今更でごめんなさい
「…本当に今更な質問だな」
「ここ何処ですか?」という私の質問に、美形さんは皮肉めいた声でそう言った。
しかもハッ、と鼻で笑うというおまけつきで。
いや、そうしたくなる気持ちも分かりますけどね?
でも本当に今まで気がつかなかったんだからしょうがないじゃんか。
鼻で笑うなんてちょっとひどくない?
美形にそういう冷たい反応されると普通の人にされるより冷たく感じるんだから、大ダメージだよまったくもうっ!
これもある意味美形マジックってやつかね?
「エル・リュカリエ」
「え?」
「お前が今いる国の名前だ」
エル・リュカリエ国?
そんな国あったっけ?
聞いたことないぞ。
「まあ、より厳密にお前の質問に答えるとしたら、ここはエル・リュカリエ国王の寝室だ」
国王…?
え、それってつまり一番偉い人ですよね?
いやいや、ちょっと待ってよ。
さっきこの美形さんここは自分の寝室だって言ってなかったっけ?
それってつまり――――…
「あのー、もしかしてあなたが国王?」
「もしかしなくとも我が国王だ」
ええええええええええッ!?
この美形さんが国王!?
でもでも、この美形さんってどう見ても20代くらいの若さだよね?
国王ってもっとオッサンがなるもんじゃないの?
「あ、あなたが国王!?」
「そうだと言っただろう?何度も言わせるな」
うおっ、マジかよッ!
私、本物の国王様に会ってるの?
何かすごくない!?
「それで」
「え?」
いきなり腕を強く引っ張られたと思ったら、視界が急速に反転し、気がつけば広いベッドに押し倒されていた。
頭の上で交差させられた両手首は、私の上に馬乗りになっている美形さんがガッチリと掴んでいる。
僅か数秒の間にさっきまでの美形さんと私の体制は逆転していた。
「お前は何者だ?」
何者って言われてもねぇ…。
さっき名乗った通り、鈴谷花梨って人間以外の何者でもないんですけど。
「ここはかなり厳重に警備されているはずだ。我以外の魔力を無効化する特別な結界も張ってある。なのにどうやって此処へ入ってこられた?目的は何だ?」
ちょ、ちょ、ちょっと待ってつかあさいよッ!!!
魔力?
結界?
此処に入ってきた目的?
意味がサッパリわからないんですけど!?
「だんまりを続けるつもりか?…ならば仕方あるまい。言わせるまでだ」
え?
言わせるまでってどういう――――――…って、オイッ!!
何で胸元のボタン外そうとしてんだコイツ!?
「天誅ッ!!」
「うッ!?」
身の危険を感じた私は思いっきり足を上に蹴り上げた。
え?私の蹴りは何処に当たったかって?
そりゃもちろんあそこですよ、あ・そ・こ。
乙女な私の口からは具体的に言えませんけど、しいて言うならそう、男の急所ってヤツですね☆
「乙女を襲おうとした罰ですッ!!!」
ベッドの上に立ち上がり、悶絶している国王様に向かってビシリと指をさして決めゼリフ。
ふうー、キマッたぜ☆
にしても、このベッドふかふかだなぁ。
立っていても足の裏からふかふか具合が伝わってくるなんて、そうとう良いベッドだなこりゃ。
「お前ッ…ふざけんなよッ…!」
ありゃ?
意外とタフですね、国王様。
かなり本気の蹴りをかましてやったのにもう立ち直ってるよ。
「国王様だろうが美形だろうが、乙女を襲うなんて最低な行為許されるわけがないんだからねッ!」
ファインティングポーズをとって身構える。
女だからってナメんなよ!?
やるときゃやるぜ、それが大和撫子魂じゃあッ!
「もとはと言えばお前が我の部屋に侵入してきたのが悪いんだろうがッ!!」
「さっきから気になってたんですけどね、侵入だとか目的だとか魔力だとか何言ってるんですか!?私はね、夜中に無性にポテトチップス(コンソメ味)が食べたくなってコンビニに向かって全力ダッシュかましてたはずなんですよ!!なのに気がついたらあなたの上に乗っかってて…もう何が何だか分からないんですけどッ!!」
そう、あたしはただポテトチップス(コンソメ味)を求めコンビニにダッシュしてただけなのだ。
なのに気がついたら国王だとかいう美形さんの上に乗っかっているというとんでもない状況に陥っていたという不思議。
どうしてこんなことになっているのか誰か説明してくれよ。
「お前こそ何言ってんだッ!『ぽてとちっぷす』やら『こんびに』やら、訳のわからん言葉を使いおってッ!!」
え、カラーコンタクトに加え、ポテトチップスとコンビニも知らないの!?
そう言えばここの国名だって聞いたことのないものだったし…何だか私と国王様の話噛み合ってないよね?
どういうこと?
「…急に黙って、どうした小娘」
「日本…」
「何だ?」
「日本って国知ってます?」
「にほん?…そんな国聞いたこともないが?」
日本を知らない!?
ええー、嘘でしょッ!?
「そ、それじゃあアメリカは?イギリスは?中国は?ロシアは?」
「それも国名か?…どれも聞いたことがない」
「じゃあ、この国の近くにある国名は?」
「大国で言えば…ラン・ドルティア国、ヴァン・イスティーニャ国、エマ・シャギリス国、ウィン・マリティカ国などがあるが?」
「…どれも聞いたことがない」
国王様は私の言った国を知らない。
私は国王様の言った国を知らない。
これってもしかして―――――…
「あのー、ちょっといいですか?」
「何だ?」
「頭がおかしい奴だって思わないでくださいよ?」
「もう思っている」
「…私からしたらあなたの方が頭がおかしい奴ですけどね」
「何だと?」
「もー、いちいち突っかかんないでくださいよ!話が先に進まないッ!」
「…チッ」
あれ?
今舌打ちしましたよね、あの人。
乙女に向かって舌打ちとは何てヤツ。
もう一回、天誅をくらわせてやるべきじゃないかコイツ…――――――――って、話をズラしてる場合じゃなかった。
「あのですね、どうやら此処は私のいた世界とは違う世界みたいです」
「…どういう意味だ?」
そのままの意味ですよ、国王様。
私だって信じたくないけどね、でもそうだとしたらすべて辻褄が合うんですよ。
だからもう観念して現実を受け入れるしかないじゃないですか。
「私、異世界からトリップしてきちゃったみたいです☆」
ああ、どうか温かい反応プリーズミ―。