ソラの記憶
「どうだ、ここに間違いないか」
「うん、この広場だよ。あそこにある銅像も見た。うん、ここだよ……」
ソラの目に、じわっと涙がふくれてくる。
俺もちょっと、もらい泣きしそうになった。
偶然出会って、少しの間一緒にいて……でもなんだろう。もう、ずっと前からいる家族みたいな気がする。
前の世界の家族を失ったからかもしれない。
いつ帰れるかもわからないが、俺は向こうの世界の家族を忘れたわけじゃない。
平凡な親父とお袋、生意気な妹……でもそれはそれで、そこそこ満足していた。
だが、俺にとっては今の仲間も家族と同じだ。仮に元の世界に帰れても、また戻って来てしまうような気がする。
「お姉ちゃんの特徴とか、教えてくれるか」
「うん、名前はソニアだよ。目も髪も黒くて、すごくキレイなんだ。でも、体はゼッタイに売らないって言ってた。
それに強くて、魔力もあって……だから冒険者になるって、出て行ったんだ」
でも、ギルドの登録者の中からは見つからなかった。
言葉にはしなくても、ここにいる仲間はそれを知っている。
「でも、情報がそれだけじゃな……」
「会えば絶対にわかるよ。姉妹だもん。お姉ちゃんは約束してくれたんだ。必ず会いに来てくれるって……」
「夢の中で、顔とかは見なかったのか?」
「あの時は、ソラがお姉ちゃんになってたんだ。お姉ちゃんの見たものを見てた。だから……花を持ってた手しかわからない。お姉ちゃんの手はボロボロだった。あと、足を引きずってるみたいだった。きっと、ケガしてたんだ」
ソラは勇敢だ。
どんなに認めたくない現実でも、適当にゴマ化したりはしない。
「お姉さんが銅像の前に来た時間はわかるか。昼頃とか、夕方とか……」
「空が曇ってたから、よくわからない」
「見たのは、この場所だけなんだよな」
「うん」
情報は、これだけのようだ。
こちらから探そうとしても、目の色と名前だけじゃ手がかりが少なすぎる。
「いっそのこと、ここで待っていた方が良さそうですね」
カティアがポツリと言った。
「まあ、いいか。一時間でも二時間でも待とう。日が暮れるまででもいい。それでも来なければ明日か……そういえば、ギルドマスターにスタンピードの報告もしなくちゃいけなかったな。でもまあ、スキルで適当にゴマ化せばいいか。こうなったら長期戦も覚悟だ」
「なるほど。姫様が好きになるわけです」
カティアがクスッと笑った。
「なんだよ、それ」
「……いいんですよ。自分の体を失ったいい年のオバサンでも、きゅんとする瞬間があるってことです。私もお付き合いします。ソラちゃんのお姉さんが現れるまで、いつまででも待ちましょう」
昼近くになると、人通りも増えてきた。
特に『英雄ダルムの像』の前には列ができていた。
正面にひざまずき、コインや花を置いて祈る。ミリアの話だと、ダルムは寡黙な人格者だったらしい。魔王討伐の報酬のほとんどを、この町の孤児院に寄附したと聞いている。
そんな場所だから、全員で見張るのは目立つ。
結局、俺たちは二組に分かれることにした。
ソラとカティア、それにシルフィの3人が銅像の側にあるベンチに座り、俺とリーリアは広場を巡回する。人間に慣れていないリーリアを監視するのも俺の役目だ。
「よお、キレイな彼女を連れてるじゃないか。俺たちに貸してくれよ」
腰に剣を吊った男たちが、俺たちにちょっかいを出してきた。
傭兵か冒険者だろう。昼間から酒臭い。
実はもう、これで3回目だ。
シルフィと比べて、リーリアの方がはるかに声をかけられやすい。
二人とも現実離れした美女だが、シルフィには戦士としての『たたずまい』がある。ある程度の心得のある人間なら、並の人間では勝負にならないと感じるはずだ。
だが、リーリアにはそれがない。
最初から人間なんて気にもしていないから、殺気も警戒心もない。
「この虫ケラ、殺しちゃっていい?」
かわいい顔をして、恐ろしいことをサラッと言う。
「約束しただろう。人間を殺すのは禁止だ」
「めんどくさいなあ。でも、ショウヘイが言うなら仕方ないか……」
「ふふふ、どうした。相談は終わりか。……そもそも、そんなにどんくさい兄ちゃんじゃあ、女を満足させられないぜ。悪いことは言わないから、俺たちに乗り換えな。いいコトしてやるぜ」
パシン!
リーリアは、いきなりほっぺたを張った。
「痛えな、この野郎……」
パシン、パシン!
「て、てめえ。いくななんでも……」
パシン、パシン、パシン!
「い、いい加減にしろよ。いくら女だって……」
パシン、パシン、パシン、パシン。
「おいおい、やめてくれ。……いや、やめてください」
パシン、パシン、パシン、パシン、パシン。
「ご、ごめんなさい。どうかお許しを……」
すげえ、ちゃんと手加減してる。
その気になれば、人間なんて指一本で殺せる。それがわかっているだけに驚きだ。俺なんかより、ずっと手加減がうまい。
男たちが逃げ散ると、リーリアは甘えるように俺の腕を取った。
「どう、上手でしょう。私のユニークスキルは【人間偽装】だもの。人間のふりなんてチョロイものよ。後で、ショウヘイにも教えてあげるわ」
いや、俺。もともと人間なんだけど……。




