第四十話 非道たる王子
■アンドレ視点■
今日は作戦決行日。うまくいけば面倒な連中を一網打尽にし、それなりの結果でも、回復術師の試験には間に合わない。なぜなら、オレ様の権限で時間を変更させたからなぁ!
あいつら、今頃どんな顔をしてるんだろなぁ……うへへへ……間に合ったと思ったら、実はどう足掻いても間に合っていなかったと知った時の、絶望した顔! 近くで堪能したかったなぁ……!
「アンドレ様、彼がお見えです」
「通せ」
汚い執事の案内の元、謁見の間には一人の男が入ってきた。黒のローブに包まれて、いかにも怪しい魔法使いだと演出している。くだらなすぎて欠伸が出そうだ。ふぁ~。
「それで、どうだった? 結果を言え」
「……ベルモンド家の足止めには成功。触手を用いた洗脳には失敗いたしました」
「そうか。闇魔法の使い手と聞いて、期待をしていたんだが……この程度か」
「相手が想像以上の使い手だったんだ! あんなバケモノ相手に、影人形じゃ太刀打ちできない!」
「言い訳を言えとは言ってねーんだよボケ!」
生意気にオレ様にたてついてきたこいつの腹に、思い切り蹴りをお見舞いしてやると、うめき声をあげながらその場で膝をついた。
オレ様の期待を裏切ったこいつには、用事もなければ慈悲もねえ。蹴り飛ばした程度、何の問題も無いな。何故ならオレ様が偉いからだ!
「てめえ、行く前に言ったよなぁ? 俺なら出来るって! だから報酬をたんまり用意しろと! それがこの体たらくだぁ? 王族舐めんじゃねーぞ!」
「も、もう一度チャンスをくれ! 今度こそ――」
「今度? てめえ、面白い事を言うじゃねーか。てめえにはもう明日は来ないってのによ」
「なっ……どういう……なんだこいつら!?」
密かに背後に回らせておいた兵士達に囲まれた魔法使いは、首に大きな石をはめ込まれた。これでこいつはもう終わりだ。
「そいつは封魔石っていってな。対象の魔力を石に封印してしまうんだよ。それがどんな属性の魔法でもなぁ」
「封印って……俺の闇魔法を横取りする気か!? 貴様、わかっているのか!? 闇魔法は強力すぎて、一度契約すると二度と闇の魔力と離れられないのを!」
「おう、知ってるぜ? これでも天才だからな。だからどうした?」
「どうしたって……貴様……!」
「これから楽しい楽しい実験タイムとしゃれこもうじゃねーか! 闇魔法を奪われて封印されたらどんな反応をするのか、見ものだなぁ! ギャハハハハハハ!!」
――その後、謁見の間から、地獄から逃げ出そうとしているような悲鳴、楽しそうに笑うオレ様の声、そして……液体がびちゃびちゃと飛び散る音や、潰れるような音が聞こえたと、兵士が言っていたのを聞いた。
外に聞こえたのとか、どうでもいいぜ。オレ様は最高に楽しかったからな! あんな風な反応になるとは想定外だった……今思い出しても、興奮で身震いしてくる!
っと、これもなかなか良かったが、実はオレ様にはメインディッシュが残っている。この事は、数日後に交流祭の会議で話すつもりだ。
表向きは楽しい楽しい交流祭だが、このメインディッシュには真の目的がある。
そのメインディッシュとは……公式の場で、オレ様がベルモンド家を……あの兄弟をぶちのめすという、最高に楽しみな事だ。
くくくくっ……シエル。心の拠り所を無くした時の顔って、どんな顔だ? きっと最高に綺麗で、最高に笑えるんだろうなぁ……今から楽しみで仕方がねえよ……早く交流祭の日が来いよ……ハハハハハっ!!
****
「…………」
回復術師の試験を受けられなかった日から少しの時が経ちましたが、私はいまだに立ち直れず、ぼんやりと過ごす毎日を送っていました。
また頑張って、次の回復術師の試験にチャレンジすればいいのでしょうが……また邪魔が入る可能性もありますし、ベルモンド家の皆様に多大なご迷惑が掛かってしまう可能性もあります。
……私、どうすればいいんでしょう。そんな答えの出ない事をずっと考えながら、こうしてぼんやりと過ごしています。
「では今日のホームルームはここまでです」
「…………」
「シエル、帰るぞ」
「……あれ?」
さっきまで授業を受けていたと思っていたのに、気付いたら帰りのホームルームが終わっていました。
「おいみんな! 交流祭のメインが決まったってよ!」
「え、何々教えてよー!」
……? なんでしょう、教室が凄く賑わっています。今教室に入ってきたクラスメイトの男子が、交流祭のお話をしていたような……?
「武闘大会だってよ! ジェニエス学園とゲール学園で代表を出して、交流戦をするって!」
「なに……? 武闘大会だと……?」
「あの、武闘大会って?」
「以前話したが、交流祭のメインになる催しは、毎年変化する。その中の一つであるのが、武闘大会だ。互いの学園から希望者を募り、剣と魔法を用いて戦う」
な、なるほど。ジーク様の説明のおかげでざっくりとですがわかりました。でもそれって……。
「……凄く危険じゃないですか? 怪我人が出ますよね?」
「出るな。だから最近は好まれない傾向にあったのだが……兄上に事情を聞きに行こう」
「は、はい」
私はジーク様と一緒に、急いで教室を後にして生徒会室へとやって来ました。中に入ると、役員の皆さんが忙しそうに働いていました。
「おや、二人揃ってどうかしたのかい?」
「兄上、今回の交流祭の事で話がしたい」
「ああ、来ると思っていたよ。この書類だけ片付けるから、隣の会議室で待っててもらえるかな?」
「わかった。シエル、行くぞ」
「はい」
言われた通り、隣の会議室で大人しく待っていると、三十分程経った頃にクリス様がやって来ました。その表情は、少し疲れているようにも見えます。
「待たせて悪かったね。交流祭に向けて準備する事が多くて参っちゃうよ」
「その、お疲れ様です……」
「ありがとう。さて、本題に入ろうか」
「ああ。何故今年のメインが武闘大会なんだ? 過去のデータを見る限り、十年以上は選ばれていないものだ」
「別に問題無いだろう? 過去に何度も行われてきたものなのだから」
「とぼけるな」
ジーク様は眉間に深くシワを刻みながら、更に言葉を続けます。
「単刀直入に聞く。今回の件の提案は、アンドレからだな?」
「えっ!? どういう事ですか!?」
「簡単な事だ。あいつが三度にわたってシエルに絡んできたのは明白だからな」
三度……? 何かアンドレ様が関わっていたのがわかるような件があったでしょうか……? うーん……今まで直接アンドレ様が出てきたのは、ジェニエス学園でお会いした時だけのような?
「クラスメイト達がシエルに暴力を振るった件。あれは恐らくジェニエス学園に来ていたアンドレに唆されたのだろう。時期的にも合っているしね」
「回復術師の試験の妨害も、クラスメイトがアンドレに情報を流したのだろう。試験開始時間も、アンドレの権力があれば変える事も不可能ではない」
「な、なるほど……もし仮にそうなら、どうして私に固執するのでしょうか?」
「さあな。捻じ曲がった思考の人間の考える事は、俺達には理解できない」
「そうだね。そして今回の件だけど……僕の見立てを話すよ」
ふぅと浅く息を漏らしつつ、困った様に笑うクリス様の口から出た言葉は、私にとって……あまりにも衝撃的でした。
「彼は公の場で私達を叩き潰し、ベルモンド家の面目を潰しながら、私達をシエルから引かせるのが目的なのだろう。シエルといれば、痛い目に合うぞ……とね。下手したら、合法的に僕らを抹殺する気かもしれない」
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