最終話 幸せ
ついにジェニエス学園を卒業した翌日……卒業パーティーで残った疲れを体に感じながら、何とか起き上がりました。
今日は重要な予定があります。その為に、私は急いで身支度をしなくてはいけないのです。
「シエル様、時間はあるので大丈夫ですよ」
「いえ。ジーク様に早く綺麗な姿をお見せしたいので!」
「わかりました。では全力で急ぎつつ、最高の仕上がりにさせていただきます!」
メイド様が数人がかりで、私のドレスやお化粧、髪のセットといった、身支度の全てをしてくれました。
「俺だ。終わったか?」
「あ、ジーク様。終わりました!」
「わかった。じゃあ先に現地に行っているから、ゆっくり来ると言い」
「わかりました!」
扉越しで会話をした私は、今日この後にある事に、心を躍らせていました。
実は、結構前からとある話をジーク様としていまして……卒業したらすぐに結婚式をあげようとしていたんです。
本人曰く、『いつやってもいいんだが、早い方がいい』との事でした。
えへへ、楽しみだなぁ。もう準備は出来てるので、あとは出発するだけですね。
「おや、シエル。とても綺麗じゃないか」
「皆様! 今日はお忙しい中、私達の為にありがとうございます!」
「大事な息子と、将来の娘の結婚式だもの」
「うむ。ところでジークを見てないか?」
「さっき来ましたよ。部屋に入らないで、先に行くと仰ってました」
「ここで花嫁を見れば良いものを」
「ジーク様の事ですから、きっと恥ずかしいんですよ。それじゃ、行きましょう!」
私達はそれぞれ馬車に乗り込むと、とある場所に向かって歩き出しました。
そこは……お母さんが眠る、あの広大なお花畑でした。
お花畑の中には、実は小さな教会が建てられていて、ベルモンド家に縁がある方が牧師をやりながら、教会と花畑の管理をしているそうです。
「お待ちしておりました。新郎様がお待ちです」
「はいっ!」
私はジーク様のいる控室に向かうと、そこにはタキシードに包まれたジーク様が立っていました。
これは非常にまずいです。このままでは、また私のドキドキが抑えきれなくなります! 落ち着いて……落ち着いて私……。
「じ、ジーク様! 凄くお似合いです!」
「シエルも良いな。その……う、美しいぞ……我が妻よ」
「ひゃ、ひゃ……ありがとうございましゅ……だんにゃしゃま……」
互いに緊張でかみかみになってしまったせいか、どちらからともなく笑いだしてしまいました。
「結婚式の日に何をしているんだろうな、俺らは」
「本当ですね! なんか、笑ったら肩の力が少し抜けました」
「それはなによりだ。今日はよろしくな、シエル」
「はい、こちらこそ。今日だけじゃなく、ずっとずっと……よろしくお願いします」
「それを言うのは気が早くないか?」
「あ、確かにそうですね! えへへ……嬉しくて、先走っちゃいました」
「そうか。シエルは……その、愛らしいな」
少し顔を赤くしながらも、ちゃんと私の事を見ながら言ってくれたその言葉。以前は私に言おうとしましたけど、恥ずかしがって逃げちゃってました。
でも、今回は逃げなかった……ジーク様も、日々成長しているんですね。本当に私には勿体ない旦那様です。
「ジーク様、シエル様。そろそろお時間です」
「ああ。それじゃ、行こうか」
「はいっ!」
私はジーク様と共に、結婚式の会場である聖堂へと向かって歩き出しました。その道中、ずっとジーク様と腕を組んでいて……これだけで幸せです。
「来たな、お前ら」
「父上、母上」
「先にジークが入場して、後から私とシエルが一緒に入場する算段になっている。本当なら、シエルの実の父上殿がやるものだが、私が務めさせてもらう」
「わざわざありがとうございます、グザヴィエ様! あ、いえ……その、お義父様!」
「……ふふっ、お前にそのように呼ばれる日が来るとは」
「あらあなたってば、泣いてるの?」
「この歳になると、涙腺が緩くなっていかんな」
「全く父上は……シエル、また後で」
「では、こちらにどうぞ。準備は出来ております。牧師と一緒にご入場をしてください」
ジーク様は、グザヴィエ様……じゃなくて、お義父様との軽口を残してから、先に式場へと入っていきました。
中からゆったりした曲が聞こえてきますね……巡礼の最中に、結婚式をしている教会の近くを通った時に、こういった曲を聞いた事があります。
あの時は、自分には一生縁のない事だと思ってましたが、まさか自分が主役になれる日が来るだなんて、いまだに信じられません。
「シエル」
「はい」
「今のうちに言っておきたい事がある」
「なんでしょうか?」
「我々を救ってくれてありがとう。ジークを選んでくれてありがとう。本当の家族になってくれて……ありがとう」
「お義父様……」
そ、そんな事をいきなり言うなんて反則です。折角お化粧してもらったのに、嬉し涙で流れちゃいます……た、耐えて私。泣くのは後で沢山すればいいから。
「ふふっ、本当に綺麗よ、シエルちゃん」
「ありがとうございます、セシリー……こほん、お義母様」
「改めてそう言われると照れちゃうわね。さあ、ベールを一回下ろすわよ」
「ありがとうございます」
「ではシエル様、グザヴィエ様。ご入場を。セシリー様はこちらから入ってお席に着いてください」
「ああ。行くぞ、シエル」
「はいっ!」
私はお義母様を見送ってから、お義父様と軽く腕を組むと、式場に入りました。すると、ゆったりした曲と共に、式に来てくれた方々の視線が一斉に向きました。
ちらっと席の方を見ると、クリス様やお義母様にココ様、ベルモンド家に仕える方々、そしてジェニエス学園の生活の中でお友達になってくれた子が来てくれてました。
こんなにたくさんの方が、私達の結婚を祝福してくれるだなんて、本当に幸せです。
「シエル」
「はい」
ゆっくりと牧師様の前に行く途中に、ジーク様と合流した私は、彼とそっと腕を組んで、再びゆっくりと歩き出しました。
「ふふっ、本当に二人共美しい。兄として、感無量だよ」
「ぐすっ……よかったね、シエルさん……」
クリス様とココ様の横を通った際に、私達にギリギリ聞こえるくらいの小声で、涙を流しながら祝福してくれました。
お二人がいなければ、今の私は絶対に無かったでしょう。本当にありがとうございます。
「足元に気を付けろ」
「はい」
いつの間にか牧師様の所についていた私は、ゆっくりと数段ある祭壇に登ると、牧師様が聖書を読み上げてくれました。それに続いて、私達への祝辞の言葉も伝えてくれました。
「では指輪の交換を」
牧師様の指示に従って、私達は互いに左手の薬指に指輪を入れあいました。
この指輪は、ジーク様と数ヶ月ほど吟味に吟味を重ねて決めた、銀色の指輪です。選んでる時も幸せでしたが、こうして改めてはめてもらうと、あの時の幸せが比にならないくらい幸せです。
「誓いの言葉に入ります。新郎ジーク、あなたはシエルを妻とし、病める時も健やかなる時も、愛をもって互いに支えあう事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦シエル、あなたはジークを夫とし、病める時も健やかなる時も、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「はい、誓います!」
思わず力が入ってしまい、声が大きくなってしまいましたが……悪い事ではないですよね。これならきっと、神様や天国のお母さんにも、私の声が届いたでしょう。
「では、あなた達の誓いを、神に示しなさい」
神様に示す……それが意味する事は、わかっています。事前にどういう流れで進行するかは伺っていますので。
……こんな人前でするのは、恥ずかしいですね。でも、そんな恥ずかしさが霞んでしまうくらい、幸せの方が勝っています。
「シエル……」
「ジーク様……」
ジーク様が私のベールを静かに上げてから、そのまま数秒程見つめあいました。
こんなカッコよくて、優しくて、素敵な旦那様と結ばれるだなんて、私はなんて幸せ者なんでしょう。
この幸せをくださったジーク様や、私を支えてくださった全ての方に、必ず恩は返さないといけません。
皆様、本当にありがとうございます。ジーク様、ありがとうございます。私、あなたの事……心から愛しています。一緒にもっともっと幸せになりましょうね。
そう心の中でそう誓いながら、ジーク様と唇を重ねました――
ここまで読んでいただきありがとうございました。これにて完結となります。
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