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幕間のお約束

 自分の試合が終わると、先に俺は要塞の内部へと案内された。


 おおっ、すげえ。

 上を見上げながら歩くと、その大きさに圧倒される。


 広大な敷地を囲む城壁の高さは、優に十メートル以上はあるだろう。

 要塞の本体は石造りで、四方には塔が配置されていた。それがまた巨大だ。数万人規模のスタジアムと比較しても、ずっと大きい。


「この部屋を使ってください。夕食までは自由にしていただいて構いません。あと、今回は特別に大浴場の使用許可が出ています。汗を流して、さっぱりとしてから夕食に参加するようにとの、将軍のお言葉です」


 風呂か……いいな。

 水が貴重なこの土地で、風呂に入るのはかなりの贅沢だ。


 すぐにでもお願いしたいところだったが、俺にはエランドとしての設定がある。

 この世界の田舎には、そもそも風呂に入る習慣がない。川や湖で水浴びするか井戸水で体を拭くくらいだ。家庭に風呂があるのは都市の、それも上流階級に限られる。


「大浴場って何です?」


 案内役の兵士が小さく笑った。


「ああ、そうか。エランドさんは地方の出身でしたよね。……浴場というのは、沸かしたお湯に体ごと入る施設のことです。王都には公衆浴場もあります。入浴料を払って、みんなでお湯につかるんです。温まりますよ」


「お湯って、もしかして裸で入るんですか? それも他の人と?」


「もちろんです。お風呂は服の洗濯場じゃありませんからね。ああ、でも大丈夫ですよ。裸でいても、お互いに誰も気にしません。それにどうせ男同士ですから……」


「でも、田舎者だとバレると、イジられたりしませんか」


「まあ、確かに……それは、あるかもしれませんね。

 そうだ。入浴時間は4時からと決まっていますが、3時半には準備ができているはずです。先に入れるように話をつけておきましょうか。その代わり浴槽には、体をよく洗ってから入ってくださいよ。お湯を汚すと、後で私が叱られます」



 それから俺は、少しだけ昼寝をした。

 狭い部屋に、ベッドが二つ置いてある。相部屋みたいだったが、とりあえずまだ、ルームメイトはいない。

 そういえば寝不足だったな。

 そんなことを考えているうちに、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。


 ピピピピ。ピピピピ……。

 うっ、うおっ。寝過ぎた。


「ショウヘイ様、急いでください。予定の時間を5分過ぎています」


「わかってるって……ところで、おまえって風呂とかに持って行っても平気なのか」


 服のボタンをはめながら俺はスマホに話しかけた。

 さっさと行かないと。ゆっくりと風呂に入るチャンスは今しかない。


「ハイ、私はショウヘイ様のレベルと連動して、バージョンアップするようにできています。現在のスペックなら深海八千メートルまでの水圧と、摂氏せっし二千度までの高温に耐えられます」


 なんだそれ。そこまで必要ないだろ。

 でもまあ、相棒が頑丈なのはいいことだ。


 大浴場のある場所は案内係の兵士が詳しく教えてくれた。

 初めての建物だが、ミリアがいれば迷うことはない。


 大浴場は要塞の地下にあった。

 わりと普通なんだな。それが最初の感想だった。


 浴室は広々としていたが、湯気であまり先までは見えない。床はツルツルとした大理石だ。湯船の中に指を入れる。お湯の温度もちょうどいい。

 俺はていねいに体を洗うと、湯船から汲んだお湯で体を流した。


 いよいよお待ちかねの入浴だ。

 シルフィ、リーリア、ソラ……それに、みんな。俺だけごめん。


 ザァアア。こぼれるお湯がもったいない。だが気持ちいい。異世界で……それも戦地で、こんな贅沢が味わえるなんて最高だ。


 ん?

 俺はふと、人の気配に気づいた。

 湯気の先に、ぼんやりとしたシルエットが見える。どうやら先客がいたらしい。


 でも、どうして人がいるんだ。浴場の使用時間は4時からじゃないか。俺みたいに先に風呂を使えるように、お願いしたんだろうか。

 その時、その影がビクッと揺れるのが見えた。


「あ、あの。ごめんなさい。もしかして驚いてます? そういえば、まだ時間前ですよね。田舎者なんで、お風呂は初めてで……他の人にバカにされないように、先に使わせてもらってたんです」


 反応を待ったが、返事がなかった。

 俺は湯の中を、そろそろと進んだ。今は潜入作戦の途中だ。黙っていられると、かえって不安になる。


「えっと、俺はエランドと言います。サットニア地方の出身で、今日の試験に合格したばかりです。別に、怪しい者じゃありません」


 湯気の間から、肩が見えた。

 タオルでまとめた髪の下に、ピンク色に染まったうなじ。男のくせに、なんか妙に色っぽい。


「あのう、もしかしてのぼせてますか?」


 うなじに大粒の汗が浮いている。

 ちょっと待てよ。なんだ、この大量の汗。具合でも悪いんじゃないか。これは放っておいたらマズいぞ。

 俺は前に回りこんだ。


 その人は顔を隠して、指の間から目だけを出していた。全身の肌を真っ赤にして、ぷるぷると震えている。


「あんまり無理しない方がいいですよ」


 声をかけた……その時だった。

 バシャバシャバシャ!

 ザバーン!


「も、もう限界! ダメ、死んじゃう」


 俺はその場で固まった。

 

 裸だ。裸の女性だ。くびれた腰、豊かなヒップ。そして形のいい乳房。

 うわっ、見た。見た、見た。乳首も……それにアソコも。全部、丸出しだ。


「か、か、か、隠してください。顔じゃなくて、体の方」


「目を閉じればいいでしょ!」


「あっ、そうか……ごめんなさい」


 俺は目をつぶった。

 なんだアレは、なんだアレは、なんだアレは。


 それにしても、どうして体じゃなくて顔を隠すんだ。あれじゃあ、どうやっても見ちゃうじゃないか。


「先に出て行くから、目を閉じてて。それでしばらく、ここにいて。お願いだから、ここで見た事はぜんぶ忘れて!」


「は、はい。わかりました。忘れます。誰にも言いません」


 それにしても美人だったな。

 言葉とは裏腹に、俺の頭の中には見たばかりの映像がぐるぐると回っていた。

 シルフィの裸とどっちが綺麗だったか……バカバカ、比べるな。シルフィがイチバンに決まってる。


 俺は目をつぶったまま、ざぶんと首まで湯船に入った。

 いーち、にー、さーん、しー。

 まだだ。まだまだ。これで目を合わせたら、もう事故だとか言い訳できない。

 そして百まで数えて湯船から出た時には、俺はもう、すっかりとのぼせてフラフラになっていた。


 


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