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第三十一話 法の縛り

「まさかこんな所で再会できるなんて……! ずっと心配してまして……お元気そうで、ココは安心致しました!」

「わわっ……」


 久しぶりに会ったココ様は、私と一緒に旅していた時と変わらない笑顔で、私の事を強く抱きしめました。嬉しいけど、ちょっぴり苦しいです……。


「どうしてココ様がここに?」

「実はシエルさんにはお伝えしてませんでしたが、ここは私の故郷なんです。今日は数日ほど休暇を貰ったので、実家に帰ってきたんです」

「……えぇ!?」


 ココ様とは六年も一緒に旅をしていたのに、そんな話は一切聞いた事がありません! ビックリしすぎて卒倒しかけちゃいました!


「その、ジーク様はご存じでしたか!?」

「ああ。俺も父上達も、巡礼の際に会った時に、彼女の事はわかっていた。だが、彼女から口止めされていた」

「その通りです。お優しいシエルさんが、ここが私の故郷の事を知ったら、滞在時間を延ばしたり、私をここに残したりといった可能性が考えられましたので。私のせいで、巡礼を滞らせるわけにはいかなかったのです」

「そうだったんですね……」


 そんな事をしない――なんて絶対に言えない自信があります。だって、故郷に帰って来て、家族もいるのだったら……少しでも長く一緒にいてほしいって思いますから。


「でも、まさかシエルさんがベルモンド家の方と一緒にいるとは思ってもみませんでした。追放されてから、ずっと音沙汰なしだったので……」

「シエルの追放の事は、知らされていなかったのか?」

「はい。私が聞いた時にはシエルさんは追放されて……急いで巡礼中に聞いた家に行ってみたんですが、何も無くて……途方に暮れていました。あっ! もしかして、ベルモンド家が引き取ってくださったのですか!?」

「ああ。今はうちで過ごしている。最近は学校にも通っている」

「学校……!? 本当ですか! ああ、よかったねシエルさん……!」


 感極まったような声を漏らしながら、ココ様は先程よりも強く私を抱きしめてくれました。


 実はココ様には、巡礼中に学校に行きたい事や、平穏に過ごしたいという話を何度もしていました。だから、私がそれを手に入れた事を喜んでくれているのでしょう。そう思うと……嬉しくて涙が出て来ちゃいました。


「そうだ、積もる話もありますし……ココ様も一緒にお散歩してもいいですか?」

「俺は構わん。なんなら邪魔なら俺は去る。一緒に巡礼していた彼女なら安心できるからな」

「そんな、是非一緒にいてください! ココ様、いいですか?」

「もちろん! せっかくですし、私の家でお茶でも飲んでいきませんか?」

「では、好意に甘えさせてもらおう」


 二人に許可を取ってから、私は幸せな気持ちを胸に抱えながら歩き出します。それから数分程で、私達は小さな木製の家に通されました。


「おや、おかえりココ。お客さんか――え、聖女様にジーク様!?」

「ただいまお父さん! 外を歩いてたらたまたま会ったの!」


 出迎えてくれたお爺様は、私達の姿を見て目を丸くさせて驚いていました。出迎えたら元聖女と領主の家の子がいたら、誰でも驚くでしょう。


 ちなみにこのお爺様にもお会いした事があります。その際に治療はしてませんが、少しだけお話をしたんです。まさかこの方がココ様のお父様とは思ってもみませんでした。


「そうかいそうかい! ベルモンド家の方が村に来られるのは知っていたが、まさか聖女様にまた会えるなんて思ってもみなかった! すぐにお茶を出すから、そこに座って待ってなさい」


 私達を通してくれたお爺様は、たどたどしい歩き方で台所に向かうと、お茶を出してくれました。


 今の歩き方……もしかして、足か腰の調子が悪いのでしょうか? 私の目が節穴じゃなければ、どう見ても歩き方が不自然です。


「あの、どこか痛い所とかあるんですか?」

「歳のせいか足が痛くてねぇ。でも歩けているし大丈夫だよ」

「無理してはいけません! 私が治しますから!」


 勢いよく立ち上がった私の手を、ジーク様が強く掴んできました。そして、小さく首を横に振りました。


 その一連の動きは……まるで私に回復魔法を使う事をさせないようでした。


「回復魔法を使うのは駄目だ」

「ど、どうしてですか!? 私の力があれば、絶対に治せます!」

「そういう問題じゃない……ココ、もしかしてシエルに教えてないのか?」

「……はい。巡礼が終えた時に伝えるつもりでしたので」


 一体何の話をされているのかわかりませんが、私は一秒でも早く治療をしたい――そんな私の考えは、簡単に打ち砕かれました。


「丁度良い機会だから教えておく。この国では、国に認められた回復術師と聖女以外は、回復魔法を使う事を、法で禁じられている」

「ほ、法で……? どういう事ですか!?」

「私から説明します。回復魔法はとても素晴らしい力ですが、悪用して金稼ぎをする輩も存在します。中には、これは回復魔法だと偽って詐欺をする者もいます。そんな人間に騙される民を減らす為に、国に認められた人間しか回復魔法を使ってはいけないんです」


 ……そんなの、全然知りませんでした。スラムにいる頃にこの力を手に入れてから、お母さんを治す為に練習したりしてたのも、本当はいけない事だったなんて……。


「……いや、待ってください。私、何回か魔法を使ってますよ? その時は何も仰らなかったですよね?」

「その時の事情や、言うタイミングが無かった時だからな」

「うっ……あ! 一応私だって元聖女なんですから、国から認められた人間ではないんでしょうか?」

「お前は巡礼を終えて、聖女の任を降りた。それに伴い、回復魔法を使える権限を無くしている」

「そ、そんな……回復魔法が使えない私なんて……」


 それじゃ、私はもう誰も助けられないの? 誰かを治して、助けられる力を持っておきながら……何の役にも立てないの? もしかして、恩返しもできない……? そんなの考えすぎ……ううん、私にはこれしか誇れるものがないのに……。


「聖女様、あなたのお気持ちだけでワシは十分ですよ。あなたはもう立派に務めを果たしたのですから、自分を責めないでくだされ」

「…………」


 せっかくお爺様が慰めの言葉をかけてくださったのに、私にはその言葉は全然届かず……結局終始無言のまま、村長様の家の前へと帰ってきました。


 帰ってきた頃には、既に日が傾き始めていましたが……そんなのは全然気にもなりません。


「おかえりなさい。どう、村は楽しめたかしら? って……どうかしたの? それにあなたは……あらあら、確かココさんよね!?」

「おお、その節は世話になったな。村にいる家族の元へ帰ってきていたのか」

「はい。久しぶりに休暇をいただいたので。そうしたら、たまたまシエルさんとジーク様にお会いして、一緒に過ごしてました。それでお帰りになるという事なので、こうしてお見送りに」

「なるほどね。それで……シエルになにかあったのかい?」

「実はな……」


 ……はぁ、私はどうすればいいんでしょうか。回復魔法をつかえない私なんて、何の価値がありません……あ、アリさんだ……あなたは私がどうすればいいか知ってますか……? 知るわけないですよね……えへへ……。


「なるほど、法の事を知ってしまい、落ち込んでいるというわけだね」

「ああ……なんて声をかければいいかわからなくてな」

「私もです……ああシエルさん……可哀想に……」

「僕には何を悩んでいるのかわからない。そんなの、道は一つしかないじゃないか」

「「……え?」」


 チラッとだけ視線を上げると、ベルモンド家の方々とココ様がお話していました。私もまぜてほしいですけど……私にそんな価値があるのでしょうか……。


「ですよね、父上」

「うむ。シエルよ、顔を上げろ。お前には進むべき道は残されている」

「道……?」

「国が行っている、回復術師の試験を合格し、回復術師になればよい」

「っ……!!」


 た、確かにその道がありました! なにも元聖女で今はその権限が無いから終わりってわけじゃないですもんね! 私ってば、こんなに落ち込んで、考えも凝り固まって……本当に情けないです。


「私、回復術師になります。必ず合格して見せます。それで、ベルモンド家の方々やこの村の方々、領地に住む方の治療を気兼ねなく出来るようになります! そうすれば、ベルモンド家やココ様への恩返しになります!」

「シエルさん……もうあなたは重責から解放されたんですから、無理しなくても……」

「ありがとうございます。でも……私を助けてくれた方や、その方が守る領地と民、そして私を守ってくれたあなたに恩返しがしたいんです」

「シエルさん……あなたって人は……」


 再会した時とは違い、とても優しく私を抱きしめてくれました。私もそれに応えるように、彼女の背中に両腕を回すと、そのまま優しく撫でました。


「あの時、王子から助けてあげられなくてごめんなさい……そして、幸せになってくれてありがとう。成長してくれてありがとう」

「ココ様……巡礼中、ずっと守ってくれて、支えてくれてありがとうございます。ずっとこの事を伝えたくて……」

「そんなの当たり前じゃないですか! あれだけ長い間旅を共にしていたんですから、私達は血の繋がりは無くても姉妹みたいなものです!」


 姉妹……私、もうお母さんを無くして家族を失ったはずなのに……ベルモンド家の皆様に加えて、お姉ちゃんまで……ど、どうしましょう……嬉しくて涙が止まりません……。


「ほら泣かないで。またしばらくお別れなんだから、笑ってさよならしましょう?」

「ぐすっ……はいっ! また……必ず会いましょう!」

「ええ! あと、お手紙出すから待っててくださいね!」


 ようやく離れた私達は、お互いに笑ってみせました。それは、後にジーク様に、太陽が二つ並んでいたと錯覚したと仰るほどの笑顔でした。


「ベルモンド家の皆様。シエルさんはとても良い子ですけど、純粋ゆえに危うい時もあるので……その、よろしくお願いします!」

「うむ。任せておけ。何があっても助ける。もう我らは家族だからな」

「ご飯もお風呂もちゃ~んとお世話するから安心してね」

「学園では私達兄弟が守るから心配無いよ」

「ああ……俺が必ずシエルを守る。シエルに手を出したら、容赦なく斬る」


 あまりにも頼りになるベルモンド家の皆様の姿に、私達は思わず見つめ合いながら安堵の息を漏らしました。


 もう、私は大丈夫だから、と。


 もう、あなたは大丈夫なのね、と。


「さあ、屋敷に帰ろう。皆の者、乗り込みたまえ」

「はい! よいしょ……」

「シエル、俺の手に掴まれ」

「ありがとうございます!」


 ジーク様の手を借り、来た時と同じ様にジーク様の隣に陣取った私は、すぐに窓の外を見ます。そこには、ココ様やお爺様、それに村長様や他の方々もお見送りに来てくれていました。


「シエルさーん! 必ずまた会いましょうねー!」

「ココ様! お元気でー! また会いましょう―! 皆さんもお体にお気をつけてー!!」

「聖女様、また遊びに来てくだされー!」

「今度はおいしい郷土料理を用意しておくよぉ~」


 沢山の暖かい声援を背に受けながら、馬車は屋敷に向かって進みだしました。


 一時はどうなる事かと思い、落ち込んでしまいましたが……新しい目標が出来て、恩返しの方法が増えたので収穫ですね!


 それにココ様や他の方にもお会いできて……励まされて……本当に私は幸せ者です。


 ……お母さん、私……今凄く幸せだから。目標もあって、凄く充実してるの。たまに変な人に絡まれて、皆様にご迷惑をおかけする事もあるけど……いつかそれも無くなるようにしてみせるから。


 だからね……お母さん。心配しないで、ゆっくり休んでてね。






「くっくっくっ……視える視える。やっぱりオレ様の見立ては間違ってなかったな。ココに遠視の魔法を仕込んで正解だったぜ。共に旅をした仲間の、感動の再会……泣けるねぇ。それに、回復術師か……だが……オレ様がそんな事を許すわけねーだろ? 上げたら落とす……喜ばせたら悲しみの絶望に……これがさいっこうの娯楽なんだよなぁ……じゅるり……待ってろよシエル……ベルモンド……! ギャハハハハハハハ!!!!」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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