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ドラゴンの舎弟

 俺はリーリアの弟と向き合った。

 確かにデカい。ドラゴンというよりも、特撮映画の巨大怪獣だ。

 それでも、最初にリーリアと出くわした時ほどの威圧感はなかった。俺のレベルが上がったこともあるだろう。だが、それだけじゃない。


 こいつはリーリアに一度も勝ったことがないらしい。

 体格やパワーはずっと上だ。だが、全身から発散する魔力のオーラが全く違う。


「……ああ、そうだ。忘れてた。一応、弟の名前を教えておくわね。デスジリオン、ドラゴンの言葉で『勇者殺し』って意味よ。人間の言うところの『ドラゴンキラー』みたいなモノね。叔父さんが【勇者】に殺されたもんだから、パパが対抗してつけたらしいわ。本物の【勇者】に出会ったら、あっさり殺されちゃうと思うけどね」


「姉ちゃん、黙っててくれ。そんなこと教えてやる必要ない。どうせコイツはすぐに死ぬんだ」

 

 おいおい、さっきルールを聞いたばかりだろう。

 相手を殺すのは反則だ。つくづくドラゴンって生き物は、人の話を聞かない。


「名前は覚えた。ジリオンだな。さあ、どこからでもかかってこい」


「デスジリオンだっ! ジリオンだと、ただの【勇者】になるだろうがっ!」


 あっ、そうか。悪い。悪い。

 謝ろうとする間もなく、デスジリオンが襲いかかってきた。


「グオォォォ、死ね、死ねっ!」


 パンチ、パンチだ。

 一発ごとに何千トンもの威力のあるパンチを、俺に向かって連射してくる。

 俺は腕で顔面をガードしながら、全てを受けた。体が揺れたが、それだけだ。ハッキリ言って痛くも痒くもない。


「くそっ、くそっ、くそっ!」


 デスジリオンは、それでもムダな攻撃を続けた。

 あらら。コブシが壊れて血が出ている。ドラゴンの強大なパワーに、打撃に使う手が悲鳴を上げている。


「姉ちゃん、効かない。全然、効かないよう」


「ほんと、単細胞なんだから……戦い方をもっと勉強しなさい。ドラゴンには他に武器があるでしょ。尻尾とか牙とか。そうだ、せっかくだからお兄ちゃんに教えてもらいなさい。たとえば火を吐いて注意をそらすのもいいわね」


「でも姉ちゃん、実はお腹の具合が悪くて火が出ないんだ。変な物食べたからかな」


「もう……そんなんじゃ一生、結婚できないわよ。もっと強くなって、メスを惚れさせるようなオスになりなさい」


「うん、わかった。やってみる」


 デスジリオンは、いきなり横を向いた。

 尻尾で攻撃しようとしているのがバレバレだ。リーリアが呆れて天を仰いでいる。


「ええいっ、砕けろ!」


 パシッ。

 俺は片手で尻尾の先をつかんだ。


「間合いが遠いぞ。それじゃあ先っぽしか届かない。反撃を怖がって、ビビってるからだ。有効打が欲しいなら、ココ。もっと奥に当たるようにした方が威力が出る」


「この人間め! うるさいぞ。ガオォォォン!」


 デスジリオンは体をひねって俺の手を外すと、大口を空けて突撃してきた。

 相変わらず隙だらけだ。


 もっと痛めつけてやろうと思っていたが、いい加減かわいそうになってきた。よく見ると、なんだか涙目だ。


「これで終わりだ」


 俺はドラゴンの口の中に、自分から腕を突っこんだ。魔力のヨロイがあるから、牙が皮膚に刺さることはない。

 ボキッ。俺は牙をつかんで折った。ドラゴンにとっては前歯になる。


「痛っ、イタイタイタ。痛いよ。お姉ちゃん、牙が折れた」


「折れたんじゃない、折られたんでしょう。どうしてあなたは、いちいちお姉ちゃんに泣き言を言うの」


「決闘で牙を折られたら負けだ。リーリアから聞いたぞ。それがドラゴンのルールなんだろう。わかったら、さっさと認めろ」


「お、オレが人間に……負けた」


 ドドドーン。

 デスジリオンの腰がくだけて、尻もちをついた。


「負けた。負けた、負けた。人間に、負けた」


決闘タイマンは終わりだ。元の大きさに戻ったら、ギガヒーリングで治療してやる。大丈夫だ。牙だって元どおりになる」


「うっ、うっ、うっ」


「負けたからって、恥ずかしくないのよ。お姉ちゃんのダーリンなんだから。ショウヘイは、世界でいちばん強いのよ。おまえだって、もうわかったでしょう」


「……姉ちゃん、違うよ。オレ、感動してるんだ。こんなに強い人間がいて、それが姉ちゃんのツガイの彼氏なんだ。オレは姉ちゃんが誇らしいよ。ドラゴンとして、これほど名誉なことはない」


「それならダーリンにも、ちゃんと言いなさい」


「うん、わかった」


 デスジリオンは、ヨロヨロと立ち上がると深々と頭を下げた。

 俺は笑いを必死にこらえた。真剣なのはわかるが、絵面がヤバい。まるで怪獣の着ぐるみがお辞儀をしているみたいだ。


「アニキ、オレを舎弟にしてください。アニキの命令なら何でもします。一生、アニキに従います」


「プッ、プフッ。わ、わかった。面倒をみてやるから、俺についてこい」


「アニキ、いま笑いましたか?」


「いや、笑ってない。笑ってない」


 俺はあわてて打ち消した。

 せっかく、ここまで来たんだ。こんなことで台無しにできない。


「わかってます。人間に負けたクセに『勇者殺し』なんて名前じゃ、思わず笑っちゃいますよね。もう『殺し』はやめます。これからは、オレのことをジリオンと呼んでください。まだ弱いけど……いつかは、アニキのように強いオスになってみせます」


 ああ、ソコか。俺はホッとした。

 まあ別にいいか。もともとデスジリオンじゃ、なんか言いにくかったし……。


「じゃあジリオン。これから、おまえは俺の弟分だ。面倒をみてやるから、俺に従ってくれ。とりあえず人間を殺すのは禁止だ。いいな、絶対だぞ」


「もちろんです、アニキ。人間は仲間です。友達です。アニキは神様です」


 リーリアの弟は、ドンと胸をたたいた。それだけでも地響きが起きる。


 もう俺も、完全にコッチ側だな。

 作戦の成功を喜ぶよりも、俺はその事実になんだか避けられない運命のようなものを感じていた。

 

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