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優太は着替えたときと同じように薄目を開けながら風呂を済ませ、寝床についた。
さっきまでの感情の波が嘘のように、今は落ち着いている。優太は落ちる意識をつなぎとめるように今日あったことを考えた。
まず、自分は本当にあの瞬間に死んだのだろうか。夢のなかにいるような、そんな浮ついた感覚がずっとある。限りなく現実に近い、夢。
すぐにでも自分の安否を確認したいという気持ちと、もし自分が本当に死んでいたらという不安が優太のなかでせめぎあっていた。父親や暁人に連絡すればすぐに分かるだろう。しかし、もし死んでいたら、いよいよ自分はどうしたらいいのか分からなくなる。
そして、この体。奏恵はポジティブに受け止めているようだが、優太は決してそうは思えなかった。このまま奏恵として生きていくことはできない。なにより奏恵の人生を、これからの未来を奪ってしまうように思えた。ただ、自分が奏恵の体から出て行く方法がないことも事実だった。
優太は行き詰まった思考をリセットするため、視点を変えて考えを巡らせる。もし自分が本当に死んでいて、幽霊なのだとしたら、なぜ現世にとどまっているのだろう。
ありがちなところで思いつくのは「未練」というワードだった。
もしも未練だとしたら、自分はこの世界になにを残したのだろう。と優太は考える。どちらかというと、この世界になにも残せていないような気がした。もしかすると、それこそが未練なのかもしれない。
ここまで考えたところで、優太の意識が途切れ始める。
「かな、え……ちゃ……」
優太は自分の存在が希薄になるような気がして、奏恵の名前を呼ぼうとした。
しかし、そのまま優太のまぶたはゆっくりと落ちていった。