mission
from joker
依頼者: 一之瀬 一馬 17歳
今日早朝、聿河高校へ登校中に財布を恐喝される。
依頼:財布の奪還
詳細:能力の解放許可。
ターゲットには、赤いマーカーでサインされており、明日の8時45分までに依頼者の机の中へ届けよ。
それでは、依頼を遂行したまえ。
-end-
晴樹の黒い携帯電話の画面にはこのように表示されている。晴樹が心配そうに菜月に尋ねた。
「これだけ?」
「十分じゃん。マーカーでサインされてるし、すぐ分かるよ。あ、ちなみにサインはこのメールが来た人にしか見えないよ」
辺りを見渡す。しばらくすると晴樹の目が止まった。駅の近くに赤いマーカーで「target」と大きく書かれていた。
「なるほどね。少し大雑把だな」
「面白いでしょ?ターゲットに近付けば付くほどマーカーは小さくなっていくんだよ。最終的には大人一人分ぐらいの大きさになるんだよ」菜月は説明し終わると、嬉しそうに晴樹を見た。よく見るとどや顔をしていたので、晴樹は少しムカついた。
「さっさと終わらせよー。私もいっしょに行ってあげるよ、新人くん」
「ありがとうございます、先輩」
菜月の言う通り、ターゲットに近付けば付くほど小さくなっていった。
「まだ能力出ないな。コツとかあんの?」
「んー、私は最初金ちゃん走りをして能力を出したけど…」
「嘘だな」
「バレたか」菜月は少し残念そうだった。
「バレバレなんだよ。この悪趣味女」
そのとき、50m先の歩行者用信号機が点滅しているのに晴樹は気がついた。
「あっ、信号が変わる。急ぐぞ」菜月が何か言おうとしていたが、無視し地面を強く蹴った。走っている最中歩いている人達が、やたらトロく感じた。よし、間に合いそうだ。晴樹はそう呟きながら足の回転数を上げた。
「間に合った」晴樹は息を切らしながら菜月を見た。菜月は50m先でポカンと口を開けていた。
「アイツ、トロくなったな」そう言いながら横にある歩行者用信号機を見た。信号機はまだ点滅している最中だった。
「へ?」
菜月は信号機が変わるのを待ってから晴樹の所へ遅れて来た。
「今どうなった?」
「分かんない。気がついたら隣に晴樹がいなくて、そしたら、信号渡った所に晴樹がいて、何、アンタの能力ってテレポート?」菜月は興奮している。
「分かんない。ただ周りがやたら遅く感じた」今のが能力だと晴樹はやっと気がついた。
「時間を遅める能力かな?」
晴樹は依頼の事を思い出し、ターゲットを見た。赤いマーカーのサインはさっき見たときよりもひとまわり大きくなっていた。
「ターゲットが移動した。行くぞ」
晴樹は一人考え込んでいた菜月を引っ張りターゲットを追った。
赤いマーカーのサインが小さくなっていっている。近づいているのか?と晴樹はまだ考え込んでいる菜月のかばんを引っ張りながら自動販売機の前を通り過ぎた。
「この辺りは…」晴樹は携帯電話のGPSで地図を見た。
「私鉄の高架下か…」晴樹は小さな倉庫を左に曲がった。赤いマーカーのサインが大人一人分ぐらいの大きさになっていた。
「アイツか」晴樹は掴んでいたかばんを勢いよく離す。離した勢いで菜月が後ろにひっくり返りかけた。
「何?」菜月はびっくりしている。
「ターゲットを見つけた。あれだ」晴樹はマーカーの方に指差して言った。そこには、金髪の男が一人タバコを吸っている。周りに3人同様にタバコを吸いながら雑談していた。恐らく仲間だろう。
「ミッションスタート」
晴樹は勢いよく地面を蹴った。次は自分でもハッキリと能力が発動したのがわかった。タバコの灰が地面に落ちるとき、金髪の男の前に晴樹が現れた。
「財布返せ」「だ、誰だ、お前」金髪の男がびっくりしてタバコを口から落とした。晴樹はタバコが地面につく前にタバコを掴んだ。
「落としたら火事になっちゃうよ、先輩方」
金髪の男がいきなり殴りかかって来た。男の拳を難なく避けて、男の腹にカウンターを喰らわした。「かなり遅いな」
金髪の男がダウンしているのを見て逆上したのか、三人一斉に襲いかかっていた。左から、鉄パイプ、ナイフ、太い木の枝をそれぞれ持っていた。
「その戦い方は賢くないな。特に鉄パイプと枝は」そういうと晴樹は相手が動く前に鉄パイプには腹に肘を喰らわせ、枝には手の甲に持っていたタバコで根性焼きを喰らわせた。ナイフは晴樹を見失っていてまだ探していた。
「ぎゃああぁぁぁ」枝が手の甲を押さえながら喚いていた。
「近距離戦では、鉄パイプとかは振りかぶったら勝ち目が無いよ。突くならわからないけど…」
そういうとナイフの後ろから延髄をとんと叩いた。ナイフ男が気を失いその場に倒れこんだ。
「ナイフは良かったんだけど、戦い方が駄目だったね。」晴樹は金髪の男から財布を見つけて、それを自分の後ろポケットにしまった。根性焼きをされた男を睨む。男は痛みに耐えながら震えている。
菜月がスキップしながら近づいて来た。
「暴力反対ー。明日、先生に成宮くんが先輩からカツアゲしてましたーってチクってやる。写メも撮ったし…」
「勘弁してくれ。それに、元々一年生の子のだろ?」
晴樹が逃げ出す根性焼きの男を見ながら話す。
「能力者ってバレたらマズイよな?どうすんの?」
「依頼が遂行されたら裏切り者に関する記憶は無くなるから大丈夫。能力者以外ね」
「そうか。」晴樹は安心した。もしかした全員消さなければいけないのかと不安になっていたからだ。
「能力分かった?私の推測によるとね……」
「音速で動ける能力らしい」そういうと晴樹は足跡に指差した。
そこには晴樹が動いた足跡しかなく、金髪の男を始め三人は一歩も動いていなかった。
「この足跡は?大きさ違うよ」菜月が足跡を指差して質問した。
「あぁ。一人逃げた」
「ミッションコンプリート」