第三十六話 何者かの襲撃
襲撃。そのあまりにも物騒な単語に内心怯えながら、私は窓の外を見ると、人型ではありますが、全身を黒で塗りたくったような、正体不明の生き物に囲まれてしまってました。
あんな生き物、巡礼をしてる時ですら見た事がありません。そもそもあれって生き物なんでしょうか?
「ジーク様、あれは!?」
「断定はできないが、魔法によって作られた何かだろう。俺が何とかするから、お前らはここで待っていろ」
「そんな、危険です! 私も戦います!」
「……シエル様。戦えない我々が出ていっても、足手まといになるでしょう」
「うっ……」
御者様の仰る事も理解できます。むしろ、私が言っている事の方が、間違っているのでしょう。
でも……でも! はいそうですかって素直に納得して、好きな人を危険なものの前に送るなんて……!
「俺は大丈夫だ。あんな連中はさっさと片付けて、試験の会場まで送っていく」
「……わかりました。絶対に無事に帰ってきてください……!」
私はジーク様の手を取りながら、ジーク様が無事に帰ってくるように、自分が出来る限りの祈りを込めました。
こんな事をしても、きっと意味は無いでしょう。でも……何かほんの少しでもジーク様に何かしてさし上げないと、不安で頭がおかしくなってしまいそうなんです。
「ああ。行ってくる。もし奴らが侵入してきたら、躊躇なく俺を置いて逃げろ。シエルとお前の安全が第一だからな」
「かしこまりました……シエル様の事はお任せくださいませ」
御者様に私の事を任せたジーク様は、勢いよく馬車の外へと飛び出すと、鞘から剣を抜きました。
キラリと刃が光る剣を構えているジーク様は、大変美しくて見惚れてしまいそうですが……この姿を、安全な場で見たかったです……。
「……シエルの大切な試験の日に襲ってくるなんて、随分とふざけた輩だ。さあ……斬られたい奴から前に出ろ。全て相手してやる!」
『ア……アァ……』
ジーク様が戦闘態勢に入ると、黒い人達はうめき声を上げながら、ジーク様に接近していきました。
なんて恐ろしい声……まるで地獄の底から這いあがってきたような……聞いているだけで身震いしてしまいます。
「舐められたものだ……そんな直線的に来るとはな」
それは一瞬でした。ジーク様が剣を振り上げたと思った瞬間、既に剣は振られていたのか……ジーク様の目の前にいた黒い人達が、真っ二つになっていました。
血は出ませんでしたが、その光景があまりにも衝撃的で……私は思わず両手で目を覆い隠しました。
「よし……さすがジーク様! この調子なら……なっ!?」
「ど、どうしたんですか……?」
暗闇の向こうで、隣に寄り添ってくれていた御者様の呆気に取られた声が聞こえてきます。それを聞いて外が気になった私は……おそるおそる手をどけると、斬られたはずの黒い人達が、元の形へと集まり……再生しました。
血も出ない、斬られて即再生する……どう考えても生き物とは思えません。やはりあれは、魔法で生み出された何かなのでしょう。
でも、それならどうして私達を襲ったのでしょう? ベルモンド家に恨みがある方の仕業? それとも、私個人に恨みを持っている方?
……ううん、そんなのは後で考えれば良い事ですね。今はとにかく、ジーク様が無事に帰ってくるように、祈り続けましょう……。
「面白い。それならば……何度でも斬り捨ててくれる!」
ジーク様は、一歩も引かずに黒い人達を何度も斬りますが、その度に再生されてしまっています。
見た感じ、あの黒い人達は強くはないみたいですが、再生されるのが凄く厄介です。あれさえなければ、ジーク様の相手にならないのに!
「雑兵も、これだけいると鬱陶しいな……数は、二十はいるか。いずれは馬車の方に向かっていくだろうから、なるべくそれまでに、攻略の糸口を掴まないと……!」
「え? えぇ!?」
まさに一瞬、一刀両断とはこの事でしょう。ジーク様は一度剣を鞘に戻してから、勢いよく剣を横振りにする事で、周りを薙ぎ払いました。当然、巻き込まれた黒い人達は真っ二つです。
これは今度こそ決まったのでは……そう思った矢先、またしても再生してしまいました。しかも、敵わないと悟ったのか、一部の黒い人達が融合して、大きな黒い人になりました。
大きさは……人間の三倍くらいの大きさはあるでしょう。あんなのに踏まれたら、きっと大怪我じゃ済まないです!
『ア……アァァァァァァァァ!!!!』
黒い人は、ターゲットをジーク様から私達へと変更したのか、黒いのっぺらぼうな顔を向けました。そして、その大きくなった手を伸ばしてきました。
「ここにいたらマズイ! シエル様、脱出しましょう!」
「は、はい!!」
このままでは馬車ごと潰されてしまうと判断した私達は、急いで馬車から逃げ出します。それから間もなく、馬車は大きな黒い人に潰されて、バラバラにされてしまいました。
うぅ……せっかく用意してもらった馬車が……! 幸いにも、御者様やお馬さんが無事なのが、せめてもの救いです。
「狙いを変えてきたか……!」
『アァァァァァァァ!!』
「させると思ったか!」
ジーク様が私達を助ける為に、急いで走ってきてくれましたが、その道を阻むように、同じくらいの大きさの黒い人達が前に立ちはだかりました。
あれでは前に進めません。かといって、私達がジーク様の所に行こうにも、大きな黒い人に潰されるのがオチでしょう。
「早く逃げろ! 俺の方は気にするな!」
「でも!!」
「黙れ! お前らがいると邪魔だ! 失せろ!!」
「っ……!!」
いつもクールな事が多いジーク様にしては、あまりにも違和感のある罵声。その言葉には、一秒でも早く私達を逃がしたいという、悲痛な叫びに聞こえました。
……ジーク様をこんな危険な場所に置いていくなんて、胸が張り裂けそうな思いですが……少しでもみんなが生き残れる未来を目指さなければ!
「御者様、ここは逃げましょう! きっとあの大きいのは追いかけてくると思いますが……ジーク様の時間稼ぎと、負担を減らす事は出来ると思います!」
「……そうですね。賢明な判断かと」
「じゃあ行きましょう! そうだ……あなたもここから逃げて、何処かで幸せに生きて」
「…………」
こんな恐ろしい場所でも逃げずにいてくれたお馬さんに言葉をかけてあげると、お馬さんは嘶いてから、私と御者様を背中に乗せました。
これ、私達の為に……ありがとう、お馬さん! 無事に帰れたら、たくさんニンジンをプレゼントしますね!
「私にお任せください。シエル様、大変恐縮ですが、振り落とされないようにしがみついていただけますか?」
「わかりました」
言われた通り、私は御者様に抱きつくと、お馬さんはここから離れる為に走りだしました。ですが、他の黒い人達が私達の行く手を阻みます。
ジーク様もまだ全員片付けられていない様子です。そして、もちろんあの大きな黒い人も……私達へと接近してきます。
うぅ、もう駄目なんでしょうか……私はこんなわけのわからない、黒い人に殺されるんでしょうか?
「あれ……?」
ここでもう終わりと思った矢先、私の持っていた石が強く輝いていました。
この感じ……もしかして……体育館裏の時と同じ!? もしそうだとしたら……私の思い、届いて!
「お願いクリス様! 聞こえてるなら返事してください! 今、変な黒い人達に囲まれて、ジーク様が戦っています!もう試験とかどうでもいいから、ジーク様と、御者様と、お馬さんを助けてあげて!」
「……その気持ち、受け取ったよ。麗しき聖女様」
「あっ……!!」
掌にあった石から聞きなれた声が聞こえたから間も無く、朝は光に包まれました。その足の光が収まると……そこにはクリス様が立っていました――
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