第二十九話 惹かれた理由
■ジーク視点■
「眠ったか……」
痛々しい姿になってしまったシエルの頭を優しく撫で続けながら、俺は小さく声を漏らした。
眠れるほど疲労させられた事に対して憤りを覚えるか、それとも眠れる程度の傷で安心するかは判断に迷うところだが……今は後者と考えておこう。
「それにしても……ご迷惑を、か……」
シエルはこういう奴だと分かっていたが、こんな状況ですら他人を気にするその心に、俺は感心すら覚えてしまう。
「……シエルは出会った時から変わっていないな」
巡礼で初めて出会った時、シエルは既に長旅で疲れていたのは簡単にわかった。それでも俺達ベルモンド家は、シエルに頼ってしまうほどに追い詰められていた。
なぜなら、もう母上の命が長くないと医者に言われ、手の施しようがなかった中、まるで救世主のように現れたからだ。
俺達はすがる思いで、シエルに頼むと、疲れているのに一切休まずに、母上の治療と看病をしてくれた。結果、母上は今では元気に過ごせている。
そんなシエルに対して、ベルモンド家は多大な恩を感じているからこそ、こうやってシエルを全面的に支えている。もちろん俺もだ。
「まあ……そういう献身的で優しいところに惹かれたんだが」
「むにゅ……」
「全く、わかっているのか?」
子供みたいな変な声を出しているシエルが面白くて、つい俺はクスクスと笑ってしまった。本当にシエルは心が清らかで、愛らしい女性だ。
「……どこ……?」
「シエル?」
先程待てずっと穏やかに眠っていたシエルが、突然何かを探すように両手を動かし始めた。しかも、凄く苦しそうに表情を歪めている。
「どうした、何を探している?」
「…………」
ずっと手を動かしていたから、その手を掴んであげると、その動きは鳴りを潜めた。俺を探していた……ようには思えない。一体どうしたというんだ。
「おかあさん……いかない、で……さみしいよ……」
「……俺は……お前の母上ではないんだ。すまない」
「いっしょにいて……ひとりに、しないでよぉ……」
まるで幼子が母親から離れたくないと主張しているようだ。その目からは、大粒の涙があふれ、嗚咽まで漏らしている。
……つらいよな。アンドレのせいで、国の巡礼という制度に巻き込まれ、長旅をさせられた挙句、最後には騙され、母も失い、何もかも失ったシエルの悲しみは、俺なんかが理解しようとするのすらおこがましいだろう。
それでも生きる事を諦めなかったシエルは、ようやく人並みの幸せを手に入れた。そこに至るまで、毎日勉強して、努力を重ねて来たというのに……またしてもアンドレに壊されたと思うと、怒りで頭がどうにかなりそうだ。
いや、駄目だ俺。冷静にならないと……兄上は先日、怒りに身を任せて行動した事を悔いていた。俺はその失敗から学び、活かさなければならない。ベルモンド家と、愛するシエルの為に。
「ふー満腹満腹! もう留守番はいいから、早く戻りなさい。そろそろお昼休みだしね」
カーテンの向こうから、養護教諭の声が聞こえてくる。随分と帰ってくるのが早いな……あと数時間は行っていてもよかったんだが。
「それじゃ俺は戻るからな」
「んう……」
ずっと握っていた手に、さっきよりも強い力を感じる。シエルは寝ているはずなのに、俺がいなくなるのが本能的にわかっているのだろうか?
「大丈夫、俺はずっと傍を離れないから。だから今はゆっくり休め」
「……すー……すー……」
俺の言う事がわかってくれたのか、静かに眠り始めてくれてた。
さて、まだやる事は沢山だ。今回の事件の黒幕……あいつしか考えられないが、どう動いてくるかはわからない。いつ戦いになってもいいように、準部は入念にしておこう。
全ては……大切な家族や領地の民、そして愛する人の為に。
****
「はぁ……」
数日後、学園が休みの日に、私は自室で外の景色を眺めながら、深い溜息を漏らしていました。
怪我はある程度よくなりましたが、私がいまだに皆様にご迷惑をおかけしているのは事実です。そんな事をしていたら駄目です!
私はもっともっと頑張って、恩を返さないといけないんです!
その為に、勉強して、ジェニエス学園に通って、立派な人に会って、恩返しをして、そして自立してお母さんを安心させる……これが私の目標ですが、なかなかうまくいかないものです。
「失礼するよ」
「クリス様?」
ベッドの上に寝転がって悶々としていると、クリス様が部屋にやってきました。クリス様の笑顔はいつでも輝いていて、太陽を彷彿とさせます。
「ちょっと話でもどうだい? 今君が悩んでいる事について、解決への糸口が見つかるかもしれないよ」
解決への糸口……どういう事でしょうか? 私には、クリス様の意図があまり掴めません。
「実は今度の休日に、父上がベルモンド家の領地に行くんだ。僕とジークもそれに同伴するんだが、一緒にどうかなって思ってね。部屋の中に篭って考え事をするよりも健康的だし、気分転換にもなると思ってね」
「な、なるほど……」
領地へ……私も過去に行った事はあります。決して裕福ではありませんが、自然が豊かでとても良い所です。それと、おいしい料理が沢山あるんです。
久しぶりに行ってみたいですね……ここでこうしていても、始まりませんもんね。
「わかりました。行きます」
「そうこなくては。それじゃ当日は朝に出発するから、よろしくね」
「はい。ところで、どうして三人揃って領地に?」
「父上は定期的に領内にある村長の所に行って現状についての話し合いをしていてね。僕は将来的には家長を継ぐ者だから、近くで勉強させてもらっている。ジークも補佐として学びに行くというわけさ」
そういう事だったんですね。お二人共、凄く勉強熱心で尊敬しちゃいます。それなのに……私は……恩返しをするとか言っておいて……。
はぁ、私って本当に駄目ですね。ベルモンド家がくださった人生、楽しみながら頑張ろうと決めたのに……全然うまくいってません。
この旅の中で……何か見つかると良いのですが……そう思わずにはいられませんでした。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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