10、そろそろ身を固める?
「そろそろロザンナも結婚したらどうかな?」
日々を楽しく過ごしているとロザンナもそろそろ適齢期で十九歳になろうとする頃にラッセルはロザンナが一人でいる事を気にしていた。
この国ではお披露目は十五歳からなのだが家同士の取り決め等の特殊な条件が何も無ければ婚約は大体十八歳くらいから本格的に始まり二十歳頃に婚姻するのが一般的だった。
その背景には過去に約十五歳以降になると急激に魔力量が減る奇病が流行り、その影響で若者の多くが弱体化していた時期があった。
こうなると当然ながら強力な魔法を扱える若者も激減したので出来るだけ魔力量の多い若者を迎え入れたいと言う家が慎重になると周りもそれに倣い魔力が安定するのを待つ意味でこのような風習が出来上がっていて既にその病も終息した今でもまだその名残りがあった。
「そうですねぇ…確かにずっと独身だとなめられますから決めるべきですよね…面倒な人は絶対に嫌なのでそれ以外で調べてみます」
「釣書が来てるからそれも見なさいね」
書斎の釣書を全て自室へ持ち出して目を通しているとアマンドの弟からも来ていた。
(あの家は陸な人間がいなかったから却下ね)
一目見てすぐに意図を察してどう見ても論外だったので候補から外した。
(あーなんか面倒臭い…こんな感じの家ばかりならすぐなのになぁ…)
その中には断りにくい家もあったので慎重にその家を調べると案の定といったところでクローバー伯爵家を食い物にしようとしていた。
困りながら少し視点を変えてこれを利用する方向で切り替えてみると穏便な形で諦めて貰うためにまずは一度家長と会う必要性を感じて仕方なく一つの共同投資をする事で纏めると上手くいった。
その時の投資も「一時的に…」と期間を取り決めてお互いが何時でも手を引きやすいようにしてなんとか上手く全てを回避出来た。
そして時期を見てそろそろと思った時にロザンナは密かに手を引くと相手は知らずにずっと投資していたのか業績が伸び悩み、早めに手を引いたロザンナに抗議するも彼女からは『一時的なので頃合いを見て手を引かせて頂いただけです』と契約書も見せて説明すると相手は渋々といった様子ではあったが帰って行ってくれてやっと面倒な人達からの婚約を回避出来た。
儲けはするがなかなか良い人が見つからなかったので従兄の家の次男に会いに行くことにした。
「ごきげんよう。クレール様」
「こんにちはロザンナ嬢。ゆっくりと会うのは久しぶりだね。今日はどうしたの?」
この日はロザンナからの手紙で話したい事があるから家に居てほしいと指示されていた次男のクレール・ベルントンは彼女が訪ねた時に優しく微笑みながら出迎えていた。
その後は応接間で話そうとしたらロザンナから庭がいいと言われて適当に歩きながら他愛ない話をしていると彼女は歩を止めて少し長めの深呼吸すると意を決した表情で口を開いた。
「ねぇ、貴方って婚約者いた?」
「いや、僕は分家で次男でしょ?なかなか居なくて…」
この国の分家は当主を支える立場で嫡男ならまだいいのだが次男からは当主の家や城で使用人や役人として働いたりする事になっており、婚約相手を貴族令嬢にしたければかなり難しかった。
更に使用人の場合は買い物等にも出ないので出会いがないのは割と一般的で婚期も遅く、城で働こうとしていたクレールは家長の指示でロザンナの家で働いていたが職場恋愛もあまりないので出会いがなくて未だ独り身だった。
「貴方が嫌でなければだけど…私と婚約する気はない?」
「…君と?」
唐突な話だったからか彼は何故かそわそわし始めた。
「もし嫌じゃなければの話で貴方も知ってるでしょ…私はあれから未だに記憶が無いのよ。
だからもし貴方が私を嫌っていたら断ってくれても構わないから正直に話してくれない?」
ロザンナはそわそわする様子を迷い戸惑っているのだと勘違いしていた。
「本当に僕でいいの?」
「私の所に色々と来てたけど全員が嫌だったの。
それでどんな人がいいのか改めて考えてみたら頭に浮かんだのが貴方だったのよ。
だから貴方さえ良ければと思って…どうかしら?従兄妹同士だし貴方は私を一番近くで見てたから一番理解してくれてる人だと思うのだけど…無理強いはしないし嫌なら断って構わないから…本音を聞かせてほしいの」
相変わらず潔いロザンナを眩しそうに見つめてクレールは嬉しそうに微笑んでいた。
「記憶が無くてもやはりロザンナはロザンナだね。
君は僕にとって憧れの存在で大好きな従妹だから断る理由はないよ。
これから君の恋人にしてくれるなら僕で良ければ喜んで」
「本当にいいの?」
「うん、僕もロザンナがいいな」
「…有り難う」
そしてクレールと婚約して暫くして婚姻すると彼に男性達の嫉妬が集まった。
「クレール…なんだかごめんね?」
「構わないよ。ずっと君が好きだったから今は凄く幸せだし」
婚姻してからロザンナが聞いた話ではクレールは幼い時からの知り合いで幼馴染というものだった。
この頃の彼は行動的なロザンナにいつも振り回されて手を焼きながらもその行動力に憧れていた。
そして自分よりも年下なのに人一倍努力してそれを全てものにしてきた彼女に対して嫉妬どころか好感を抱いていた事を話すとロザンナはこんな事を言ってくれる男性は初めてで照れてしまっていた。
その照れた様子も自分にしか見せないと思うとクレールは愛おしくて更に好きになるとこれからも彼女が好きな事が出来るように気を配ろうと密かに誓い今もそれを実行していた。
「まさか本当に君とこんなふうに一緒にいられるなんて…まるで夢のようだよ」
「私もクレールと一緒で良かった。だってこんなに落ち着く人ってなかなか居ないのよ?」
そしてロザンナがクレールの腕に触れた時に声が聞こえた。
(ロザンナ…君は遠い存在になってしまったかと思ってたのにこうして僕を選んでくれて有り難う。大好きだよ。そしてお帰り)
(お、お帰り!?)
ロザンナはクレールの気持ちに困惑しているとまだ続きがあった。
(もう忘れてしまったみたいだけど…元々君は僕と結婚したいって話してくれてたんだよ。
あの花畑で僕に花冠を作って『貴方が花嫁よ!』とか言って毎回告白して僕を困らせてたんだ…でもね、あの時はとても幸せだったんだよ。
それから婚約した時は悲しくて…会わなくなってから気持ちを落ち着けて可愛い従妹として見ることにしたんだ。
でも…まさか記憶が無くても君が僕を選んで戻って来てくれるなんて…今の僕はあの頃のようにとても幸せなんだよ。
こんな事を話すと君は困るだろうから言えないけど…ロザンナ…僕は君が好きだよ。選んでくれて有り難う)
(…貴方が花嫁って…確かに言いそう…)
クレールの心の声を聞き終えて思わず困った顔になると彼は気遣う素振りを見せた。
「どうしたの?何か嫌な事があれば話してくれたほうが有難いのだけど…」
「なんでもないわ。ねぇ、偶には森の花畑に行かない?あの場所は割と好きなのよね」
部屋で二人で寛いでいる時でも気遣いを見せる彼に嬉しくなると思わず甘えたくなり彼に凭れると彼は肩を抱き寄せて優しく頭を撫でた。
「わかった。その時は花冠を作ってあげるね。でも下手だから笑わないでね?」
「笑わないわよ」
その後の二人はやり手の女性事業家と愛妻家の優しい旦那様として評判になり幸せに暮らしたが最後まで記憶が戻ることはなかったが本人は全く気にせず記憶がないことも含めて人生を謳歌して成功を収めると彼女のもとには女性達から話が聞きたいと邸を訪れるようになり、指導を受ける彼女達は次々に成功を収め始めたので面白くない男性達は女性にしか指導しないロザンナを妬んだが彼女はそれを綺麗に無視して女性達が蔑まされないように手助けをし続けた。
ロザンナ:クレール本当に有り難う。
クレール:いきなりどうしたの?
ロザンナ:だってクレールは最高の旦那様よ!皆の見る目がなくて良かったわ!
クレール:まぁ出会いがなかったからねぇ…でもそろそろ婚活パーティーに誘われてたから時期的にギリギリだったかも?
ロザンナ:え?そうなの?危なかったわ!クレールか他の人のなんて嫌よ!
クレール:でも立場的にも…ねぇ?察して?
ロザンナ:…やっぱり嫌です!だって本当にろくな男がいなかったもの!間に合って良かったわ!
クレール:そんなに思ってくれて有り難う。僕も君を支えられるように頑張るね。
ロザンナ:クレールゥーやはり大好きよぉ…♡
クレール:はいはい、裏話だからってデレすぎだよ。
ここまで読んでくださって有り難う御座いました。