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懐かしき日々――我が少年時代  作者: 安田けいじ
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打ち上げ花火

 初めて打ち上げ花火を見たのは、父の単車の後ろに乗せてもらって行った、牟岐港での花火大会だった。


 何歳の時だったかや、四人兄弟の中で、何故私だけだったのかは憶えていない。


 牟岐の港には、一文字堤防と言う新しい防波堤が出来ていて、その上で花火を打ち上げるのだ。


 浴衣姿で、カランコロンと下駄を鳴らしながら、町中から人が集まって来た。花火が始まる頃には、港の岸壁は、多くの人でいっぱいになった。


 適当な所に陣取った私達は、今か今かと、一文字堤防の方を睨んで待った。


 すると、一発の花火が打ち上がり、空一面に大きな光の花を咲かせた。ドドーンと腹に響く音には、さすがに肝をつぶしたが、天空に鮮やかに咲いた、色とりどりの大輪の花の見事さには声もなかった。


 打ち上げ場所と岸壁の距離は五十メートルと離れていないので、どこに居ても特等席で、花火が真近で見れた。


 当時の田舎の花火は、数発上がると、次の打ち上げまで暫く待たねばならなかった。恐らくだが、予算の関係で、一気に上げてしまえば、直ぐに終わってしまうからではなかったか。


 一時間ほどそんな調子で花火が上がった後で、今までより長めの沈黙の時間が流れた。


「なんよー、もう終わりかいな」


「ほんまに、しょぼい花火大会やったなあ」


 周りの人からも不満が漏れて、父が「帰るけ」と、笑顔を向けたその時だった。



 戦車とロケットの形の仕掛け花火が浮かび上がったかと思うと、その先から、ドンドン、ドドーン、ドン、ドドーンと、次から次へと花火が上がり、空にはいくつもの花が重なり合って開いたのである。


 それは、フィナーレに相応しい、今までに無い、数十発の連続打ち上げだった。



 「こりゃー見事や!」


 空を見上げた父が声をあげた。


 私も、買ってもらった氷菓子をしゃぶるのも忘れ、その光景に見入っていた――。



 その夜、私は花火の夢を見た。夢の中の花火も綺麗だったが、音はしなかった。 


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