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第十六話 見守っててね

「なになに……? シエル・マリーヌ様を合格といたします。詳しい事に関しては別紙に……これって!」

「合格判定……だよな? 兄上?」

「ああ、間違いなく合格判定だ! シエル、今度編入して学園の一生徒になれるんだ!」

「…………」


 ジーク様とクリス様が何か仰ってるのは分かりますが、私は合格のショックが大きすぎて、その場で呆然と立っている事しか出来ませんでした。


 そして……それから間もなく、私は大の字で倒れてしまいました。


「シエル!? どうした!」

「大丈夫かい? どこかぶつけた?」

「いえ、大丈夫です。合格したって思ったら……ぐすん……嬉しくて力が抜けちゃって……ひっぐ……」


 緊張の意図が切れてしまったのか、私は涙を流すのを止める事が出来ませんでした。


 私なんかが合格……ずっと勉強なんて手が出せなかった私が……学校に通えるなんて……信じられません……。


「お前は合格したんだ。立って前を向け」

「ジークの言う通りだ。君は難関と言われる試験を突破した勝者だ。胸を張るといい」

「ジーク様……クリス様……」


 私は手を差し伸べる二人の手を掴んで立ち上がると、涙を拭ってから大きく頷きました。


 これは夢なんじゃないかと思ってしまうくらい、いまだに信じられませんが……二人の暖かい手と、強く握られる感触が、これは夢ではないと教えてくれました。



 ****



「お似合いでございますよ、シエル様」

「うわぁ……うわぁ~!!」


 合格の通知があった日から少し時が経ち――ついに登校初日となった私は、いつも身の回りの面倒をみてくれるメイド様の手伝いの元、制服に袖を通していました。


 これが、ジェニエス学園の制服……! 制服を着ているだけなのに、嬉しくてまた泣いちゃいそうです……ぐすん。


「シエル、私だ。入っていいかい?」

「あ、どうぞー」


 ノックの音と共に、クリス様の声が聞こえてきたので招き入れると、同じ様な制服を着たクリス様が部屋に入ってきました。


 当然と言えばそうなんですが、クリス様もジェニエス学園の制服を着ていらっしゃいます。それと同じ服を着てるんですよね私……。


「ふむ、よく似合っている。やはり君はこの制服を着るべき人間だったんだね」

「そ、そんな……ありがとうございます。そうだ、ジーク様は?」

「まだ寝ていると思うよ。基本的にジークはあまり朝は強くないからね。だから先日は変な勘違いをしたのかもしれない」

「そ、そうなんでしょうか?」


 うーん、その辺りは付き合いが長いクリス様の方がわかってるでしょうし、私がどうこう言っても仕方ないですね。


「シエル、起きた――兄上も来ていたのか」

「噂をすればだな。おはようジーク」

「おはようございます」

「……おはよう。早速もう着替えているようだな……悪くない」

「全く、我が弟ながら変な所で素直に褒められないとは……あんな大胆な事は出来るのに」


 どんな言葉でも、褒めてくれている事には違いありません。私はそれで嬉しいと思うので、全然問題無しです。


「朝食はすでに準備されているそうだ。念の為に早めに食べて、忘れ物がないかの確認をしておこう」

「そうですね。では行きましょう!」


 私はお二人と一緒に食事をしてから、一度自室に戻ってきた私は、忘れ物がないかをチェックします。三人でチェックしたので、これで忘れ物に関しては大丈夫でしょう。


 ……ふぅ、緊張してきました。学校に通えるのは楽しみに思っていますが、勉強はついていけるのとか、お友達は出来るのかとか、考えれば考える程、不安要素は出てきます。


「どうした、そんな不安そうな顔をして」

「あ、いえ……初めての事なので、色々考えてしまって」

「そうか……俺達がついているから、心配する事は無い」

「ほう、随分と大きく出たものだな弟よ」

「茶化すな」


 ふんっと鼻を鳴らしながらそっぽを向くジーク様と、クスクスと面白そうに笑うクリス様。その姿は、本当に中が宜しいんだなと思えます。


 私も……お兄ちゃんとかお姉ちゃんがいたら……こんな感じだったのでしょうか。ちょっぴり憧れます。


「さて、想像以上に早く準備が終わってしまったな。まだかなり時間がある」

「それなら……私、登校前に行きたい所があるんですけど……」


 私の行きたい所。それは私の大切な人が眠っているあの場所。最近は勉強漬けの毎日だったから、学校に通う前にちゃんと報告がしたいんです。


「……ああ、あそこか」

「なるほど。折角の初めての登校の今は、丁度いいタイミングかもしれないね。合格通知が来てから忙しくて、行けていなかったようだし」

「えっ? 私、まだどこに行きたいか言ってませんけど……」

「言わなくてもわかる事はある」


 まさに以心伝心と言うのでしょうか。なんだか嬉しいような、気恥ずかしいような、不思議な気分です。


「では……お言葉に甘えさせてもらいます」

「ああ。行くぞ……お前の母上の元へ」

「あの墓地から学園まで間に合わない距離じゃないとはいえ、時間があるわけではない。早く行こうか」


 三人で頷き合ってから、私達は馬車に乗ってお母さんの元へと向かいます。


 朝からバタバタしてしまって……お二人にはまた申し訳ない事をしてしまいました。これで返さなければならない恩が、また一つ増えてしまいました。


「すまない、少し急いでもらえるかな?」

「かしこまりました。なにかにお捕まりを」

「え……? きゃあ!」

「しっかり捕まってろ」


 クリス様のお願いに応えるように、馬車はいつもの倍以上の速度で動き始めました。それに驚いてしまった私は、倒れそうになってしまいましたが……ジーク様が抱き抱えてくれたおかげで、怪我をせずに済みました。


 お、男の人ってこんなに逞しいんですね……事故とはいえ、男の人にこんなに密着した事なんて無いので、ドキドキしてしまいます……。


「あ、ありがとうございます」

「礼はいらん。それよりも、あまり喋るな……舌噛むぞ」

「はっ……はい」


 私を守る為の言うのはわかります。わかりますが……顔が近いです! こんな綺麗でカッコいい顔が近くに……!? 胸が爆発しちゃいそうです!!


「なんだ、やればできるじゃないか」

「何の話だ?」

「こっちの話さ。それよりも人に言っておいて、自分が舌を噛むような情けない事をしないでくれよ?」

「兄上こそ……おしゃべりなのは良いが、気を付けろよ」


 お二人が何か話していたようですが、私は緊張のせいで半ば頭がフワフワしてしまった為、全然聞いていませんでした……。


 そんな事をしている間に、馬車は花畑へと到着していました。


「到着いたしました。お怪我はございませんか?」

「問題ない」

「僕も無いよ」

「ふにゅ~……」

「シエル様……お身体は大丈夫でしょうか?」

「だいじょーぶでしゅ……ちょっといりょいりょあって……体に力が……」


 結局ずっとジーク様とくっついていた結果、私の身体が耐えきれなくなり……ふにゃふにゃになってしまいました。


 仕方ないじゃないですか! 抱き寄せて守ってくれたり、囁くようにずっと大丈夫だって言われ続けていたら、ふにゃふにゃにもなりますよ!


「しかたない、俺が背負っていく」

「え、そんな大丈夫――ひゃん!」


 断る前に、私の体はジーク様の背中の上に乗せられました。さっきも凄いって思ってたのに、更に凄い事に……!? そろそろ倒れそうです……。


「全く、それをいつもやればいいのに、時々日和るのはなんなんだ?」

「そんなの知るか……シエル、ちゃんと捕まれ」

「ふにゃぁ……」

「しっかりしろ。そんな腑抜けた顔で会うつもりか」

「はっ……し、しっかりしましゅ」


 ジーク様のおかげ? で何とか正気を取り戻した私は、無事にお花畑に到着しました。今日も沢山の花が咲いていて、とても綺麗です。叶うならここでお母さんとお茶がしたかったです。


「時間は無い。早く報告に行こうじゃないか」

「わかりました。いきましょう!」

「ああ」


 ここまで運んでくれた従者様にお礼を言ってから、私達は急いで墓地のある元へ向かうと、そこには以前見た通り、静かにお母さんが私を迎えてくれました。


「お母さん、来たよ。ごめんね、また来るとか言っておいて……こんなに遅くなって」


 私は来る時にクリス様に用意してもらったお花をお母さんの前に置いてから、静かに両手を合わせました。


 聞いてお母さん、私……今日からジェニエス学園に行けるんだよ。勉強もできるし、友達もたくさん作れるんだ。それに、ジーク様とクリス様も一緒なんだ。初めての事ばかりで不安もあるけど、きっと大丈夫だから……お母さんも安心して見守っててね。


「もういいのか?」

「はい。あまり時間も無いですし、ちゃんと伝えたい事は言えましたので」

「では出発しよう」


 本当はもっと一緒にいたいけど、お二人にご迷惑をおかけするわけにもいきませんし、登校初日から遅刻するわけにもいきません。名残惜しいけど、出発しましょう。


『いってらっしゃい、気を付けてね』

「……えっ……?」


 今後ろから、お母さんの声が聞こえたような……? まさか、きっと空耳でしょう。こんな所で油を売ってないで、早く二人の後を追いかけないとですね。


「……うん! いってきます……お母さん!」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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