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第四十二話 帰ってこい

■ジーク視点■


「なんだ……これは……!」


 寝る前にシエルと話をしようと部屋に来たら、ノックに反応が無かった。この時間はいつも自室にいるのに、いないなんておかしい……何かあったのかと思い、部屋に入ると、そこにシエルの姿は無かった。


 代わりにあったのは、一通の手紙だけだった。


『皆様、この度は私の勝手な行動をお許しくださいませ。私がいると、皆様にアンドレ様からの報復を受けてしまう可能性がございます。私はそれを望みません。ここは私にとって、第二の家と家族です。そんな方達が、私のせいで苦しむのを見たくないです。本当は……回復術師になって、恩返しをしたかったのですが、このままでは逆効果になってしまいますので……お別れが最後の恩返しです。皆様、大変お世話になりました。本当に……本当に幸せでした。 シエル』


 手紙を読み終えた俺は、あまりに怒りで手紙をぐしゃぐしゃに握りつぶしていた。


 何を勝手に決めている! 俺達はアンドレの報復程度で倒れる程、やわな家じゃない! 向かってくるというなら、全て叩き潰してやる!


 それになんだ!? 別れが恩返しになるわけないだろ! むしろ恩を仇で返している! これで喜ぶ奴は、この屋敷には誰もいないぞ!


「とにかく探さないと……おい! 兄上や父上達に事の顛末を伝えて、捜索隊を派遣してくれ! まだ遠くに入ってないはずだが……この雨だから、周りに気を付けろ!」

「わかりました!」


 シエルのお付きのメイドに任せた俺は、即座に窓から屋敷の外に出て捜索を開始する。外はまるでシエルの悲しみを表しているように、強い雨が降っていた。


「一体シエルはどこに行ったんだ?」


 考えろ……考えろ俺! 再会してから、俺はずっとシエルを見てきた。シエルの事なら、大体の事がわかっているはずだ!


 シエルが屋敷を出て頼る所……行きたくなる所……そんなのかなり限られているはず……そうか!


「もしかしてあそこか……? 徒歩で行くにはそれなりに距離があるが……闇雲に探すよりかは……」


 自分の推理に望みを託して、俺は山の中へと入っていった。夜で暗いのに加えて、雨も降る森は驚く程暗い。ランプの明かりが無ければ、進む事は困難を極めただろう。


「シエル……シエル……!」


 シエルの後を追いながら、強い後悔に襲われていた俺は、強く拳を握りし閉めていた。


 優しいシエルが交流祭の事を聞いたら、自分のせいだと思うのは、火を見るよりも明らかだったのに、俺はそんなのを気にせずに兄上と話をして……くそっ! 自分の迂闊さが腹立たしい!


「……あれは……シエル!」

「え……ジーク様?」


 シエルの後を追ってしばらく歩いていると、びしょ濡れになりながら、母親の墓の前で立ち尽くすシエルの姿があった。


 その姿はあまりにも弱々しくて……今すぐにでも消えてしまいそうな儚さがあった。


「どうしてここに……?」

「あの手紙を見て、お前の後を追ってきた。屋敷以外に行く所は、ここしかないとおもってな」

「凄いですね……ジーク様は何でもお見通しですね」

「お前、一体何を考えている?」

「何って……そんなの決まってますよ。ベルモンド家の皆様の幸せです。皆様とっても優しくて、私のような人間を迎え入れてくれました……でも、私がいたら……不幸になってしまいます」

「…………」

「だから私は……また旅に出ようと思うんです。その前に、お母さんに最後のお別れをしておこうと思って……」

「ふざけるな!!」


 シエルの言っている事に我慢が出来なくなった俺は、シエルの肩を強く掴みながら、思わず声を荒げてしまった。いや……もはや怒声と言っても過言ではない。それくらい、俺はシエルの気持ちを肯定する事が出来なかった。


「勝手に決めつけるな! お前が思っているほど、俺達ベルモンド家は弱くない! それに、お前がいなくなったら幸せになると、本気で思っているのか!?」

「っ……でも……でも……!!」

「何度言わせればわかる!? 俺達はお前に幸せになってほしいし、恩を重荷にしてほしくない! 今のお前は、本当に幸せなのか!?」

「私……幸せ……うぅっ……」


 気まずそうに俺から顔を背けていたシエルは、その大きな瞳から大粒の涙を流しながら、俺に救いを求めるように見つめてきた。


「嫌だよぉ……みんなと一緒に過ごして幸せだったのに……離れたくないよぉ……! でも、みんなが私のせいで不幸になってほしくない……! 私……どうすればいいの……!?」

「そんなの簡単だ。俺達を信じて、いつも通り過ごせばいい。俺達はお前を守り、お前の信頼を絶対に裏切らない。それが……大恩人への恩返しであり、新しい家族への愛情だ」

「ぐすっ……ジーク様……ジーク様ぁ……!」

「シエル……」


 俺の胸に体を預けてきたシエルの事を、優しく抱きしめて受け入れる。この雨のせいで冷え切っているシエルの体と、悲しみによって冷え切った心を、俺の熱で温める為に。


「あ、いた! おーいシエルー!」

「ああよかった……! もし何かあったらと思って、凄く心配したのよ!」

「グザヴィエ様……セシリー様にクリス様……使用人の方々まで……!」


 背後から、もう聞き飽きたくらい聞いた声が聞こえてきた。そこには、雨の中傘も差さずにずぶ濡れになっていた、俺の家族と使用人達だった。


 全く、最近は夜は冷えるというのに、揃いも揃ってずぶ濡れで……俺も人の事は言えないが。一緒に住んでいると、変な所も似てしまうのは困りものだ。


「よくここがわかったな」

「うむ。セシリーが、シエルならここにいるのではないかと予測をたてて、クリスにこの周辺を魔力探知させたところ、シエルの魔力を探知したのだ。なんにせよ、無事でなによりだ」

「その……ご心配をおかけして申し訳ありません……でも、私がいたらベルモンド家は……」

「話は大体聞いているわ。ベルモンド家の事は気にしなくていいのよ。こんなの、ピンチの内にも入らないしね」

「シエル、君が本当に心の底からベルモンド家との繋がりを断ちたいというなら、我々はそれを尊重する。でも、今の君にはそんな事は望んでいないというのは、全員がわかっているんだ。だから……戻ってきてくれないかい?」


 母上と兄上の優しい言葉の前でも、シエルはうんと言わない。一体どうすれば……後もうひとつ、背中を押せるものがあれば……。


「……戻ってこい、シエル。俺はお前のいない人生は考えられない」

「っ……!」


 至極単純な願いなのは重々承知だ。だが、俺の頭に浮かんできたのは、これだった。変に小難しい事をダラダラ並べるよりも、俺の気持ちを伝えるには適していると思う。


「戻ってくるなら、俺のこの手を取れ」

「…………本当に、いいんですか……? これから先、アンドレ様からどんな嫌がらせを受けるか……わかりませんよ? それでもみなさんいいんですか?」


 不安そうに俺達を見るシエルの体は、小刻みに震えていた。俺はそれを止める為に肩をそっと抱くと、少し震えが止まってくれた。


「家長として、大恩人シエルを守るのは至極当然! 我々の事は気にしなくても良いから、安心して過ごすといい」

「私達は、あなたの事が大好きなの。もう家族と思ってるくらい。恩人とか、そういう堅苦しいのを抜きにしてね。だから……私はあなたに戻ってきてほしいのよ」


 セシリー様は、とても優しい抱擁で、私の事を包んでくれました。雨で濡れて冷たいはずなのに、心も体もポカポカしてきたように思えます。


「やれやれ、私の言いたい事を二人に取られてしまったよ。ジークはちゃんと伝えられたかい?」

「ああ、問題無い」

「ずいぶん強気だな? 私たちが来る前に、何を話したんだい?」

「答える必要は無い。いや、そんな事より……シエル、どうする?」


 シエルはその場でペタンと座り込むと、ポツリポツリと話し始めた。


「私……今までずっと考えてました。助けてもらった恩を、どうやって返そう……そればかりでした。最初は学園に入って、ジーク様を一人ぼっちから助ける……これは簡単に終わりました。次に回復術師になって、誰でも回復できるようになれば……家の人も、領地の人も助けられる。まさに最高の恩返しです!」


 そこで一度話を区切ったシエルは、大きく溜息を吐きながら、更に言葉を続けた。


「でも……アンドレ様との再会をきっかけに、私は嫌がらせをされて……ジーク様とクリス様を巻き込みました。それに、あの黒い人に襲われた時も……交流祭の事も……全部、全部私がいなければ、起こらなかった事なんです。だから、出ていけば解決するかもって……」

「シエル……お前は……」

「でも、それは間違ってたんですね……私ってば、いつも間違えてばかり……こんな私でもよければ、これからもよろしくお願いします……!」


 先程までの悲しそうな顔から打って変わり、シエルはヒマワリのような明るい笑顔を浮かべながら、俺の手を取って立ち上がるのだった――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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