coffee
チャイムの鳴る音。
少年は、はっと気がつく。
何処かの店の中らしい。天井にはプロペラが回っており、店内にはジャズが鳴り響いていた。多分、知らない人の歌だと思いながら上半身を起こした。目の前の机にはコーヒーが置かれていた。何がなんだか分からないまま、目の前のコーヒーに手を伸ばした。ちょうどいい温度で、香りもよくかったが、無糖ブラックの苦さに顔が歪んだ。
「ちょっと君には早かったかな?」カウンターから、中年男の低い声が飛んできた。
「あと、5年ぐらいしたら飲めそうですね。」
それから沈黙が続き、コーヒーを飲み終えたあと恐る恐る口を開いた。
「あのー。此処何処ですか?記憶が無いんですが…」
中年男は微笑みながら少年を見ながら話した。
「聿河高校の近くの喫茶店だよ。君、聿河高校の生徒だよね?なら知ってると思うんだけど。」
「はい知っています。毎朝通りますし。」このとき、頭の中で朝の事故の記憶が蘇ってきた。
「あれ?俺、トラックに…」
「轢かれたよ。」マスターは少年が話し終える前に、答えた。
「そして死んだ。一回ね。」
唐突すぎて何を言っているのか、少年は理解できなかった。
「あーごめんごめん。ちょっといきなり過ぎたかな?」マスターは笑いながらテレビを付けた。
テレビには、少年がさっきまでいた川沿いの道が映っていた。トラックが見事に大破していた。目撃者の証言や事故の原因などリアルに報道されていた。
でも、俺は此処に居る。
不安そうな顔でマスターを見る。「あー言わなくても分かるよ。何で俺は此処に居る?でしょ?」
そういってマスターは、携帯電話を取り出し何やら読み始めた。
「2006年9月30日AM9:02 成宮 晴樹死亡。チケットを持っていたため、hellへは逝かずに裏切り者として再び存在する。」
「裏切り者?」
「うーん。まぁ簡単に言うと超能力者だね。普通は死んだら逝っちゃうでしょ?でも、逝かずに超能力を手にして此方でもう一回生きるってことかな。で、その存在条件はこの携帯電話に来るメールの依頼遂行しなければ即サヨナラ。今ので分かった?」マスターは例の携帯電話を机に出した。
「はい。」嘘だった。全く理解できなかった。
「だから君は今まで通り、晴樹として遅刻して、学校に通えばいい。違うのは超能力で依頼遂行しなければいけないだけ。質問は?」晴樹が飲み終えたコーヒーカップを片付けながら説明した。
「あのー。俺の超能力は?」
「まだ分からない。超能力は依頼中しか出ないからね。他には?」「ないです。」また嘘だった。
晴樹は横にあるかばんを手にしながら席を立った。
「ご馳走様でした。マスター。」マスターは机を拭いていた。
「困ったことがあったら、また来な。あ、」思い出したようにマスターが口にした。
「コーヒー代、350円。」
「いい商売してる。」
そう言ってドアに開けた。
鈴の音がうるさいぐらい鳴った。