第十三話 元聖女の実力
カリカリカリ――と、ペンが走る音だけが教室に響く中、私は冷静に問題と向き合っていました。
えっと、ここの長文問題は……なになに、文章の線が引いている部分は、何を示しているかを答えよ……うん、これは作者様の考え方を纏めた部分の事ですね。
あ、文字の書きと読みの所に来ました。これはたくさん勉強したからわかります! すらすら~っと……一応見直しもして……うん、大丈夫そうです!
さて、次の問題を……あれ? この物語に出てきた男性と女性の結末は、どのようになるかを書け……ちょっと珍しいですね、物語の結末の予想だなんて。
そうですね……ざっと読んだ感じだと、身分の違いのせいで結婚できない男女の恋物語ですね。中盤で二人が引き裂かれそうになりますが、二人は内密に会ってどうすればいいか考える所で止まってます。
私の中で思いついたものは、お互いは傷つくけど、無事に家に帰る為に絶縁するというものと、二人で遠くの地に逃げるもの。そして、一緒になるために身投げをする……それくらいでしょうか?
正解は何かはわからないので、私の好きな展開を書いておきましょう。私はハッピーエンドが大好きなので、遠くの地に逃げる物語にします。行く先々で苦労もしたり、ケガをしたり、大喧嘩をしたりもしましたが、最後は二人で困難を乗り切り、安寧の地で幸せに暮らす……それが私の考えた、物語の結末です。
っと、思った以上にここで時間を使ってしまいました。問題はあまり残ってませんしそんなに時間はかからないでしょう。残った時間は見直しに使いましょう。
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「お疲れさまでした。これにて筆記テストは終了です。昼食の後、魔法実技試験を行います」
国語の試験の後、他の試験も乗り越えた私は、試験官の先生がいなくなったのを見計らって、大きく体を伸ばしました。
皆様がとても親切に教えてくれたおかげで、なんとか空欄無しで終える事が出来ました。自信? まあ……それなりにあるつもりです、はい!
「さてと、お弁当を食べようかな……」
持ってきていたバッグから、持たされたお弁当を開きます。今日もベルモンド家の専属コック様のごはんはとても美味しそうです。
……あれ、なんか凄く不格好なおにぎりが一個だけ混じってます。コック様がこんな不格好な物を入れるなんて考えにくいですね……。
「あれ、手紙が入っている……」
手紙と言っても、掌サイズにも満たない小さな紙切れです。そこには、『初めて作ったら不格好になってしまった。応援の意を込めて ジーク』と書いてありました。
作った事がないのに、わざわざ私の為に作ってくれるなんて……凄く嬉しいです。不格好なんて関係ありません。
「もぐもぐ……しょ、しょっぱ!?」
真っ先に食べたおにぎりは、想像の何倍もしょっぱくて……思わず大きな声を出してしまいました。
ジーク様ってば、間違えてお塩をたくさんかけちゃったんですね。いつものクールなジーク様とのギャップに、少しキュンとしちゃいました。
「しょっぱいけど……緊張で汗をかいちゃったから、丁度いいかもですね……」
やだ、私ったらおにぎりに夢中になって、おかずを食べるのを忘れてしまってました。おにぎりの残りは、後でのお楽しみにしておいて……こっちのお肉を食べましょう。
「柔らかくておいしぃ……こっちのお魚も、可愛くカットされたお野菜もおいしい……」
……そういえば、このお弁当に入ってるの……全部ベルモンド一家の好きな物ばかりですね。私も大好きですけど、どうしてこの献立なんでしょうか?
ひょっとして、家族の皆様が見守ってくれてるとか、そんな感じの意味が込められているのかもしれません。私の考えすぎかもしれませんが、それでも元気が出たのは違いありません。
「ありがとうございます……よーっし……午後のテストも頑張ろう……!」
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昼食が終わり、ついに魔法の実技試験が始まりました。私達受験生は、それぞれ個室へと案内されて、担当者様の言われた通りの魔法を使います。
ここで凄い魔法を使えればいいのですが……私は魔法に関しては本当に素人です。さっきから全然魔法が発動しなくて、担当者様に苦笑いされています。
「はい、そこまで。では次が最後の実技試験になります。この試験は、事前に受験生に確認させていただいた、最も得意な魔法を見せていただきます」
「は、はいっ!」
「あなたの得意魔法は……回復魔法ですね。随分と珍しい部類の魔法ですが、この魔法だけを練習されていたのですか?」
「えっと……いろいろ事情があって、長年この魔法だけを使い続けていたんです」
「事情、ですか」
ここで聖女として巡礼してましたと言っても良いんですけど、わざわざ話をややこしくする必要は無いですよね。
「回復魔法ねぇ……難易度の高い魔法だし、どうせ費やした時間だけ立派で、他の魔法を全て投げ捨てたんじゃねーの?」
「ははっ、言ってやるなよ。凄い魔法に夢見て挫折する人間なんて、ここじゃ珍しくもないさ」
試験の補佐をしてくれている男子生徒達が、少し離れた所で陰口を言っているのが聞こえてきます。
正直心が痛みますが、そんなものに心を乱されていてはいけませんよね。
「君達、受験生の心を乱すような発言は慎みたまえ」
「あ、すみませんクリス先輩!」
彼らの隣に立っていたクリス様の一言で、一気に部屋の中が静かになりました。
ありがとうございます、クリス様。おかげで集中力を乱されずに済みそうです!
「では、実技へ移ります。この動物の治療をしてください」
「この子は……」
私の前に差し出されたのは、小さなウサギさんでした。人間に囲まれて怯えているのか、小刻みに震えていて……見ていて可哀想になってきます。
「最近学園に迷い込んだ野ウサギでして。傷を治して野生に返そうと思っているのです。あなたの魔法で、この子を治療してください。それが実技試験の内容です」
「わかりました。やってみます」
さてと、まずは……回復魔法を使う為にも、この子に信用してもらわないとですね。怯えてる状態で魔法を使ったら、驚いて逃げてしまうかもしれません。
「おいで、ウサギさん。大丈夫……怖くないよ」
「…………」
ウサギさんは私の事をジッと見つめてから、そのまま信頼して体を預ける――なんて事はせず、私の指を噛んできました。
い、痛い……そうですよね、野生にいたなら、変な物を警戒するのは当たり前です。これは完全に私が悪いです。
「大丈夫だよ。私はあなたを虐めたりしないから」
ゆっくり……ゆっくりと、私はウサギさんに手を伸ばしていくと、まるで品定めをするように、ウサギさんは私の手の匂いを嗅いできました。
「あっ……」
ウサギさんの中でどういう変化があったのかはわかりませんが、ウサギさんは私の手にすり寄って来ました。
よかった、とりあえず信頼してくれたみたいです。そのまま抱っこして……うん、大丈夫そうですね。
「すぐに治してあげるからね」
私は心を静め、集中します。すると、ウサギさんを包む両手に光が集まっていきます。
この光は、回復魔法を使っている時に出てくる光です。特に害はないですけど、ちょっと眩しいのが玉にキズです。
「終わりました」
「お疲れさまでした。では、ウサギを見せてもらえますか?」
「はい」
私はウサギさんを試験官の先生に手渡して、傷が治っているかの確認をしてもらいました。試験とか関係なしに、ウサギさんには元気に大地を走ってもらいたいので、無事に治っていると良いのですが……。
「……これは……傷痕すら残っていない。それに関節も痛めていたはずなのに、痛がる素振りが一切ない。まるで、怪我など最初から無かったようです……このウサギが関節を痛めているのは、どうやって知ったのですか?」
「そ、そうだったんですか? わ、私の回復魔法は少し特別と言いますか……怪我そのものが無かったように治療できるんです。だから、足の傷を治した時に、一緒に治ったのかと……」
「ば、馬鹿な!? そんな常識はずれな魔法、王家に仕える回復術師クラスでも出来ないぞ!?」
「デタラメも大概にしろ!」
先程陰口を言っていた男子生徒達が、私を指差しながら避難してきました。言いがかりも甚だしいですが、私には言い返せるほどの心の強さはありません。
「デタラメと決めつけるのは早計だと思うけどね。世界は広い……私達が知らない魔法や技術があってもおかしくはない。ですよね、先生?」
「ええ、その通りです。あなたは素晴らしい魔法を持っているんですね。それに、ウサギに対する優しい接し方……見ているこちらが勉強させられました」
「じゃ、じゃあ……!」
「まだ合否は決まってません。我々の中で、魔法一つに特化しているのを良しとする人間もいますし、そうでない人間もいるでしょうから、しっかりと総合的に見て合否を決めます」
そ、そうですよね。私ってば、褒められて浮かれすぎです……恥ずかしい……。
でも、これはかなり好感触って言ってもいいですよね!? そう思ったら、なんだかホッとしました……クリス様も小さく親指を立てて褒めてくれています。
早く帰って、お屋敷の皆様に報告をしなきゃ! そして、皆様のおかげで頑張れたってお礼を言うんです!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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