムを収納できます」

「なんだ、そんな良い物があるなら早く言ってくれよ」

「これは女神専用アイテムだから人間には使えませんけどね」

「消え失せろ外道が」


 スパァァァァン!


「いったぁぁぁっ!? ちょっ、女神に手を上げるのは絵面的にダメじゃないですか!?」

「うるせぇ、なんちゃって女神が。加護の一つでも寄越してみやがれ」

「だからあげるって言ってるじゃないですかぁ……はいこれ、初心者セットです」


 きんちゃく袋から何かを取り出して渡してくる。

 コインと、どっかの鍵と、木の棒に布を巻いた……何だコレ?


「『120ゴールド』と『かぎ』と『たいまつ』です」


 某有名RPGの初代勇者が王様からもらったやつじゃねえか!

 わかりにくいボケしやがって!

 こんなネタ、今どき知ってる奴いるのかよ!


「ちなみにゴールドはこの世界の通貨ではないので使えません」

「お前何しに来たんだよマジで」


 ただの嫌がらせか? なぁ、そんなに俺の事嫌いなのか?

 流石の俺でもそろそろ泣いちゃうよ?


「……まぁいいわ。金貨ってんなら売れば金になるだろうし」

「はぁ!? 女神から授かった神聖なアイテムを売り払う気ですか!?」


 だって他に使い道無いだろ。持ってても邪魔なだけじゃん。


「つーか、他に用事がないならはよ帰れ。睡眠の邪魔だ」

「女神の扱い雑っ! もっと崇め敬ってください!」

「お前にそんな要素無いだろ。ほれ、ハウス」

「あっ、ちょっ、押さないでください! ああっ!」


 ぐいぐいと顔面にたいまつを押し付けてやると、ぽんっとコミカルな音を立てて女神が消えた。

 対女神特攻でも持ってるのかこのたいまつ。使えるじゃねえか。


 しかし、最初から最後まで威厳の欠片もない女神だったな。安らかに眠れ。


 さーて、そんなどうでもいい事はさておき……明日に備えて寝るか。


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