bloodsucker
菜月に連れられるまま10分。着いたのは人気の少ない道路だった。ガードレールもなく、人が歩いて通るには少し危ない所だ。
「あ、猫。」菜月が猫に駆け出した。晴樹も嫌嫌連れていかれた。そこに倒れていたのは、死んだ猫だった。近くにタイヤの跡が残っており、轢かれて死んだことが分かった。
菜月は近くに落ちていたクルマのヘッドライトの破片を拾ってきて猫の隣に置いた。
「見てて。」菜月は真剣な眼差しで猫に左手を当てた。次に、右手をヘッドライトへ当てた。
晴樹は驚いた。
猫の傷がみるみる治っていった。傷が全て無くなると次は、耳がピクリと動き出した。さらに、足も痙攣し始め、尻尾も動いた。
最後には目も開いて、自分で立ち上がり礼も言わずに雑木林の中に消えて行った。
猫は確かに死んでいた。晴樹は驚きながら、雑木林に消えた猫を目で追っていた。
パリン
何かが壊れた音がした。ヘッドライトの破片は粉々になり、砂みたいになっていた。
「はい、ミッションコンプリート。私の能力分かった?簡単に言うとさっきの猫の生命力は0。ヘッドライトが90ぐらいかな。結構最近に壊れたみたいだし。で、私はヘッドライトの生命力を猫に送り変えた。それで猫は90ぐらい。ヘッドライトは0ぐらいになったわけ。」
「なるほど。勉強になりました。」
晴樹は菜月が少し怖くなった。俺もヘッドライトみたいに消されるのかと想像すると顔が真っ青になった。
「どうした?顔真っ青。」心配そうに晴樹を見つめた。
「一ついい?」真っ青のまま質問した。
「人の生命力を吸ったことは?」「あるよ。」菜月は何故そんな質問をするのか分からなそうだった。
「そうか。」晴樹はそういうと俯いて喋らなくなった。
その様子を見た菜月は、質問の意味が分かり慌てて言い直した。
「半分だけ使わせて貰った。その人生きてるよ。そもそも、私の能力はあくまで治療。人殺しじゃないよ。」
「殺せ。って言う依頼が来たら殺すんだろ?」
「来ないよ。知らないの?自分の能力にあった依頼しか来ないんだよ。」微笑みながら晴樹に説明した。
「じゃあもし、俺の能力が暗殺系だったら…。」視線をまだ下に向けたまま聞いた。
「しょうがいね。諦めな。」菜月はそういうと晴樹の背中を優しく叩いた。
「そんなぁ。俺もその能力が良かった。」視線を菜月に戻して話した。
小さな子供が新しい玩具を見せびらかすように菜月が自分の能力を自慢していた。
そのとき、聞きなれない着信音が鳴った。晴樹のかばんの中からしている。
「この着信音…依頼だ。」菜月は目をキラキラさせていた。恐らく俺の能力を見て馬鹿にするつもりらしい。なんとも嫌な女だ。
晴樹は恐る恐るかばんを開けた。そこには、黒い携帯電話鳴っている。携帯電話を開いて、受信ボックスを見てみる。
「内容は?」
携帯電話の画面を見せながら話した。
「財布の奪還。」