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第1話:無能を自覚して、家出をする。

「999……1,000回!」


 王都にある大きな屋敷の、中庭。

 夕暮れの中、ボクは一人で、剣の素振りに励んでいた。


「ふう……今日はいい感じだったな……」


 日課を終えると、何とも言えない高揚感と達成感がある。


「ちょっと、ハリト! 何やってんのよ!」


 そんな時、甲高い女性の罵声が庭に響き渡る。


 凄まじい剣幕でやってきたのは、三歳上の姉のエルザ。

 赤毛で長身の女剣士だ。


「な、何って、日課の剣の稽古だけど、エルザ姉さん?」


「はっ? ハリトが剣の稽古? いつも言っているけど、あんたには剣の才能がないのよ! 無駄って言っているのが、分からないの⁉」


「才能が無い……いや、それは分かっているけど」


 エルザ姉の指摘は正しい。

 ボクは剣士としての才能が皆無。


 幼い時から家族の指導を受けて、毎日のように剣を振るってきた。

 だが家族のようには、一向に上達しない。


「男のくせに私から一本も取れないだから、剣の稽古なんて辞めて、他の道を探しなさい!」


「そ、それは、知っているけど……」


 姉は剣が得意だ。

 ボクは幼い時から一回も勝ったことがない。


 細腕な女の人である姉にすら勝てない。

 正直なところ自分には、剣の才能がないのだろう。


「おい、二人ともそこで、なに喧嘩しているんだ?」


「あっ、兄さん! 聞いてよ! またハリトが隠れて剣の稽古なんてしていたのよ!」


「何だと⁉ ハリト本当か?」


 次にやってきたのは、五歳上の兄のラインハルト。

 金髪の長身の魔導士の仕事をしている。


「はい、ライン兄さん、本当です……」


「またか。あとオレの出した魔術の課題はどうした?」


「あっ……ごめんなさい。【第九階位の魔術式】がどうしても解析できなくて……」


「なんだと⁉ あんな簡単な術式も解析できないのか? オレはお前の歳の頃には、とっくに解析していたんだぞ!」


「ご、ごめんなさい、ライン兄……」


 兄は魔法が得意だ。

 ボクも魔法の勉強は好きだけど、兄には敵わない。


 この屋敷からボクは、あまり外に出たことがない。

 他の人と比べたことはないが、たぶん自分には魔法の才能もないのだろう。


「おい、庭で何を騒いでいるんだ⁉」


「あっ、父さん! 聞いてください! ハリトの奴が、また隠れて剣との稽古をしていたんですよ。しかも魔法の課題も解けていないのに?」


「何だと? それはいかんな、ハリトよ」


 次にやってきたのは父親のバラスト。

 金髪の屈強な体格だけど、魔道具の研究の仕事をしている。


「それに私の頼んでおいた、魔道具の改造が済んでなかったぞ、ハリト?」


「は、はい、ごめんなさい。父さん。魔高炉の性能を五段階、上げるのが、どうしても出来なくて……」


「やはり、そうか。あと母さんと約束していた、聖魔法の課題はどうした?」


「うっ……ごめんなさい。そっちも【不死王の浄化術式】に手こずって……」


 小さな時から魔法と魔道具の開発、聖魔法も修行も好きだった。


 でも才能がないボクは、家族の期待に応えることは出来なかった。


 他にもお爺ちゃんの教えてくれる【異世界チート論】や、お婆ちゃんの【まかい術式理論】も同じ。


 好きで一生懸命に努力してきたけど、どれも才能が無し。

 家族の期待に応えることが出来ずに、全てが中途半端。


 なんの特徴もない器用貧乏なまま、明日の十四歳の誕生日を迎えてしまうのだ。


「とりあえず今宵は家族会議を開く。覚悟しておきなさい、ハリト」


「は、はい、分かりました、父さん……」


 ◇


 その日の夕食後は、本当に辛い時間だった。


 家族全員から厳しい言葉を、ずっと言われていった。


『お前は私の息子なんだから、もっと出来るはずだ!』


『あなたは私の子なのよ。もっと精進するのよ、ハリト』


『あんたみたいな愚弟がいると、私まで恥ずかしいのよ!』


『ハリトにはもっと魔法の才能があると思っていたんけどな……』


『爺ちゃんが若いことのう、もっと凄かったじゃぞ……』


『そうですね、お爺さん』


 とにかく家族全員から厳しい言葉で叱られた。


 そしてその夜。


 ――――ボクの中の何かが“キレて”しまった。


「このままじゃボクは、ダメ駄目なまま人生を終えてしまう。でも、どうすれば? あっ、そうだ! どこか遠い国で、一人で頑張ってみよう……夢見ていた一任前の冒険者になるために!」


 こうして翌朝、ボクは家出を決行。


 屋敷の地下にあった転移装置で、遠い国へと移動。


 装置を破壊して、ボクの移動証拠を完全消去。


 これで家族の助けは無くなり、退路も断たれた。


「それにしても、ここが屋敷の外の世界……ボクの知らない世界か。よし、できる限り頑張っていこう!」


 とりあえず遠くに見えている、城壁に囲まれた小さな街を目指すことにした。

 走って向かっていく。


 でも、それにしても、随分とボロボロな城壁だな?


 大丈夫かな、あそこは?


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