Welcome!
マスターの話によると、成宮 晴樹君はこの日、いつもの様に遅刻し、学校へ向かっていた。ただ、いつもと違うのは、登校前にトラックに轢かれて死んだらしい。普通はそのまま天国か地獄へ逝っちゃうんだけど、選ばれて此方の世界で仕事しろって事らしい。依頼された仕事を失敗すると天国が地獄へ送られるらしい。その時、初めて此方の世界で死んだことになるらしい。で、その仕事を手伝ってくれるのが、超能力らしい。選ばれた人は必ず使えるらしいのだけど、俺はまだ見た事ない。仕事中しか超能力が使えないらしい。
晴樹は頭の中で、マスターに言われた事を慎重に整理しながら下駄箱に靴をしまった。
で、超能力者のことを「裏切り者」と言うらしい。その意味は色々あるらしいのだが、これは後にしよう。その「裏切り者」は、世界に結構いるらしく、俺の通っている聿高にも、何人かいるらしい。まぁすぐ解るらしい。
誰もいない静かな階段をだらだら上がる。廊下から他のクラスの授業をする先生の声がする。
晴樹が自分の教室のドアを開けようとしたとき、手が一瞬止まる。
「あ、言い訳。どうしよう。」考え直す時間を貰えずドアが開く。「今日はどんな言い訳だ?成宮君?」
「おはようございます、先生。」「お昼だよ。こんにちはだ。」笑っていたが、目は笑っていなかった。
「言い訳は?」またかというような顔をしながら、質問を繰り返す。
「朝、トラックに轢かれそうな中学生を助けようとしまして、それで何故かそこの喫茶店のマスターにぼったくられて…遅れました。」自分でも何を言ってるか分からなかった。
先生は笑っていた。今度は目も笑っていた。クラスメイトも笑っていた。中には、笑い声がうるさいのか貧乏揺すりしている生徒もいたが、どうでもよかった。晴樹には、何故笑っているのか分からなかった。
「で、その中学生は助かったのか?」笑いながら質問を続ける。
「勝手に助かりました。」真面目に答えた。事実だ。
さっきよりも、笑い声が大きくなる。先生ももういいと顔に書いてあった。「入れ。」席に向かうまでにあることに気付いた。さっき貧乏揺すりしていた奴が、クスクスと小さく笑っていたことに。意味はないが、むしょうに腹が立った。
席に着いたとき、後ろから女子生徒の声がした。どちらかというと男みたいな喋り方だが、多分女の子だ。
「大冒険どうだった?」
「まぁまぁかな。超能力が使えるようになったらしいし。でも、オチが悪かったな。」
「へー。どんな能力なの?」
「分かんない。」
「そう。」やけに落ち着いた声が返ってきた。
「それより菜月、朝の授業のノート見せてくれよ。え〜と、数学と現代…」
話し終える前に後ろから、ノートが三冊飛んできた。ノートには、数学、現代社会、英語と書いてあり、どのノートにも「三宅 菜月」と書いてあった。
「どうも。」ようやく俺のことが分かるようになったかと心の中で褒めた。
ノートを開くと紙が一枚折られて入っていた。開くとそこには、綺麗な字で一言書いてあった。
「裏切り者の世界へようこそ。」