第二十五話 望まぬ再会
「ふっ……ふふふっ……まさかこんな所で会えるなんて、運命的なものを感じてしまうじゃないか」
「ひっ……」
舌なめずりをしながら、ニタァと笑うアンドレ様。その姿に恐怖を覚え、足がすくんでしまったところを、間に割って入るように、ジーク様が立ってくれました。
「ああ? 誰だてめぇ?」
「……ジーク・ベルモンドだ」
「ベルモンド? ああ……あのクソ小せえ雑魚領地の連中か。このオレ様に話しかけてきて、手土産の一つも無しか? 活きの良い女を三人程度用意するのが常識だろうが」
この人を馬鹿にしたような喋り方。やっぱり全然変わってないです。嬉しいやら悲しいやら……とにかくしっかりして私! さっさと切り抜けて帰らないと!
「それにしても……まさかベルモンドに転がり込んでたとはな。てっきり死んでるものだと思ってたぜ。せっかくオレ様が自ら追放して、絶望に叩き落としてやったのに……忌々しい女だぜ」
急いで来たからか、まだ周りに生徒がいないのを良い事に、アンドレ様は言いたい放題言ってきます。一方、ジーク様は驚く程静かに、アンドレ様をジッと見ていました。
まるで……嵐の前の静けさのように。
「まあいいか。遊べるおもちゃが増えたと思えば、そう悪い事でもねえ」
「貴様……今なんて言った?」
「おい、雑魚領主の息子の分際で、オレ様にそんな口をきくのか? まあいい、オレ様は寛大だからもう一度言ってやるよ……お・も・ちゃ! って言ったんだよバァァァァァァァカ! ギャハハハハ!!」
舌を出して、心の底から笑うその姿は、あまりにも醜くて……思わず吐き気を催してしまうほどでした。
ここまで酷い人だったなんて……性格が良くないのは知ってましたが、実際にアンドレ様と話した数自体は少ないので、ここまでとは思ってもみませんでした。
「…………」
「お? なんだ? 悔しいなら、その腰にぶら下げてる剣で斬り落としてみろよぉ! まあオレ様の天才的な魔法で防ぐし、こんな所で斬りかかったら、国の自警団がお前を放っておかないがな!」
「…………」
「なに黙ってんだよ? 何とか行ってみろよクソザコ領主のご子息様よぉ!」
「も、もうそれ以上はやめてください!!」
私はお二人の間に割って入ると、ジーク様を庇うように、体を大きく広げました。
ここまで言われても黙っているのだから、きっと事情があるのでしょう。それなら、今度は私がジーク様を守る番です!
「お前、誰にものを言ってる? 身分の違いも分からねぇのか貧乏人のバケモノ女が!」
「うっ……うぅ……」
アンドレ様の言葉は全て合っています。しょせん私は貧乏人……底辺の人間です。その上、髪の事で気持ち悪がられていじめられていました。思い出しただけで、涙が出てそうです。
でも……でもっ!!
「ジーク様は……ベルモンド家の皆様は、突然転がり込んできた私を迎え入れてくれて、幸せにしてくれた方々なんです! あなたみたいに、ずっと私を騙して巡礼させて、大切な人を奪ったあなたとは違うんです!! わかったら、もう私の……私達の平穏で幸せな時間を奪わないで!!」
「……誰に対して説教している? オレ様は未来の王。そのオレ様に言う言葉にしては……少し度が過ぎたな」
アンドレ様は何もない所から杖を出すと、そこに魔力を集めて始めました。
明らかに、私に対する攻撃魔法を使ってくるのはわかってますが、怖くて足がすくんで……動けません……。
「シエル!」
「ジーク様!?」
まるで物語に出てくる白馬の王子様みたいに、ジーク様は私をお姫様抱っこをして離れようとしました。
でも、ここで魔法の攻撃が飛んで来たら……私もジーク様もただでは済まない……どうすればいいの……お母さん、助けて……!
「はいはい、そこで何をしているんだい?」
「ここでの戦闘行為は禁止です。直ちにやめなさい」
願いが通じたのでしょうか? 私達の元に、クリス様と校長を務める老年の男性が来てくれました。
た、助かった……これなら誰も傷つかずに済みます……!
「ちっ……わざわざオレ様を迎えに?」
「ええ。初めての共同なのですから、出迎えくらいはしないと」
「……いいだろう」
さっきとはまるで別人のように大人しくなったアンドレ様の姿に、思わず呆気に取られてしまいました。
でも、よく考えてみれば、いつもあんな横暴だったら、社交界とか出れませんもんね……一応相手を見て話しているみたいですね。
「あーそういえば……」
後はさようならをするだけだったのに、何故かアンドレ様は、ニヤニヤしながら私達の事を、下から覗き込むように見て来ました。
「風の噂で聞いたぜ。ジェニエス学園のトップには、魔法の才能溢れる有能な男と、魔法のセンスゼロの癖に、無駄に足掻いてそれなりの実力を手に入れた、聞いた連中全員が涙ちょちょ切れるような、ス~バラシ~男がいるらしいな? ええ、ジーク?」
「ああ。そいつは大したものだな。センスが無いから諦めろ、兄のようにはなれないと言われても努力を続け、学園のトップにまで上り詰めたのだから。才能や権力があるだけで威張っている、どこぞの男と大違いだ」
「ぷっ……くくっ……いやぁ悪い悪い! あまりにも醜い負け犬の遠吠え過ぎて、笑いを堪えるのに必死なんだが!? お前、オレ様専属のピエロに就職しないか?」
「面白いな……なら俺がピエロ、貴様が玉乗りをする犬の役をしてもらおうか」
完全に言い合いになってる中、流石にもうこれ以上は時間を取れなかったのか、アンドレ様は忌々しそうに舌打ちを残して去っていきました。
はぁ……なんとかなった……見つかっちゃったけど、それ以外は及第点……と思いたいです。
「ジーク様、帰りましょう」
「…………」
ずっと黙りこくっているジーク様と一緒に馬車に乗り込みました。そこでようやく気付いた事がありました。
……ジーク様の両手の掌から、赤い液体がボタボタと流れていました。口も切れているのか、ツーッと液体が流れていました。
「もしかして、ずっと我慢してたんですか!? 」
「……あそこで反発しても、シエルやベルモンド家、領地の民……最悪学園にも迷惑がかかるからな」
「とにかくすぐに治します!」
「いや、しなくてもいい。見た目以上に酷くない。無駄に魔力を使う必要は無い」
「でも……!」
「いい」
頑なに拒むジーク様に根負けした私は、渋々頷きました。一回くらいの治療で疲れる程、私の魔力は低くは無いと思うのですが……。
「あの……私のせいで、こんなに我慢をさせて……怪我まで……」
「お前は悪くない。むしろ被害者だ。悪いのはあの男だ」
「でも……」
お優しいジーク様なら、私が悪くないと仰ってくれるのはわかってました。でも、それに甘える事は出来ませんでした。
「なら、一つ頼みたい事がある」
「……っ! 私に出来る事なら!」
「出来る。そのままいてくれ」
思わぬところで、恩返しが少しできると張り切った私でしたが、突然動きが固まってしまいました。
なぜなら……ジーク様が私の膝に頭を乗せて倒れこんだからです。
「少々気を張って疲れた。着いたら起こしてくれ」
「で、でもこれ……膝枕……!」
「……ぐー……ぐー……」
「寝ちゃった……」
まだ十秒も経っていないのに寝てしまう寝つきの良さにも驚きですが……この状況、私どうすればいいんですか!?
ジーク様ってば、事情が事情だけに強く言えませんが……お姫様抱っこをしたり、膝枕をさせたり……私だって一応一人の女の子なんですから、緊張もするんですよ! もう、わかってるんですか!?
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