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空中散歩

 圧倒的なステータス。

 それが何を意味するのか。俺はすぐに気づくことになった。


 誰よりも速く動く。それだけで人間は目で追えない。

 もちろん全く見えないわけではない。だが、チラリと何かを見つけて、確認しようとして視線を動かす。そのわずかな間に別の場所に移動してしまえば、相手にとっては最初からいなかったことと同じだ。


 俺は誰にも制止されることなく疾走した。

 宮殿の中は広かったが、この速度だとどこへ行くのもアッという間だ。


 建物の中心、玄関にあたる場所はすぐに見つかった。ロビーのように広い空間になっていて、武装した兵士が大きな扉を守っている。


  強行突破も考えたが、やはり騒ぎになるのはマズい。俺はロビーの階段を駆け昇り、ズラリと並んでいる部屋のひとつに入りこんだ。

 ドアに鍵はかかっていなかった。どうやら清掃中らしい。ベッドからはシーツが外され、折りたたんだタオルが置いてある。


「脱出するなら窓からだな……。ミリア、俺がここから飛び降りたら、ケガをすると思うか?」


 俺は、窓を開け放って下を見た。

 ベランダはなく、伝わって降りられそうな場所もない。

 たぶん天井の高さが違うんだろう。ここは二階のはずだったが、校舎の三階よりも高い気がする。


「イイエ。その可能性はありません。ただし、あまりオーラを集中するのはオススメできません。周囲の環境を破壊するおそれがあります」


「オーラ?」


「体にまとう魔力の障壁のことです。先ほど剣を防いだのもオーラの効果です」


「攻撃されても平気なのか」


「ハイ、ショウヘイ様なら対戦車ミサイルでも無傷です」


「そりゃあ確かに化け物だ……」


 それでも飛び出そうとすると足がすくんだ。

 大丈夫、大丈夫。ミリアを信じろ。俺は無敵だ。落ちたって死ぬわけない。

 俺は必死に自分に言い聞かせた。いくらステータスが高くても、精神力まで底上げしてくれるわけではないらしい。


「えいっ!」


 窓枠を蹴って外に飛び出した時、俺はまるで空を飛んでいるような気がした。

 えっ、いや。まさか。本当に飛んでる?


 ブーブーブー。空中でスマホが鳴った。

 うわわっ、何だ。何が起きた。

 スマホが震えている。地震速報とかの時に鳴る、アレだ。


「警告。緊張による魔力増大により飛行魔法が発動しました。制御が不安定なため、落下するおそれがあります。呪文による制御を推奨します。呪文コードは『ジャズニム、スーク』です」


 音声だけでなく、画面にも呪文が表示されている。


 何だよ、それ。子ども向けのアニメじゃあるまいし。

 俺は自分の中の黒歴史を思い出した。小学生の頃、近所の公園でブランコから飛び降りてケガをした。その時は、呪文を唱えれば飛べるような気がしたんだ。


 うわっ。

 ためらっているうちに体が反転した。上と下とが逆になる。


 風ではためいている制服のジャケットから、さっきもらったばかりの金貨の袋がすべり落ちた。ヤバい。あわてて、それを空中でつかむ。


「ジャ……ジャズニム、スーク!」


 ヤケクソになって叫んだ瞬間、俺は鳥になった。



 空中の散歩は爽快だった。

 呪文を唱えてからは、制御が驚くほど楽になった。まるで背中から見えない翼が生えたみたいだ。右に左に。自由自在に空を飛んでいく。

 宮殿の敷地も塀も、あっさりと越えた。このままどこまでも飛んで行けそうだ。


 空から見ると、さっきまでいた王宮は都市のちょうど中心に位置していた。

 都市全体が城壁で囲まれている。外敵から身を守るためだろう。その外側には川から引いた水路がある。


 なかなか美しい都市まちじゃないか。

 風が気持ちいい。地上にいる人間が小さく見える。


 見える……。ちょっと待て。そうだ、俺のことは下からも見えるハズだ。

 空を飛んでいる人間を見たらどうなる? 驚いて通報されるに決まっている。そうすればすぐにまた、王宮から追手が来る。

 そうだ。それならむしろ、高度を上げたらどうだ。この魔法ならどこまででも飛んで行けそうだ。いっそのこと、別の国まで行ってしまえば追手を心配する必要もなくなる。


 ピリッ。 

 不意に、電流のような痺れが体を走った。


 あわてて高度を下げる。ちょっと待て。ここは都市の上空だぞ。さえぎるものは何もないはずだ。


「ミリア、これは何なんだ?」


「モンスターから王都を守る結界です。一定以上の魔力を持つ者は、この結界を越えられません。ショウヘイ様の魔力なら破壊して突破することも可能ですが、その場合はこの都市全体に警報が出ることになっています」


「一定の魔力って……そうだ。例の、ステータス偽装でゴマかせないのか」


「飛行魔法を使用中にステータス偽装のスキルは使用できません」


 まあ、それはそうか。

 ミリアの説明に、俺は妙に納得してしまった。


「つまり、まだ都市の中にいろってことだな……」


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