第二十六話 感情爆発
■クリス視点■
ジェニエス学園とゲール学園の二大学園で行われる交流祭についての会議が終了した後、私はアンドレに学園の案内を行った。
やれやれ、まさか私がシエルの因縁の相手である彼の案内をする日が来るとは、夢にも思っていなかった。これも仕事故、最後まで務めるが……できれば早々にお帰り願いたいものだ。
「どうでしたか、初めてジェニエス学園に来られた感想は?」
「ふん……活気があってまあ悪くはない。少々うるさすぎる気もするがな。あいつらを全員統制する生徒や機関は無いのか?」
「ははっ、ご冗談を」
一通り回った後、生徒会室に戻って話をしていた私は、愛想笑いで誤魔化しながら、内心驚きを隠せなかった。ゲール学園の事は知っていたが、まさかそれをジェニエス学園にも求めてくるとは。
だが、それも仕方のない事かもしれない。王族……しかも彼は王位継承権第一位の男だ。きっと甘やかされて育った上に、魔法の素質もあったせいで、尚更過剰に甘やかされたのだろう。それが、この身勝手さの根源と私は思っている。
もちろん違う可能性はあるが……もしそれが真実なら、現国王にはもう少し教育を学んでから後継者を作ってほしかった。私のようなただの領主の息子に、そんな事を言う権限は無いけどね。
「まあいい。このままあいつらは社会に出て、オレ様達の為に納税するのだからな。おかげでオレ様が王になった後は楽しくなりそうだ」
「…………」
……こう言っては何だが、あまり人に見せない方が良い類の笑みを浮かべるアンドレ。言っている事も中々な内容だ……周りに人がいなくてよかった。
「お言葉ですがアンドレ殿。王になる以上、王としての責務は果たしていただけないと、国が成り立ちません」
「そんなの他の連中に任せりゃいいんだよ。オレ様はお飾りの王として、毎日女と遊べりゃ満足よ」
「…………」
こ、ここまで身勝手な男とは思ってもみなかった。王族とか云々以前に、どうすればここまでワガママに育つのかが不思議でならない。
そして、こんな男のせいで、シエルが国に良いように利用され、過酷な旅をさせられた挙句、偽の手紙でシエルを騙し、唯一の肉親と、肉親との別れの時間を奪った……そう思うと、全てを投げ捨ててでも、この男を永遠に凍り付かせたくなる。
「一つ、疑問に思った事があるんだがよ」
疑問に思った事? どうせろくでもない事だろうが……一応聞いてみよう。
「なんでベルモンド家が聖女を引き取ったんだ? あの力を利用するつもりか?」
「彼女は我々ベルモンド家の大恩人です。そんな彼女が助けを求めて来て、人並みの幸せを欲したから、その手助けをしているに過ぎません。母を想う純粋な少女を騙し、国の為に利用したあなたと我々は違うのですよ」
「利用? これだから低俗な人間には困る」
クククッとくぐもった笑い声を漏らすその姿には、何とも言い難い不快感を覚える。
「オレ様は国の為を思って行動したんだよ。大衆を救う為に、一人の人間を犠牲にするの程度が出来なくて、民を支配する王になどなれないだろう?」
民の為だと? 嘘だ。この男の事だから、自分が今後王になった時に、あの時聖女を選抜して巡礼させた、有能な王だと広めたいだけに違いない。この男なら……やる。
「……それなら、なぜシエルを手元に置かなかったのですか? 巡礼をしたという実績は、将来のアンドレ殿にとって有益かと」
「ありえねえな。回復魔法は異質で面白いが、いかんせん見た目が地味で好みじゃねえし、回復魔法の使い手なら国を探せば見つかるから、それを利用すればいいだけの事。あいつを選んだのは、騙して御しやすかったのと、捨てても反発されないと踏んだからだ」
「…………」
「実際にオレ様の目論見通りになっていたが、ベルモンド家が邪魔してくるのは想定外だったぜ。あいつが貴様の弟と一緒にいるのを見た時は、思わずイライラでジェニエス学園の女を食いたく――」
「いい加減にしろ!!」
今までずっと我慢してため込んでいたものが、彼のあまりにも酷い発言のせいで爆発してしまった。
シエルは私やベルモンド家にとって、母上を救ってくれた、まさに救世主といってもいいほどの存在で、大切な人だ。そんな彼女をこれ以上愚弄するのを、私は許せない!
「さっきからふざけた事を言って! シエルの人生を何だと思っている! 捨て駒のように扱っている彼女だって、この国の大切な民の一人だというのが何故理解できない!! それに、誰かを不幸にして得る繁栄になど、何の意味も持たない!!」
「おい、誰に向かってものを言ってる? オレ様は一国を背負う男だというのがわからねえほどの馬鹿か?」
今まで散々私を馬鹿にするようにニヤニヤしていたアンドレ殿は、怒りで顔を歪ませながら、私の胸ぐらをつかんできた。
「言っておくが、オレ様の命令一つで、国の大軍隊を動かせる。ベルモンド家なんて小さな家や領地など、一瞬で灰にする事も容易い」
「…………」
脅しとも言える言葉のおかげというべきか……私は冷静になり、口を紡いだ。いや、血の気が引いてしまったというのが正しいかもしれない。
私の一時の感情のせいで、罪のない人達を巻き込むわけにはいかない……!
「馬鹿でも言ってる意味がわかったようだな。ほら、調子に乗った事を謝罪しろよ。当然土下座して、オレ様の靴を舐めて誠意を示してもらうがなぁ!! ギャハハハハ!!」
土下座? 靴を舐める? この男……どこまでねじ曲がった性格をしているんだ!? 王族がどうこう以前に、人間として終わっている!
だが……ここで変に反発したら、本当に無関係の人を巻き込んでしまいかねないのも事実。やりたくはないが……私が招いた事なのだから、私が責任を取るのが筋だ。
そう思い、床に膝をつけようとした瞬間、部屋の中にノックの音が響いてきた。
「廊下を歩いていたら、何か大声が聞こえましたが、なにかありましたか?」
「学園長!」
「……ちっ……いや、特に何もない。貴様、運が良かったな……クソガキみたいに騒ぐのを見れたのはそこそこ面白かったから、今回だけは許してやる。オレ様は寛大だからな。だが……次に調子に乗った事を言ったら……わかってるな」
「……肝に銘じておきます」
「ふんっ。おい、オレ様はもう帰る。学園長、出口まで見送れ。グズグズするな!」
学園長が助けに来てくださったおかげで、なんとか窮地を脱出できた私は、学園長に暴言を吐くアンドレを静かに見送った。
そして……怒りを全てぶつけるように、思い切り拳を机に振り下ろした。
アンドレにシエルを馬鹿にされた事も、常に馬鹿にするような態度を取られた事……色々な事に腹が立っているが、一番怒りを覚えているのは、自分の迂闊さにだ。
「何をやっているんだ私は……! ジークに偉そうに言っておいて、こんなに簡単に感情的になって! あの男が報復をしようとするなんて、目に見えているのに、大切な人達を危険に晒すような事をするなんて……!」
怒りと自分への怒りが抑えきれず、何度も机を叩く。鈍い音が何度も部屋を騒がしくしているし、手の感覚も無くなってきたが、そんなのは知った事ではない。
次はもうこんな失敗はしないと胸に誓おう。私はベルモンド家の長男として、常に冷静にあるべきなのだから。
「ふんっ、つまんねぇ事になったぜ……はぁ、交流祭なんかよりも、女と遊んだほうがよっぽど……ん?」
「シエルの奴、今日も私達のジーク様と一緒にいたわよね?」
「しかもお姫様抱っこで、校舎から飛び降りてたのよ! あんなの物語の王子様じゃん! 羨ましい……あのシエルとかいう女がいなければ……」
「……こいつは面白い駒を見つけたな……やあ君達、ちょっといいかい?」
「ひゃ!? な、なにこのイケメン……! って、アンドレ様!?」
「ちょっとお話してくてね。よかったらあっちでお話しないか?」
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