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第三十九話 決着後

 核を貫かれた敵は、そのまま音もなく崩れ去り、黒の粒子となって消えていきました。何とも不気味で、綺麗な粒子の中ですけど……そんなのが気にならないくらいの事が、目の前で起こってました。


 そう、あれだけ大きな黒い人の近くにいたジーク様が、力なく落ちていってるんです。あのままじゃ、地面に激突してしまいます!


「大丈夫だよ。ああなるのは予想してたからね」


 優しく微笑むクリス様は、地面に手を当てると、ジーク様のいる場所の真下から、大きな氷の塊を発生させました。その氷のおかげで、ジーク様が高い所から地面に激突するのを防ぎました。


 うっ……あ、あれも痛そうですけど……そこまで高さが無い状態で氷に落ちれたから……まだマシ、なんでしょうか?


「よし、とりあえず氷に落ちたようだ。今氷を減らして降ろすから待っててくれ」


 クリス様が指をパチンっと鳴らすと、目の前の氷が徐々に小さくなっていきます。そのおかげで、ジーク様はなんとか地上に戻ってくる事が出来ました。


 降りてきたジーク様は……体中に細かい傷だらけですし、所々腫れてますし、服もボロボロです。それに、よほど疲れたのか、腰を下ろして息を荒くしてました。


 こんな痛々しい姿になって……きっとつらかったでしょう。そう思うと、自然と涙が零れてきました。


「ジーク様! 大丈夫ですか!? お怪我は!?」

「問題無い」

「嘘を言わないでください! 今すぐ治療しますから!」

「いや、だからお前はまだ回復術師ではないのだから……おい!」


 私を止める声を完全に無視して、回復魔法を発動させます。そのおかげで、ジーク様の体はすっかり元通りになりました。さすがに服までは戻せませんでしたが……。


「これでよし。もう大丈夫です……!」

「シエル、君は……」

「これがいけない事だって分かってます。でも……目の前で大切な人が傷ついているのに……治せる力を持っていて治せないなんて、そんなの納得できません!」


 ジーク様の体にもう怪我が無いかの確認をしてから、私は立ち上がってから頭を深く下げました。


「国の法を知っていながら、私は回復魔法を使いました。どんな罰でも受けますので……」


 私、どうなっちゃうのでしょう。捕まって、牢屋に入れられてしまうのでしょうか。それとも、法を破った罰で死刑かもしれません。


 でも……それでもかまいません。大切な人を助けられない苦しみよりも、私は法の罰を受ける方を選びます。


「……回復魔法? 何の事かな? 私は何も見ていない。あなたもそうだろう?」

「はい。お二人が謎の敵を相手に無傷で勝利した……私はそう記憶しております」

「兄上はあまり偉そうに言える立場ではない気もするが……」

「野暮なことは言うものじゃないよ。ところでジークは何か見たかい?」

「いや、特に無い」

「……なんで……どうして……」


 誰一人私を責めるどころか、とぼけたフリをして私を庇おうとしてるのが見え見えです。どうしてみなさんはそんなに優しいんですか? 私には、そこまでしてもらうほどの資格は……。


「さあ、泣いている暇は無いよ。今から急いで会場に行けば、試験を受けられるかもしれない」

「試験……そうだ、忘れてました。目の前の事で頭がいっぱいで……」

「俺が送っていく。兄上達は先に屋敷に戻っていろ」

「そんな、御者の私がお連れ致します! ジーク様は屋敷でお休みになられてください!」

「俺の事は気にするな。こんな荒事に巻き込まれたお前の方が先に休め」

「それが良いだろうね。正直私も魔力の使いすぎて立っているのがやっとだし、帰って近隣の被害について父上と話をしなければ。それと、先程の敵についても」

「わかった。帰ったら俺も手伝うから、それまで頼む。シエル、行くぞ」


 嬉し涙を流していると、ジーク様にやや強引にお馬さんに乗せられてしまいました。


 お馬さんも、こんな怖い状況でずっと頑張ってくれてたんですね。本当にありがとうございます。


「乗ったな。出発するぞ」

「ひゃう!?」


 ジーク様もお馬さんに乗ると、私の後ろに座り、私が落ちないように包み込むように腕を前に出してました。


 わ、わかってますよ!? こうしないと手綱が握れませんし、小柄な私を腕で支えられるから落ちないですし!


 でも……でも! こんなの色々と感情が混ざって、爆発しそうです! 嬉しい気持ちや、恥ずかしい気持ちや……よくわからないムズムズや……ああもう、訳がわからないですぅぅぅぅ!!


「ジッとしてないと舌を噛むぞ。行けっ!」

「ヒヒーン!」


 お馬さんは大きく嘶くと、目的地である試験会場へと向かって走り出しました。かなりの速度が出ているからか、私は怖くてジーク様に体を預けてしまいました。


「大丈夫だ。ちゃんと目的地まで送る。もしまた変な連中が襲ってきても、全て斬るから」

「ジーク様、本当に体調は……」

「ああ、不思議と急に良くなってな。運が良かったのかもしれない」

「…………」


 この調子では、何度聞いてもとぼけられてしまうでしょう。それなら、今は謝るんじゃなくて……。


「ありがとう……ございます」

「……ああ」


 手綱を握る両手にそっと手を添えながら、私は感謝の言葉を伝えました。


 本当に私はダメダメですね。もっと早く立派な回復術師になって、一人前にならないと、ベルモンド家の方々にご迷惑をかけっぱなしです。


 よーし、試験を終わらせたらまた勉強をしよう! 回復魔法には役立たない知識も、持っていて損はないですもんね!


「森を駆け抜ける。口を瞑ってないと変なの食うぞ」

「それは嫌です! む~!!」


 宣言通り、お馬さんは森の中を果敢に進んでいきます。途中で大量の葉っぱや枝が襲い掛かってきますが、ジーク様の腕が壁になって守ってくれたので、私は無傷でした。


「よし、近道をしたからもう到着したぞ。受付はあっちだ」

「はい!」


 色々あったけど、何とかたどり着く事が出来ました! 目の前には、ベルモンド家に負けないくらいの、大きな建物が建っていました。


 正直、あの出来事のせいで覚えていた事が結構飛んじゃったんですが……なんとかなりますよね!


……そう思っていた私に、悲劇が襲い掛かってきました。


「え……もう受付を終了……?」

「そんなはずはない。ギリギリだが、まだ数分はある!」

「上からの指示で、三十分早めに始めました。なにがあっても対応できるように、早めに来るのは常識ですよね?」

「こっちはトラブルがあってな……!」

「それはそちらの都合ですから。嫌なら次はトラブルを混みで来るように。さあ、帰ってください」

「くっ……!」

「ジーク様、帰りましょう……」


 まだまだ噛みつきに行こうとするジーク様をなだめながら、私はさっきのお馬さんに乗りました。


 ごめんね……何度も乗っちゃって……疲れちゃうよね。帰りはゆっくりお散歩気分でいいからね……。


「ちっ……時間稼ぎがうまくいかなくても、時間を早めて絶対に参加させないつもりだったのか……! どこまでも小癪な……!」

「し、仕方ありませんよ。遅れたのは事実です、し……ほら、帰りましょう!」


 涙声になりそうなのを我慢しながら、自分の後ろに乗るように促すが、ジーク様は先程と違って私の前に乗りました。


 いつもなら背中が大きいって思える余裕があるのですが、あんな敵と戦うのを見た後に、試験を受けさせてもらえなかったショックで、そんな浮ついた事を考える余裕はありませんでした。


「しっかり捕まれ」

「え、はい……」


 私は言われた通り、ジーク様の背中に抱きつきました。とても大きくて、暖かな背中。いつもならドキドキしていたでしょうが、今は……ただ悲しくて、悔しくて……涙が零れるだけでした。


 でもいいですよね。ここなら声を殺して泣けば、ジーク様にバレませんし……。


「うっ……」

「俺は何も見てないし、聞いていない」

「ジーク様……?」

「だから好き勝手してて構わない」

「……ぐすん……う、ああ……うわぁぁぁぁぁぁん!!」


 乱暴だけど、私を心配してくれている言葉。それがジーク様の優しさの象徴のようで……優しさが嬉しくて……でも同時に迷惑をかけて、期待にも応えられなかった事が悔しくて……グチャグチャでした。


「どうしてこうなっちゃうの!? 私はただ、皆さんに幸せになってほしくて……回復術師になりたかっただけなのに……どうしてジーク様達が傷つくの!? これじゃ本末転倒じゃないですかぁ……どうして……なんでなんだよぉ!! うわぁぁぁぁぁぁん!!」


 私はまるで子供みたいに気持ちを爆発させながら、大声で泣き叫びました。


 生まれてから、こんな大声で泣いた経験がありません、スラムにいたらうるさいと言われ、巡礼中は弱音を見せるわけにはいかなかったですから。


 でも、もう止まりません。声は出るし、涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃ。きっとジーク様のお洋服も更に汚れてしまったでしょう。


 はあ……ついてない時はとことんついてないです。本当は、次を目指して頑張ろうってなるんですけど……ちょっといろいろあって疲れたので……今日は帰って休もうと思います。


 多分、寝付けなくてベッドの中ですすり泣く事になるとは思いますけど……ぐすっ。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


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