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第十九話 ちゃんと覚えてます!

 昼休み。私はジーク様やクリス様と一緒に昼食に行こうと思っていたのですが、クラスメイト達に囲まれてしまい、身動きが取れなくなってしまっていました。


「シエルさん、以前は妹の喘息を治していただいてありがとう! おかげで今では見違えるほどに元気で、毎日走り回ってるんだ!」

「それはよかったです! ずっと外で元気に遊ぶのが夢って言ってましたよね!」

「うちのペットの犬も治してもらって……さすがに覚えてないわよね。真っ白で目の所に黒い模様がある犬なんだけど……」

「覚えてますよ! しっぽが短くて、片耳だけ垂れてるワンちゃんですよね?」


 私が治した人達のその後を聞けて、正直ホッとしています。


 でも、私はジーク様やクリス様と一緒に、昼食を食べに行かないといけないんです。そうしないと、ジーク様を一人ぼっちな状況から助けられないですから。


 現に……本を読んで過ごしているジーク様の周りには、誰もいらっしゃいませんし、声もかけません。遠回しに眺める人はいても、まるでその間に高い壁があるように近づかないんです。


 元々愛想が良い人じゃないのはありますが、朝の一件で周りの人の声を聞いた感じでは、尊敬の対象にされている感じだったので、話しかけにくいのでしょう。それがここで一人ぼっちの理由だと感じました。


「あ、あの……申し訳ありませんが、そろそろご飯を食べに行くので……」

「それなら僕と行きましょう! あの時のお礼をさせてください!」

「ちょっと、私だって聖女様と一緒にご飯を食べたいんだから! ねねっ、いろんな所を旅した話、聞かせて!」

「え、えっと……」


 困りました……私と仲良くしてくれるのは嬉しいですけど、私には先約が……ジーク様に恩返しをしないと……でも無下に断るのも……。


「悪いな。こいつには先約がいる」

「えっ?」

「行くぞ」


 今までずっと隣の席に座っていたジーク様が、無理やり私達の間に割って入ると、私を引っ張って立たせました。そして、そのまま有無を言わさずに、私と一緒に教室の外へと向かって歩き出しました。


 ちょっと強引ですが、私を助ける為に動いてくれたのでしょう。そう思うと、ちょっとドキドキするというか、顔が熱くなっちゃいます。気のせいかもしれませんが、ジーク様が輝いて見えます……。


「ちやほやされて調子に乗りやがって……」

「勘違いしちゃって、気持ちわるー。お姫様気分かっての」

「…………あ?」

「「ひぃ!?」」


 教室を出ようとすると、遠巻きに見ていた方々が、私を見下すような目で口を開きました。そう、私の事を嫌っている人達です。


 しかし、ジーク様が眉間に深いシワを入れながら睨みつけたら、そそくさとその場から離れていきました。


「すまない。頃合いを見て声をかけるつもりだったんだが……ああいった中に入っていくのは不得手でな……」

「そんな、謝らないでください。助けてくれてありがとうございます」


 クリス様と合流する為に廊下を歩いていると、急にジーク様は申し訳なさそうに表情を曇らせながら、私に謝罪してきました。


 ジーク様は元々他人との相対が苦手なのはわかっていました。それなのに、私を助ける為に苦手な事をしてくれた人に、感謝を述べる事はあっても、怒ったりなんて絶対にしません。


「でも、あんな怖い顔で睨んだら駄目ですよ?」

「お前の陰口を叩いていた連中を睨んで何が悪い?」

「お気持ちはわかりますし、嬉しいですけど……わざわざ争いの種を作る事はないですから」


 こう言っては何ですが、ああいった類の陰口は、スラムで散々言われて育ってきました。主にこの真っ白な髪色の事ですが、それ以外にも痩せてて気持ち悪いとか、病気のお母さんから病気を移しに来るなとか……結構酷い事を言われてます。


 だから、慣れてる私の為に、ジーク様が変に敵を作る必要なんてないんです。私がしたいのは、ジーク様に敵を作らせる事じゃなくて、一人ぼっちから助けて、一人じゃなくても楽しいんだよってお伝えしたいんです。


「善処する。ところで、感謝を述べに来たクラスメイトに受け答えしていたが……そんなに印象的な連中だったのか?」

「どういう事ですか?」

「長い間巡礼をしてきて、多くの人間に出会って来ただろう? あいつらが記憶に残る連中だったかという事だ」

「質問の意図がよくわかりませんが……わかりますよ? だって、治療をした人達やそのご家族は、全員覚えてますから」

「覚えているだと……? しかも、全員?」


 あ、あれ? なんでそんなにビックリするのでしょうか? 私に関わった人や出来事を全部覚えておくのって、そんなに不思議なんでしょうか?


 私は巡礼の楽しかった思い出、嬉しかった思い出、つらかった思い出、悲しかった思い出……すべて覚えています。だってそれが、聖女としてのシエル・マリーヌという人間を作っていましたから。


 もちろん、ベルモンド家との出会いも覚えていますよ? 話そうと思えば、この目で見て、この耳で聞いた事なら、いくらでも話せます。


「薄々わかってはいたが……お前がこの短期間でジェニエス学園に何故入学できたのかがよくわかった」

「は、はあ……ありがとうございます?」


 なんだかよくわかりませんが、褒めていただいたようです。どんな事でも、褒められると嬉しいものです……えへへ。


「それで、クリス様はどこにいるのでしょう?」

「恐らく生徒会室だろう。兄上の事だから、合流前に出来る仕事を片付けておこうという魂胆のはずだ」

「働き者なんですね、クリス様は」

「働きすぎだ。真面目なのは昔からだが……俺からしたら、もう少し息抜きを覚えてほしい。大切な家族が倒れるのは……もうたくさんだからな」


 ……そうですよね。ジーク様……いいえ、ベルモンド家に関わる人達全員が、セシリー様を失うところだったんですもの……あんな思いはしたくないのも頷けます。


 今思うと、私が行った時にはセシリー様は手の施しようがないくらい重症で、他の回復術師の方も匙を投げていたくらいでした。私がちょっと遅かったら……ジーク様達は、私のように大切な人を失う悲しみを……考えただけで、私が悲しくなってきました。


「どうした」

「え?」

「急に涙が……何か悲しいのか? 待ってろ、今ハンカチを……」

「い、いえ……その、色々思い出したら、つい……」

「それくらい、過酷な旅をしてきたんだな……偉いな」


 ジーク様はハンカチで私の涙を拭ってから、頭をワシャワシャと撫でてくれました。私のお父さんが生きていたら、こんな感じで撫でてくれてたかもしれません。


「ぐすん。さあ、気を取り直していきましょう! きっとクリス様が、暇すぎて欠伸をしてるかもしれませんよ!」

「それは……興味あるな。無防備な兄上を見た記憶がほとんどない」

「ええ、そうなんですか!」


 軽口をたたきながら、笑顔で話す私とジーク様。ジーク様はまだ表情がぎこちないけど、それでも微笑んでるっていうのは分かるくらいです。


「いつもの無表情も、とても絵になってカッコいいですけど、やっぱり笑った顔の方が素敵です!」

「っ!? そ、そういうのはいいから、さっさといくぞ!」

「あ、待ってくださいよ~!」


 本当の事を言っただけなのに、ジーク様は逃げるようにその場から走りだしてしまいました。


 変な事を言ったつもりはないんですけど……追いかけて謝らなきゃ!







「なによあいつ、ずっとジーク様にべったりで! ずっとファンだった私達をのけ者にするとか何様!?」

「俺達も恥をかかされたし、仕返しついでに虐めてやるか」

「いや~それはやめておいた方が良いかも~? うちらに凄い後ろ盾とかあるならいいけど、現状で変な事をしたら~……」

「学園のツートップに目を付けられる……か。特に生徒会長に目を付けられたら、今後の学園生活に支障が出る。今は大人しくしておくか……しかし、いずれあいつには仕返しをしてやる!」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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