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第三十話 思わぬ再会

 次の休みの日の朝、私はベルモンド家のメイド様に身支度の準備をして貰っていました。今日来ていくのは……なんだか貴族が着るような、キラキラした薄い黄色のドレスです。


 私がこんな綺麗なドレスを着てもいいのでしょうか? これ、社交界で着るようなドレスですよね?


「我々がみすぼらしい格好をしていたら、民達に自分達が貧乏なのかと思われてしまう。見栄でもいい、しっかり着飾るのが大事だ……と、旦那様が仰ってました」

「な、なるほど」


 想像以上に、メイド様が行ったグザヴィエ様の声真似が似ていて、ちょっとビックリしちゃいました。


「お化粧もしました、髪も整えました、服もしわ一つありません。これで完璧です」

「さすがです! 少しは見れるようになったかな……?」

「もちろんですよ! きっともうすぐそれを証明する方がいらっしゃいますよ。うふふ!」


 なんの事だろう……そう思っていた矢先、部屋のドアが開かれた。そこにいたのは、制服ではなく、社交界で着るようなカッコイイ服を着ていたジーク様でした。


「……おはよう。準備終わったか」

「はい、丁度終わりました! ジーク様、今日のお召し物、大変カッコいいです!」

「っ!? 急にそういう事をだな……」

「喜んでないで、ジーク坊ちゃまも言うんですよ!」

「な、なにをだっ!?」


 メイド様とジーク様が何か言い合いになっているようです。でも、どっちも怒っているようには見えないので……ケンカではなさそうです。よかった!


「その、あー……服、にあって……くっ! 俺は先に馬車で待っているから、ゆっくり来い!!」


 まだ話している途中だったというのに、ジーク様は逃げるように走り去ってしまいました。


 あの言葉……服が似合っているって言ってくれたのでしょうか……もしそうなら……嬉しい。それに、胸が不思議とポカポカしますね。


「お坊ちゃんは普段無愛想ですが、あなたには違うみたいですね」

「そうなんでしょうか?」

「はい。なんていうか……年相応になるんですよ。だから、あなたといる時はとても楽しそうです。では、そろそろ出発いたしますので行きましょうか」

「わかりました!」


 私はメイド様と一緒に外に出ると、そこには既にグザヴィエ様とセシリー様、そしてベルモンド兄弟が乗っていました。


「えっと、これって私がここに乗っていいのでしょうか……?」

「当然だ。私達はもう家族のようなものだ。家族団欒をして何が悪い?」

「悪くはありませんが……その、場違いといいますか……きゃあ!」


 馬車の前でオドオドしていると、ジーク様に中に強引に引っ張らっれてしまい、そのまま座らされました。ちなみに隣はジーク様が座りました。


「俺がお前を必要としている。理由はそれだけだ」

「あらあら~随分と頑張るようになったと思わない?」

「うむ。子供は成長が早いからな」

「何の話をしているんだ……」

「さあ……?」


 ベルモンド家の三人が、ニヤニヤしながら話している内容は良くわからず、首を傾げる事しか出来ませんでした。


 そんな空気に耐えきれず、外に視線を向けると……そこは緑の海が広がっているんじゃないかと思うくらいの、広大な草原が出迎えてくれました。


 こうして広い草原を見ていると、世界中を巡礼した時を思い出します。ここに来る時も、お母さんと一緒に草原を見ましたね。


「そろそろ着くから、準備をしておけ」

「あ、はい!」


 ぼんやりと景色を眺めていたら、いつの間にか目的地に着く目前まで来ていたようです。私ってば、どれだけボーっとしていたのでしょう……変な顔をしていたら恥ずかしいです……。


「到着致しました。お足元にご注意くださいませ」


 御者の方が馬車のドアを開けると、そこには広大な畑や民家が広がっていました。そして草と土のいい香りが鼻腔をくすぐりました。


「懐かしい……巡礼で来た時と全然変わってない……」

「そうね、ここは昔から全然変わらないのよ」

「だが、変わらず平和というのは、領主としては喜ばしい事だ」

「グザヴィエ様、セシリー様、クリス様、ジーク様。遠路はるばるお越しいただき、誠にありがとうございます」

「村長、息災そうでなによりだ」


 馬車を降りてから会話をしていると、一番大きな家から一人のお婆様がやって来ました。グザヴィエ様が仰った通り、彼女がこの村の村長をされている方です。


「おや、そちらのお方は……むむっ? ワシの記憶違いじゃったら申し訳ないが……もしや、シエル殿では!?」

「はい、お久しぶりです村長様!」

「なんと……まさかまたあなたに出会えるとは!」


 穏やかな笑顔を浮かべていた村長様でしたが、みるみるうちに驚きの顔へと変化させていました。


 よくよく考えてみれば、ベルモンド家の中に一人だけ私が混じっていたら、驚くのも無理はないですよね……。


「その後の腰の調子はどうですか?」

「おかげさまですっかり良くなりましてねぇ。今では現役の頃のように、バリバリ畑仕事が出来ておりますよ」

「それはよかったです!」


 村長様も私が治した方の一人です。彼女は重度の腰痛持ちにもかかわらず、無理して畑仕事をしてしまった結果、動けなくなっていたところを私が治してさし上げたんです。


 その他にも、捻挫をしてしまった農夫の肩を治したり、ミルクの出が悪くなってしまった牛を治したり……懐かしいです。


「それでグザヴィエ様。どうしてシエル殿がここにおるのです?」

「彼女は事情があって、ベルモンド家で引き取る事にした。今日はせっかくの機会だから、彼女を連れてきたのだ」

「そうだったんですねぇ。シエル殿、なーんにも無い村ですが、巡礼の疲れを是非癒していってくだされ」

「はいっ、ありがとうございます!」

「それでは、私達は村長と話をしてくる。シエルはその辺を散歩しているといい」

「なら俺が一緒に行こう。何かあったら大変だ」

「わかったわ。それじゃよろしくね。夕方までには戻ってくるのよ」


 私とジーク様を残して、四人は大きな家へと入っていきました。


 ……散歩をしていろと言われましたが……行くあては特にありません。でも、せっかく皆様が気を利かせて連れて来てくれたので、久しぶりのこの村を堪能しませんとね。


「さて、適当に辺りを散策でもするか。行くぞ、シエル」

「はいっ」


 私はジーク様の手を取ると、そのままあてもなく歩き始めます。なんだかこうしてジーク様に触れる事に、少し慣れてきている自分の適応力に驚かされます。


「ふー……空気がおいしいです」

「そうだな」


 どこを見ても、あるのは畑と自然。たまに農家をしている家や、家畜の姿があるくらいですが、不思議と居心地がいいです。風も気持ちいいですし、眠くなっちゃいそう……。


「ジーク様はここに来た事はあるんですか?」

「ああ。ガキの頃から何度も訪れている。そこの岩を見てみろ」

「岩……? あ、傷が二本ついてる……」

「それは俺と兄上が競争をした時につけた傷だ。あの木で木登りで勝負したり……そこの川で泳ぎの競争をしたり……」

「なんだかとても楽しそうですね」

「いや、俺よりすべて優れていた兄上に勝ちたくて、無我夢中になっていただけだ」

「それでも……羨ましいです」


 楽しかった幼い頃の思い出……正直憧れちゃいます。私の幼い頃の思い出なんて……食べ物に苦労して、白い髪だと気味悪がられ、いじめられた記憶ばかりなので……。


「シエル、これで岩に傷をつけてみろ」

「これ、ジーク様の剣ですよね? こうですか……?」


 恐る恐る剣で岩の上の方に傷をつけると、それに沿うようにジーク様も傷をつけました。まるで私達が寄り添っているかのように。


「これで思い出が一つできたな」

「……思い出……」

「思い出は過去だけではない。これから先の未来で作る事だって出来る。過去がつらかった分、こうやって一緒に楽しい思い出を作ればいい」

「ジーク様……」


 ……そうですね。振り返って後悔するよりも、これから明るい思い出を作れば、更にその未来で楽しいお話が出来ますよね。


 本当に、ジーク様は凄いです。私が過去の事を思い出してるのを判断して、咄嗟にあのような行動が出来るなんて……カッコいいです。


 そんなジーク様に尊敬のまなざしを向けていると、私達の所に一人の女性がやって来ました。腰まで伸びる金色の髪が特徴的な、とても美しい女性です。


 ……あれ、この方に見覚えが……ううん、間違いない!


「やっぱり……! シエルさん!!」

「ココ様!?」


 そこにいた女性……ココ様は、何を隠そう私と共に巡礼の旅をしてくれた、いわば巡礼の時の命の恩人なんです!


 でも……どうしてこんなところにいるんでしょうか……?

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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