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第五十話 旧友との穏やかな時間

「はぁ……はぁ……!!」


 無事? に試合を見届けた私は、医務室へと運ばれたジーク様達の元へと急いで向かっていました。


 最初から最後まで怖くて怖くて……寿命が三十年くらい縮んだ気がします。何度も泣いちゃったし……って、私の事なんかどうでもいいですね。早く皆様の無事を確認しないと!


「失礼しま……ひゃあああ!?」


 医務室の扉をノックするとほぼ同時に部屋に入ると、そこでは丁度ジーク様が治療を受けているところでした。しかも、上半身裸――それを見てしまった私は、勢いよく扉を閉めました。


 ……あ、あれは事故ですから! 私、ジーク様の裸を見たいとか思ってた訳じゃないですから!


 それにしても……とても鍛えられていた体は、想像以上にボロボロでした。今日付いた傷がって話ではなく……古傷も沢山あって……きっと、強い魔法にも対抗できるように、剣を磨いてきた証拠でしょう。


「もういいですよ~」

「あ、はい……」


 なんとも気まずい雰囲気の中、私は医務室の中に入ると、そこには至る所に包帯を巻かれたジーク様と、力なく椅子に座っているクリス様の姿がありました。


 うぅ……なんて痛々しい姿……見ているだけで、あの試合が大変だったのがわかって、涙があふれ出しそうです。


「その、お怪我は……」

「私はただの魔力の使い過ぎだから、心配無いよ」

「でも、凄く疲れてますよ……」

「そうだね、さっさと帰って寝たいくらいには疲れてるかな。色々と後処理があるけど、休んでからにしようかな、あはは」


 お話している感じ、クリス様はいつも通りで安心しました。でも、ジーク様の方は……。


「……どうした?」

「元はと言えば私のせいなのに……ごめ――」

「それ以上は言うな。これは俺も兄上も、自分で考え、そうするべきだと思ってした事だ。お前が責任を感じる必要は無い」


 そのような事は、これまでに何度も言われています。皆様の優しさから来ている言葉なのも理解しています。


 でも、だからといって……ありがとうございます、そうしますだなんて……言えません。


「あのー、失礼します……」

「えっ……ココ様!?」

「シエルさん……シエルさぁん!!」


 ココ様が部屋に入ってきたと思った矢先、なんと彼女は目からキラキラ輝く大粒の涙を零しながら、私に抱きついてきました。


 何がなんだかよくわかりませんが、とにかく泣いているココ様を放っておくなんてできません。背中でも撫でれば、少しは安心してくれるでしょうか?


「ごめんなさい……私、アンドレに家族の事で脅されてて……やりたくもないパートナーをやらされてて……嫌な気分になりましたよね? 本当にごめんなさい……」

「いいえ、なってませんよ。だから、謝らないでください。こうしてまた話せることを喜びましょう」

「うぅ……シエルさぁぁぁぁん……」


 よかった……ココ様が私を裏切っていたんじゃなかったんですね。そんな事をする人じゃないってわかってはいましたが、本人の口から聞けて安心しました……。


「これで、全て終わったのか?」

「まだ終わったかはわからないよ。今回のアンドレの失態は、歴代の王族最強の称号が揺らぐ事になる。ほとんど二対一みたいな感じだったとはいえ、負けは負けだからね」

「どうなるやら……備えておいた方がよさそうだな」

「ああ。だが……今は喜び合う彼女達を見守ろうじゃないか」



 ****



 その日の夜、屋敷に帰ってきた私は、ココ様と一緒にご飯を食べたり、お風呂に入ったりして過ごしました。


 何故ココ様がここにいるのかですが、もしかしたらアンドレ様が報復として、ココ様やそのご家族に何かするかもしれないから、少しの間ベルモンド家にいたほうがいいという、クリス様の提案があったからです。


「一緒にご飯を食べたりお風呂に入ったり……なんだか、昔を思い出しますね」

「懐かしいですね~。シエルさんってば、昔から沢山食べる人だったから、用意するの大変だったなぁ」

「も、もう! そんなに食べてませんよ!」


 ……前にも沢山食べるみたいな事を、ジーク様に言われましたが……私って、そんなに大食いなんでしょうか……? うぅ、ジーク様に嫌われないでしょうか……。


「シエルさんの印象に残ってる旅した所ってどこですか?」

「そうですね……全部覚えてはいますけど……あの大瀑布は印象的ですね」


 旅の途中、次の村に行く為に通っていた山の中で見つけた、巨大な大瀑布……凄まじい迫力で怖かったんですが、その中に確かにあった美しさが、心に深く刻み込まれています。


「懐かしいですね! シエルさんが怖がって、私の手を離さなかったんですよね」

「こ、怖かったですけど、綺麗でもあったので、見たかったんです!」

「その気持ちはわかりますよ。ちなみに私は、牛の牧場で牛達に追いかけられた事ですね」

「ま、まさかのチョイスですね……もうちょっと楽しかった思い出もあると思うんですが……」

「あくまで印象に残ってる所ですからね」


 幼い子供のような、屈託のない笑顔を浮かべるココ様。巡礼の時、この愛らしい笑顔に、何度心を救われたか……あまり時間は経っていないのに、遠い過去の出来事のように感じられます。


「そういえば、いつするんですか?」

「いつ、とは?」

「ジーク様に告白、ですよ!」

「……こく、はく……ふぇ!?」


 あまりにも突拍子もないココ様の発言に、私の体は一気に熱を帯びました。きっと耳まで真っ赤になっている事でしょう。それくらい、ビックリしてドキドキしちゃったんです。


「だって、ジーク様の事が好きですよね?」

「な、なんでそれを……」

「あんなの、ちょっと一緒にいればわかりますよ~。全然見る目が違いますし、なんていうか……態度に好き好きオーラが出てるっていうか?」

「好き好きオーラ!? なんですかそれ、新手の魔法!?」

「いやいや、物の例えですから。それくらい、見てて丸わかりでしたよ。なんで本人が気づいてないのか……揃って鈍感カップル……?」

「カップルだなんてそんな……えへへ……」


 いつかはそうなりたいなぁ……付き合って一緒に過ごして、結婚もして子供も……二人くらい欲しいかな……想像するだけでにやけが止まりません。


 でも、私にそんな人並みの幸せを手に入れる資格があるのかは疑問です。だって、私はスラム出身の貧乏人……領地を持つ名家の方と結婚できる立場ではないと思うんです。


「お話中に失礼致します。旦那様がお呼びですので、至急旦那様のお部屋までお越しくださいませ」

「グザヴィエ様の……? なんでしょう……?」

「わかりませんけど、行ってみましょう! シエルさん、案内をお願いできますか?」

「任せてください!」


 私は急いでココ様と一緒に、グザヴィエ様の部屋に向かうと、そこにはベルモンド一家が勢ぞろいしていました。


 別にこうして揃うこと自体は珍しくないです。でも、グザヴィエ様のお部屋に集まった事は無いので、なんだか不思議な気分です。


「久方ぶりの友との時間を邪魔して悪かった。だが、お前達にもこの事は共有しておいた方がいいと判断し、呼んだのだ」

「いえ、お気になさらず。それでグザヴィエ様、何のお話でしょうか?」

「ああ。今しがた手に入れた情報なのだが……アンドレが国王に、勘当処分を言い渡されたそうだ」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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