すべりどめ
「ベレンスキー大臣、会談のお時間です。」
「うむ、今日の日本との会談は成功させたいものだな」
私、ロシアの外務大臣ベレンスキーは大のスキー好きだ。今から日本の大臣との親交を深めるための会談に挑む。この会談をきっかけに両国の関係が良くなることを願う。
「よくおいでくださいました日野瀬大臣、私はベレンスキーです。どうぞよろしく。」
「ベレンスキー大臣、よろしくお願いします。ご存知かと思いますが私が日野瀬裕文です。ここは親睦を深めると思って私のことはにっちーとでも呼んでください。」
この日本の大臣はなかなかの変わり者のようで、どこからどこまでがジョークなのかわからないことで有名だ。このジョークかそうでないかの見極めを間違えるととても不機嫌になるのだ、外交とはなんと難しいことか。
「ははは、ではにっちーと呼ばせてもらいましょう。」
にっちーはとても上機嫌だ。よかった、ひとまず最初の関門は無事に越えられたようだ。呼び方一つで日露関係を悪化させるわけにはいかない。私はひとまずほっとした。
「それでは会談を始めます。」
会談は現在の日露問題に関することをいくつか話し合い、今後両国の利益を損なわないような合意形成を検討することとなった。日本人の政治家が使う検討という言葉には何もしないという意味があるらしいのでこの会談は成功とも失敗とも言えないだろう。
しかしまだ終わりではない。これから私とにっちーの親交を深める目的のスキー交流がある。私のスキーテクを見せつけてにっちーに尊敬の念を抱かせてやりたいものだ。
「ではにっちー、これからスキーでもどうですか?」
「いいですね、私実はスキーしたことなくて。よろしければご教授願いたいものです。」
「任せてください。では明日の日程を確認しましょう。」
このスキー交流は今回とても楽しみにしていた。なんでもアメリカと日本のトップはゴルフで親交を深めたという。私たちもそのあたりは見習いたいと思う。スポーツは国境の壁を越えるのだ。
さらにこのスキー交流、スキー場を貸切にして行われる。なによりその莫大な金は税金で賄われるのだ。人の金で滑るスキーの何と素晴らしいことか。私は明日のスキーが楽しみに思いながら眠りに落ちた。
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翌日
「大臣、今日のスキーなのですが…」
「む?何かあったのか?」
「実は、悪天候のため今日は滑れないとのことです…」
「なっ、、、」
「今回の会談ではスキーがなくなった場合の代わりとなる交流は考慮されておりませんでしたので、今回の会談はこれで終了となります。」
私はひどく落ち込んだ。とりあえず落ち込んでばかりはいられないのでにっちーに挨拶に行く。
「にっちー、すまない。今日はスキーができないそうだ。教えてあげると言ったが残念ながら叶いそうにない。」
「ハハハ!気にしてないですよ、スベレンスキーさん。」
にっちーの機嫌はとても悪かった。
後日、この日のにっちーの発言は話題となり、「スベレンスキー」は私の国際的なあだ名になってしまった。
すべりどめの大切さがわかりましたか?
ちなみにタイトルは代替案の「滑り止め」とスキーができなくなったことの「滑り止め」を掛けてみました。
スキーが滑れなくなってベレンスキーが「滑れんスキー」にされてしまいましたね。不名誉なあだ名ですが本人が我慢したので呼び方一つで日露関係は悪化したりしませんでした。