どんぐりの詩
小学生の冬休みのことである。朝早くから白い息を吐きながら、我が家に走ってやって来たのは、三つ年下の親戚の男の子、やっさんだった。
彼は、お父さんが近くに仕事で来たので、一緒に付いて来たのだと言った。
「頼んどくわよー!」
おじさんが、挨拶だけして仕事場へと向かっていくと、彼は人懐こい笑みを浮かべて、私達を見た。左手には、白い紙袋を握っていた。
その中には、お父さんに買ってもらった、一個一円のどんぐり飴が九個入っており、一つは、彼の頬を膨らませていた。
当時は、透明の器に入った一個一円の飴のバラ売りが多く、一回に買う単位は十円が普通だったのだ。
彼は、私達兄弟に、その飴を無造作に突き出し「あげる!」と言って、惜しげもなく分けてくれた。
貧乏で何も無かった時代の一円の飴は、私達の顔を綻ばせるのに十分な御馳走だった。
やっさんは、年の近い私と弟と三人で、夕方までさんざん遊び、お父さんが迎えに来ると一緒に帰っていった。
次の日の朝も、白い息を吐きながら、左手にどんぐり飴の白い紙袋を持った彼が、坂道を無心に走ってくる姿が見えた。
次の瞬間――、朝日がグンと昇り、どんぐり君の姿や吐く息を、オレンジ色に染めた。
彼の、オレンジ色の笑顔が弾けると、
「あそぼう!」
人懐こい声が、私たちの耳に飛び込んで来た。