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始まりの王都

「えっと、ギルド所属のパーティー。『疾風の銀鷲』ですね。全員、そこの魔力検査機に手を置いてください。書類と照合します」


 城門の役人は気さくな人物だった。

 前に王都に来た時の、威圧的な男とはまるで違う。


「……うわっ、みんなすごい数値ですね。これでCランクパーティーですか。信じられない」


「まだ結成したばかりで実績がないんだ。これからは王都を中心に稼がせてもらう予定だから、よろしく頼む」


 パーティーを代表してシルフィが答えた。

 名目上のリーダーは彼女だ。

 シルフィはAランクパーティー『銀狼の牙』にいた実績があるから、堂々としたものだ。


「それに凄い美人ばかりだ。うらやましいなあ。……僕も、小さい頃は冒険者に憧れてたんです。魔力がないから、あきらめましたけど。今じゃあ、しがない門番です。

 でもまあ考え方によっては、これでも運がいい方かもしれません。ちょっとでも魔力のある先輩は、みんな戦争に狩り出されちゃいましたから。実はここだけの話ですけど……今回の戦争、ヤバいみたいですよ。軍団が全滅したとか。……いいですか。壊滅じゃありません。全滅です。一万人近くが完全に消えたって言うウワサですよ」


「そうなのか」


「まあ、国同士の戦争なんて、冒険者には関係のない話でしょうけどね。……あっ、そうだ。上司から一応、聞くように言われてるんです。冒険者を辞めて軍隊に入る気はありませんか? このステータスなら、いきなり指揮官での採用もありますよ」


「いや、私たちは冒険者であることに満足している。軍隊に入る気はない」


「……ですよね。こんな時期に入隊なんて、わざわざ死にに行くようなもんです。

 実は、敗戦が伝わってから、ギルドの本部には徴兵から逃れようとする連中が押し寄せているらしいですよ。混乱してると思いますから、気をつけてください」


「わかった。ありがとう」



 審査が終わると俺たちは王都の中に入った。

 この前に来た時とは、確かに空気が違う。

 戦争のせいだろうか。行き交う住民の顔も、なんとなくピリピリとしている。


「いつも思うんだけど、わざわざ馬を連れてくる必要なんてあるの? どうせ預けちゃうんでしょう」


 城門近くの厩舎から出る時、リーリアが不平を言った。

 王都まで俺たちを乗せて行ってくれたのは、ドラゴンの姿に戻った彼女だ。そのおかげでまだ、ザルフの町を出てから何時間も経っていない。


「悪い。重かったか」


「別に重くはないけど。ドラゴンになると、ああいう動物が食べたくなるのよ。野生に戻っちゃうって感じ? あの馬、けっこう肉付きが良かったしね。美味しそうって思っちゃった」


「ギルドの用事をすませたら、昼飯にしよう。それで勘弁してくれ」


 役人が言っていたように、冒険者ギルドの前には人だかりができていた。

 どれもが若い男だ。押し合うようにして、中に入ろうとしている。


「頼む、試験を受けさせてくれ。オレにだって魔力があるんだ」


「前にゴブリンを倒したことがあるんだ。絶対に役に立つぜ」


 ギルドで冒険者に登録されれば徴兵されない。

 それがわかっているから、みんな必死だった。ギルドは王権からは独立している。それは王国でも、敵のダルシスタン帝国でも同じだ。


「このギルドは現在、試験を中断しています。登録試験を受けたい方は他のギルドへ行ってください」


 中に入ろうとする人たちを、ギルド職員が壁を作って阻止していた。

 それはそうだろう。王権からは独立しているとはいえ、それも友好関係があってのことだ。徴兵逃れの人間に手を貸したら、国王にケンカを売ることになる。


「他のギルドに行くのに、何日かかると思ってるんだ。それにオレたちは城門を出られないんだ。見殺しにする気か」


「そうだ、冒険者だけ特別扱いなんて汚いぞ」


「うるさいな……」


 そこに、中から一人の人物が出てきた。

 でかい。それも筋肉隆々だ。薄手のシャツがはち切れそうになっている。


「ガタガタ抜かしてるんじゃない! わかった……そんなにやりたきゃ、試験でもなんでもしてやる!」


「ガルシアさん、困ります。そんなこと勝手に……」


「オレがいいって言ったらいいんだよ。その代わり、試験はここでやる。おい、誰でもいい。オレを倒したら合格だ。全員でかかってきてもいいぜ。そうしたら、まとめて合格にしてやる」

 男は空気が震えるほどの大声で吠えた。


 一瞬、群衆がひるんだ。

 それだけで結果は見えている。

 ただ、それだけでは終わらなかった。


「お、おい。やるぞ」


「この数だ。いくらなんだって勝てるだろ」


「聞いたぞ。これだけの人間の前でデカいことを言ったんだ。約束は守れよな……」


 う、う、うわあぁあお!

 群衆が叫びながら突進したが、ガルシアという男はビクともしなかった。真っ赤になって押しても動かない。


「ふんっ!」

 逆に連中を、気合と共に吹き飛ばした。

 全員が地面に叩きつけられる。しばらくの間、誰ひとりとして立ち上がれない。


「どうだ。まだ始まってもいないぞ。早くかかって来い。ナイフでも剣でも使っていいぞ。殺されても文句は言わない。……ただし、お互いにだぜ」


 にやりと笑うと、群衆たちは腰を押さえながら逃げ散った。ろくに声も出ない。

 ガルシアは豪快に笑った。


「どうだ。さっさと終わっただろう。最初から、こうすれば良かったんだ」


「いや、ですからそうじゃなくて。群衆の求めるままに試験をしたのが問題なんです」


「グチャグチャ言うんじゃない。結果良ければ全てよしだ。……なあ、兄ちゃん。そう思うだろう?」


 えっ、俺か?

 彼は、いきなり話をふってきた。

 間に人がいなくなったとはいえ、まだかなり距離はある。

 意表を突かれて、俺は一瞬たじろいだ。会話をするには遠すぎると思ったが、本人はあまり気にしていないらしい。



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