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第五話 お腹が……!?

「――様」

「……すー……すー……」

「起きて――シエル――」


 お母さん……? 私、まだ眠いよぉ……もうちょっと寝かせて……。


「駄目――食事――」


 お母さんの食事……また食べたいなぁ……お母さんのスープ、具は無いけどすっごくおいしくて……誕生日とか、出立前で苦しい時に作ってくれた、あのスープ……ぐすっ……また、飲みたいなぁ……お母さぁん……帰ってきてよぉ……!


「シエル様!」

「はっ!?」


 体を揺すられる感覚に反応して、私はその場で飛び起きました。


 私とした事が、起こされるほど寝過ごしてしまうなんて! 今日はどこを回るんでしたっけ……!? は、早く身支度をして出発しないと!


「そ、そんな飛び起きてしまわれるほど驚かせてしまいましたか!? 申し訳ございません!」

「え……? あ、あれ?」


 よく見てみると、周りは森の中でも、古い宿屋でもなく……とても綺麗で立派な部屋でした。そして、私の近くには、口に手を当てて驚いている女性がいらっしゃいました。


 どうして私、こんな所に……あ、そうでした。行く所が無くてベルモンド家に来たんでした。それで……四人が部屋を後にしてから、夕食までする事がなくて横になってたら……そのまま寝てしまったんでした。


「こちらこそ申し訳ございませんでした! もしかして、夕食の準備が出来て呼びに来てくれたんですか……?」

「左様でございます。食堂へご案内いたしますので、こちらへどうぞ」

「ありがとうございます。えっと……私、ドレスのまま寝てしまったんですけど、大丈夫でしょうか……シワとか……」

「確認いたしますね……はい、この程度なら大丈夫かと。髪の乱れもございませんし……とてもお綺麗ですわ」


 そんな、私のような汚いスラム出身の女に綺麗だなんて言葉、とても似合うものじゃありません。けど……お世辞でも嬉しいですね。


「ではこちらにどうぞ」


 起こしに来てくれたメイドの方の案内の元、私は凄く広い廊下を進んでいきます。


 巡礼中に来た時も思いましたが、廊下だけでも本当に豪華で……目がチカチカします。この絨毯はフカフカですし、所々にあるツボや絵画は凄く高そうです。一つ売れば、どれほどの木の実やお魚が買えるんでしょうか……?


「失礼致します。シエル様をお連れ致しました」

「ご苦労。シエル、そこに座りたまえ」

「は、はいっ」


 食堂に行くと、既に来られていたベルモンド一家に出迎えられました。みなさん笑顔で出迎えてくれる中、ジーク様だけは無表情で腕を組んでおられます。


 私の気のせいかもしれませんが、先程よりも少し不機嫌そうに見えます。もしかして、お腹が空いてるのに、私のせいで待たされた事にご立腹なんでしょうか?


「あの、お待たせして申し訳ありません!」

「気にしなくていいよ。ジークが不機嫌なのは、せっかく疲れて寝てるシエルを起こすのは可哀想だと、私達に反発したのが原因なだけだからね」

「……兄上、余計な事は言わなくていい。シエル、食欲がなければ無理に食べなくてもいい」

「心配してくれてありがとうございます。せっかくなので――」


 ――ぐぅ~。


「いただ……き……」


 いただきますと言おうとした矢先、我先にと言わんばかりに、私のお腹の虫が鳴きました。


 は、はは……恥ずかしすぎますぅぅぅぅ!! こんな人様の前でお腹が鳴るなんて……! 顔から火が出そうです!


「……悪い、俺の腹が減り過ぎて我慢できなかったようだ」

「まあ、じゃあ早速いただきましょうか」

「え……あ、あれ……?」


 私のお腹が鳴ったはずなのに、なぜかそれがジーク様のものになってしまいました。しかも、それを言及する人は誰もいません。


 ……ジーク様……ひょっとして、私を庇ってくださったのでしょうか? 私の心配もしてくださってたし……やっぱり凄く優しい方なんですね。


 いえ、ジーク様だけではありませんよね。クリス様も、グザヴィエ様も、セシリー様も……お優しい方ばかりです。


 なんだか、お母さんの事を思いだしてしまいます。病気になる前も、なった後も、私と話す時はいつも笑顔で……暖かくて……優しくて。うぅ、思い出したら涙が……。


 だ、駄目ですよ私。ここで泣いたらまた心配をかけてしまいます。折角のお食事に水を差すような事は出来ません。


「では……せーの」

『いただきます』


 五人の声が一つに重なるのを合図に、私は早速食事を……とはいきませんでした。


 恥ずかしながら、私はテーブルマナーと言うものを知りません。なので、手元に置かれたナイフやフォークをどう使えばいいのか……。


「おい、どうした? 食わないのか?」

「あ、いえ……凄くおいしそうですけど……私、テーブルマナーを全然知らなくて……皆様のお目汚しになってしまいます」

「そんなの気にするな。誰でも最初からできる人間はいない」

「そうね。なら私が教えてあげるわ。どれから食べたい?」

「えっと……」


 大きな長テーブルにズラッと置かれた料理の中から、一つを選ぶなんて……目移りしちゃって出来ません! だって、どれも私なんかじゃ一生食べられないような、おいしそうな料理ですから!


「おい」

「は、はい!」


 しまった、あんまりモタモタしてたから、さすがのジーク様でも怒るんじゃ――


「長旅で疲れているだろう。肉を食え」

「え……?」

「何を言っている我が弟よ。疲れているからこそ、野菜を食べるべきだ」

「いや……肉だ。肉を食えば力が出る」

「野菜だ。野菜には様々な栄養がある。これらの栄養でシエルの体を丈夫にするんだ」

「肉だって体を丈夫に出来るぞ」

「それは分かるが、野菜ほどではないな」


 いつの間にか、私にお肉を食べさせるか、野菜を食べさせるか論争が始まってしまった。こんな変な争いをさせてしまって、申し訳なさしかありません。


「シエルちゃん、あの子達は喧嘩してるわけじゃないから、安心してね」


 いつの間にかシエルちゃん呼びに変えていたセシリー様は、言い合いを止める為にか、二人の言い合いの中に割って入りました。


「お待ちなさい、もう。肉だ野菜だなんて言い争ってて、ベルモンド家の跡取りとしてみっともないわ」

「……俺はただ、シエルに良いものを食べさせてたくて」

「わ、私もです母上!」

「その気持ちはよくわかるわ。だから私は助言をするわ」


 ごくりっ……この場面で一発で解決できる方法が、セシリー様にあるのでしょうか!?


「魚を食べさせなさい!」


 対抗馬が増えちゃいましたぁぁぁぁ!? 肉対野菜だったのが、お肉対野菜対魚の三大勢力になりました!


「バランスよく食べればよかろう。そうすれば色んな栄養も取れるし、味も楽しめる」


 グザヴィエ様の一言で、皆様の討論は幕を下ろしました。というわけで……私はセシリー様のサポート付きですが、お肉を切って口に含む事が出来ました。


「ふぇ……? なに、これ……」

「あら、おいしくなかった?」

「……ぶはぁ!! ご、ごめんなさい……おいしすぎて、息するのを忘れてました……」


 え、誇張しすぎじゃないかって? そんな事はありません。口に入れた瞬間に溶けてなくなり、残ったのはお肉本来の旨味に、脂身の甘さ……そして塩コショウのアクセントが、凄くマッチしておいしいです!


「それはなによりだ。そいつは俺のお気に入りでな」

「だからおいしいんですね!」

「シエル。こっちの野菜も食べてみてくれ。フォークでザクザク差して食べていいからね」

「いただきますっ! 凄くシャキシャキしてて……うわぁ、この野菜甘い! まるで果物みたいです!」

「最近採れた野菜でね。この時期はとても甘くて美味なのさ」

「じゃあシエルちゃん、このお魚も美味しいわよ。はい、あ~ん」

「あ、あ~ん……」


 わざわざ私の所にまで来たセシリー様の母性と言いますか……安心する雰囲気に抗えなくて。つい口を開けてしまいました。このお魚、凄くホロホロしてるし、脂も程よく乗ってておいしいです!


「こんなごはん、お母さんにも食べさせてあげたかった……」

「お母様は、どんな方だったのかしら?」

「お母さんですか? アンヌ・マリーヌって名前なんですけど……凄く明るい人なんです。私のお父さんを早くに亡くして、自分もつらいはずなのに、一切弱音も出さない……私の巡礼も、凄く心配してたんですけど……送り出す時は笑顔で小さな横断幕まで作っちゃう……そんな人でした」


 だ、駄目だ……思い出すと涙が出てきちゃう。それくらい、お母さんと過ごした思い出の数は、簡単に語れるものじゃないです。


「そんな素晴らしい人を、王子が……気に入らん」

「全くだ。同じ人間とは思えないね」

「お前ら、気持ちは重々承知してるが、大恩人との再会を祝した夕食なのだから、もう少し静かに食べなさい」

「ああ。そうだシエル、困った事があったら、何でも頼れ。力になる」

「ありがとうございます。じゃあ早速……このお肉の塊はどうすれば……」

「ああ、それはな……」


 ベルモンド家での初めの夕食は、大変有意義な時間になりました。食べ物もおいしかったし……この味を、お母様にも味わってもらいたかったなぁ。


 ……お母さぁん……寂しいよぉ……もう一目でいいから、会いたいよぉ……ぐすんっ……。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


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