表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
懐かしき日々――我が少年時代  作者: 安田けいじ
10/35

弟との凧作り

 弟が中学生、私が高校生の時の、冬休みの事である。楽しみにしていた正月も終わり、〝数日すると、また学校が始まるんやなあ〟などと思いながら、私達は暇を持て余していた。


「三郎、凧あげでもせえへんか?」


 私が、横で寝そべっている弟に声をかけた。


「凧らどこにあるんよ」


 寝返りを打って、こっちを向いた弟が、めんどくさそうに言った。


 当時、小さな奴凧は、百円もしなかったと思うが、貰ったばかりの貴重なお年玉を使う気にはなれなかった。


「作ったらええやん」


「凧や作ったことないで、よう作るんか」


「竹と紙があったら出来るやろ」


「ほやなあ……。どうせやったらデッカイ凧作れへんか!」


 弟が起き上がって、急にやる気になった。


「白影が乗ってるみたいな凧か?」


「あほか、あんな大きいもん出来るかいな。ほんでも、一メートル位のは作りたいなあ」


「やろうやろう、面白そうや」


 かくして、私達は、大凧作りに挑戦する事になったのである。



 先ずは、材料の調達だ。私達は、鉈を持って近くの河原に生えている女竹を数本切って来た。

 その竹を適当な大きさに割って、凧の枠を作るのだが、太すぎれば重くなるし、細すぎても撓りすぎて枠の役目を果たさない。

 二人とも、工作はあまり得意な方ではないが、どちらかと言えば弟の方が上手かった。


 枠の材料が揃うと、それを組み合わせて、たこ糸で縛って固定していく。


 暫くすると、一メートル四方の角凧の枠が出来上がった。それは、今までに見た事もない大きな凧だった。


「紙は何貼るんよ」


 弟が訊いた。


「何でもええやろ。新聞紙なら沢山あるけん持ってくるわ」


 私は家に入って、新聞紙を小脇に抱え、ついでに、障子はり用の糊があったので持って来た。


 私達は、それを、ペタペタと無造作に貼り始めた。新聞紙は破れやすいので、有合せの紙も混ぜながら貼った。


 そして――、


「「でけた!」」


 出来上がったのは、歪で、センスの欠片もない、見栄えの悪い凧だった。その上、適当な紙を貼ったので、かなり重かった。ただ、大きさだけが取り柄の凧だ。


(……揚がるやろか?)


 私達は、何とも言えぬ表情で顔を見合わせる。


「乾かしたら、ちょっとは軽くなるんちゃうか」


 何処までも適当な私。取りあえず、河原で天日干しにして乾くのを待った。



 凧も乾き、いよいよ実際に揚げる時が来た。風は強めで、少々重くても揚がりそうだ。


 家のすぐ下の河原の広場で、弟が持ち上げ、私が糸を持って走ることになった。


「いくで!」


「ええぞ!」


 私が勢いよく走り出し、弟が凧を持っていた手を放す。すると、思いの外重かったが、大凧は勢いよく揚がったのである。


「おぉ!」


 二人が歓声を上げようとした次の瞬間だった。凧は、急旋回してくるくると回りながら落下し、ガシャッと河原に激突してしまったのだ。


「ああーっ!」


 私と弟が落胆の声を上げた。




 不幸中の幸いか、凧は多少壊れてはいたが、修理できる状態だった。


「どこが悪かったんやろ?」


 私が弟の意見を聞く。


「どやろなあ、もうちょっと左右に反らせたほうが、安定するんとちゃうか」


「ほうやなあ」


 凧を担いで家に帰った私達は、早速、壊れたところの修理と、安定させるための反りの調整を凧に施した。


 だが、二度目も、凧はバランスを崩して落ちてしまった。



「今度はいけると思たんやけどなあ……」


 流石に落胆の色は濃かったが、私も弟も、止めようとは言わなかった。


「ほいたら、凧の足をもうちょっと延ばしたらどうやろ」


 弟が言うように、凧の足は、安定させるためには大事なパーツだ。今は、幅三十センチ、長さは二メートルほどで、凧本体から比べれば、やや小さいようにも思えた。


「よっしゃ、これが最後や、もっと長く広いのを付けよか!」


 私達は、凧の足の部分に、新聞紙をそのまま数枚貼り足して、幅五十五センチ長さが三メートルを越える足を取りつけた。 


「いくぞーっ!」


「ええぞー!」


 私は、祈るような気持ちになって、懸命に走った。すると――大凧はバランスを崩すことなくぐんぐんと揚がり、澄み切った青空を背にグンと胸を張ったのだ。


「「やった、揚がった、大成功や!!」」


 私と弟は満面の笑みを浮かべ歓声を上げた。空に浮かんだ、つぎはぎだらけの歪な大凧は、私達の歓声を聞いて、一段と胸を張った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ