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第二十八話 一件落着……?

「ジーク様……!」


 なんとか起き上がろうとしましたが、想像以上に私の体はボロボロのようで……再び地面に倒れてしまいました。そんな私を、ジーク様は優しく抱き上げてくださいました。


「……なるほどな。方法は度外視するとして……昨晩に兄上が言った通りになったわけだ」

「なってほしくなかったけどね。それにしても、随分と落ち着いているようだが? 私の見立てでは、即座に斬りに行くと思っていたぞ」

「そうだな……俺の胸から湧き出る怒りが、俺の体を焦がしそうにはなっている」


 一瞬ではありましたが、ジーク様が出した怒りの感情は、私ですら思わず小さく悲鳴を漏らしそうになるくらい、恐ろしいものでした。それは彼らにとっても同じ様で……怯えるように、数歩後ろに下がりました。


「お、おい……ベルモンド兄弟が揃うなんて聞いてないぞ……この前は一人にすらボコボコにされたのに……」

「わ、私だって聞いてないわよ!」

「見苦しい仲間割れをしている暇があったら……遺言を残す事をお勧めする。お前らはもう、肉片一つ残らないのだから」

『ひ、ひぃぃぃぃぃ!?!?』


 ジーク様の静かで、怒気を孕んだ声に恐れをなした彼らは、その場で尻餅をついて震える事しか許されませんでした。


 傍から見たら過剰な反応に見えるでしょう。しかし、彼らはつい先日、ジーク様の強さを肌で感じています。そこにクリス様まで加わったら、もう勝ち目がないと分かったのでしょう。


「ど、どうしてそんな女に肩入れしてるのよ! そいつはクリス様とジーク様を利用しようとして……!」

「どこでその情報を仕入れたのやら……まあ彼の仕業だろうけど。言っておくが、彼女は私達ベルモンド家の大恩人だ。我々の母親は不治の病で、もう助からないと思われてたんだが……聖女として颯爽と現れた彼女は、完璧に治してくれたんだ。だから、我々は彼女に恩返しをする為に、こうして一緒にいる」

「そんなの嘘よ! そもそも聖女っていうのも本当なの!?」

「ああ。なら見せてあげよう」


 そう言うと、クリス様は右手に巻いていた包帯を全て取り外しました。すると、手の半分ほどが青紫色に変色していました。


「昨日、いろいろあって怪我してしまってね。それで、今日の事を見越して治療を控えていたのさ」

「昨日からずっとポケットに手を突っ込んでたのは、そういう事だったのか」

「全然知りませんでした……早く診せてくだ……うっ……」

「無理をするな。私から行くから。ジークは念の為に彼らを見ていてくれ。戦意は無いが、いつ復活するかはわからない」

「ああ」


 私の所にまできてくださったクリス様の手を包み込むようにして、状態の観察を行います。


 ……これは、強い衝撃による怪我みたいです。もしかしたら、骨にまで異常が出てるかもしれません。これをずっと耐えていただなんて……私には信じられません。


「すぐに治しますから!」

「ありがとう」


 私はクリス様の手を包み込んだまま、魔力を集中させます。すると、白い光が生まれて、私達の手を包み込みました。


「おお、すごい! まるで怪我そのものが無かった事のようになってる!」

「お役に立ててよかったです……!」

「そこだぁ!!」


 怪我が治って一息ついた時を狙って、彼らは全員魔法で一気に攻撃してきました。雷や水、岩に風……いろんな攻撃が飛んできましたが……。


「その程度で僕らをやれると思ったのかい?」


 クリス様は、どこからか取り出した杖を振ると、襲い掛かってきた物を全てを凍らせてしまいました。そして、ジーク様は剣を振り、凍った魔法を全て粉々にしてしまいました。


「良い太刀筋だよ。さすが自慢の弟だ」

「兄上の氷は斬り慣れている、それだけの事。これ以上やるなら、訓練場の時よりも悲惨な目にあわせる……嫌なら金輪際シエルに関わるな!!」

『は、はぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』


 ジーク様の怒号が最後の一手になったようで、彼らは一目散に逃げていきました。半分ぐらいの人は、上手く歩けなくて四つん這いでしたが……。


「ふぅ……一件落着かな」

「それはわからん。それよりも……シエルに治療させて良かったのか? シエルはもう聖女では……」

「ふふっ、君達が話さなければいいのさ」

「……えっと……?」

「それに彼らも、この事を話して僕らを敵に回すほど馬鹿じゃないだろう」

「だといいんだが……全く、あまり心配をかけるな」

「ああ、善処するよ」


 ……? 一体何の話をされているのでしょう? 小声で話されているせいで、私の方にまでお話の内容が聞こえてきません。


 いや、今はそんな事を気にしてる場合じゃないですよね。ちゃんとお二人にお礼を言わないと!


「あ、その……助けてくれて、ありがとうございました!」

「いや、私達にはお礼を言われる資格は無い」

「どういう事ですか?」

「……話は保健室に行きながら話せばいい。シエル、俺の背中に乗れ」


 そう言いながら、ジーク様は私に背中を向けてしゃがみました。おんぶして私を運んでくれるという事なんでしょうけど……私、泥だらけになってるので、ジーク様の服を汚してしまいます……。


「あ、歩いて行けますから……!」

「早くしろ」

「はっ、はい……」


 有無も言わせない勢いに負けた私は、素直にジーク様の背中に身を預けました。ほんのり暖かくて、筋肉も凄くて……ちょっと、ううん……凄くドキドキしてしまいます。


「それじゃジーク、シエルの事は任せたよ」

「兄上、どこに行くんだ?」

「今回の件は少々大事になりそうだから、その根回しをしておくのさ。何もしないと、彼らが変に話を誇張する可能性もあるからね。それに、我々は授業を抜け出したから、その説明もしないとね。っと……忘れてた。シエル、お守りを僕に渡してくれないか?」

「あ、はい」


 私はポケットから石を取り出すと、そのままクリス様に手渡しました。


 お守りが無くなってしまうのは少々不安ですが、クリス様が欲しいと仰るなら仕方ありませんよね。


「ありがとう。この石には、録音機能もついていてね……これで彼らが君に行った暴言の記録も問題無い。それじゃ、僕は行くよ」

「ああ。俺達も保健室に行くぞ」

「わかりました。あの……本当にありがとうございました! あいたっ……」


 おんぶされたまま頭を下げたら、勢いよくジーク様の背中に頭突きをしてしまいました。自分のドジさに呆れてしまいます……。



 ****



「はい、これでよし。見た目よりも酷い傷じゃないから、すぐに治ると思うわ」

「ありがとうございます」


 保健室に連れて来てもらった私は、養護教諭を務める女性に手当てをしてもらいました。ちなみに裸になって手当てをしてもらったので、ジーク様には廊下で待ってもらっています。


「もういいわよー」


 養護教諭の呼びかけに応えるように、ジーク様は静かに保健室の中に入ってきました。その表情は暗かったですが、私の姿を見たら、少し表情が和らいだように見えました。


「先生、シエルは……」

「大した事ないから大丈夫よ。それにしても、なんでこんな怪我を? もしかして喧嘩?」

「その、色々ありまして……はい」

「まあ深くは詮索しないわ。彼女はここで休ませておくから、あなたは授業に戻りなさい」

「そういうわけにはいかない。シエルがまたいつ危険な目に合うかわからない」

「……?」


 事情を全く知らない彼女は、首を傾げる事しか出来ません。ここで説明してもいいのですが……ジーク様がしないという事は、何か考えがあるのでしょう。だから、私は余計な事は言いません。


「よくわからないけど、授業に出れる元気のある生徒をサボらせるわけにはいかないわ」

「…………」

「……はぁ。そういえば私、お昼は忙しいから今のうちにご飯を食べておきたかったのよね。その間、保健室の留守番をしてくれる男子がいてほしいなんて思ってたのよねー」

「なら、俺が留守番をしている」

「わかったわ。それじゃよろしくね」


 そう言うと、彼女は静かに保健室を後にしました。残されたのは私達だけ……そのせいか、あまりにも静かすぎて、少し離れた校庭から声が聞こえるくらいでした。


「あの、ジーク様……私は大丈夫ですので、教室に――」

「駄目だ。一人になった結果、お前は酷い目に遭った。もうお前を危険な目に遭わせたくない」

「でも……授業が……ジーク様にご迷惑をおかけするには……」

「なにも迷惑じゃない。だから気にせず休め」

「あっ……」


 私の両肩を掴んだジーク様は、そのままゆっくりと私を寝かせてくれました。なんだか幼い頃にお母さんに同じような事をしてもらった事を思い出しちゃいました。


「痛かっただろう……守ってやれなくてすまなかった……」

「どうしてジーク様が謝るんですか……私、お二人にご迷惑をかけてばかりで……」


 優しく頭を撫でられていたら、いつのまにかウトウトし始めてしまい――ご迷惑をおかけした罪悪感と悲しみ、そして守られているという安心感を胸に、そのまま眠りにつきました。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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