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「あの方、色狂いか男好きか何かですの?」

 純粋に、けれど呆れながらエヴァリーナがそう言葉を零してしまったのは、やり直しを自覚して三度目の二学年生活をおくった時だった。

 あの方、という言葉が指し示すのは一人の女生徒である。

 女生徒の名を、カロリーナ・ローゼオ男爵令嬢。

 このやり直しの発覚をエヴァリーナへと教えたティートが、その原因だと称していた人物のことである。

 その言葉を聞いているのは、この部屋にいるもう一人の人物であるティートのみであり、他の人物に聞かれるような事はしていない。この件はエヴァリーナ達にとって重要機密事項として取り扱われており、話をする時は誰もいない場所で二人きりで話すことを約束している。

 とはいえ、エヴァリーナとティートは婚約者という間柄ではない。そんな二人が二人きりで部屋に籠ることは外聞的によくない為、二人が生徒会の役員である事を理由に適当に用事をでっち上げて、他の生徒会役員が来なくてもよいように画策し、生徒会室で密会を行っている。勿論、魔法で外に声が漏れないようにする事と、誰かが来たらすぐわかるようにする事は忘れていない。当然の配慮である。

「…………さあ、どうだろう。でもまあ、そう思えるのも当然だよね…」

 エヴァリーナに対して、ティートも呆れたように発言をする。

 彼の顔は、まさにげんなりという表現が相応しいようなものになっているのだが、エヴァリーナと違う事を上げるのであれば、そこに大きな嫌悪感が含まれているというところだろう。

 二人が揃ってからは三度目のやり直しとなる為、こうしてエヴァリーナとティートが二人で話す回数も多くなっている。その為に二人の仲は気さくに名前で呼び合う友人同士にまで発展し、ティートに至っては最初の頃に比べて大分砕けた口調で話すようになっていた。

「前回はロッソ様、その前はヴェルデ様。その前はネーロ様でしたか?」

「……そう。そしてその前はカールだ」

 頭に手を当てながらティートが大きく息を吐き出した。

 エヴァン・ロッソとアイゼア・ヴェルデは共に五大公爵家の嫡男である。ティートの同級生であり学校では三学年に所属しており、エヴァリーナ達と共に生徒会に所属する優秀な生徒達である。

 アイゼン・ネーロは学園に所属する教師の一人であり、爵位は侯爵。嫡男でない為に家を継ぐ必要がなく、今は教師として生計を立てている。魔法学科の担当教師であり、教師陣の中では異例の若さながらもその実力は本物と言われており、生徒達からの好感も高い。

 カール・ビヤンゴは今年入学してきた一学年に所属する男子生徒であり、爵位は伯爵。一学年の中ではその実力の高さを認められる程の有名人であり、魔法学科のホープと言われている――ただし、エヴァリーナの実力には全く及ばないのだが――。カロリーナとは同じクラスメイトでもある。

 今、エヴァリーナ達が上げた男達は、これまでのやり直しにおいてカロリーナが晴れて結ばれた相手だった。

 逆ハーレムよろしく大勢に粉をかけたわけではない。

 一人ずつ順番に粉をかけていって落とし、無事に結ばれて冬になったところでやり直しが発生し、新しい時が始まったら他の人をロックオンしているのである。たとえハーレムを作っていないとはいえ、これだけ沢山の異性に色目を使っていれば、エヴァリーナが色狂い等と称するのも仕方ないだろう。

「共通することといえば、彼らが優秀であることと……」

「容姿が良いこと、ですわね」

 ―――そう。

 たった今上げた男達に共通することは、まさに容姿が良いことで。

 彼らの誰もが女子生徒達から、きゃーきゃーと騒がれて注目されている人達だった。

「でもあいつら、好みは全然違うはずなんだけどな……」

 ティートは同学年ということもあり、エヴァンやアイビアと親しく友人関係を築いている。子どもの頃から知っている間柄ということもあり、彼らの好きな異性のタイプ等も把握しているのだが、ティートの記憶が確かであれば、二人の好きなタイプは全く異なるはずだった。

 けれど、そんな二人が過ごしている『時』は違うとはいえ、カロリーナに惚れて付き合うに至っているのである。普通に考えておかしな状況といってもよかった。

「それについては、カロリーナ様が態度を変えていらっしゃるからだと思いますわ」

「態度を?」

「ええ。折角、原因の追求をしているんですもの。少しでも情報が入ればと思いまして、彼女の行動を魔法で見張っておりましたの」

「見張り……」

「勿論、彼女の実力は私に及びませんので、全く気付いていませんわ」

「そ、そう……」

 全く悪ぶりもせずにさらっと言ってのけるエヴァリーナに、若干ティートが顔を引きつらせる。

 魔法で誰かを見張る等、普段であったならば犯罪行為といってもよい行動だが、今回に限ってカロリーナはそうされても仕方がない行動をとってしまっている。ティートは注意することをやめ、エヴァリーナの言葉の続きを待った。

「カロリーナ様、まるで女優か何かのようにお二人の前では全然態度が違うのですわ」

 エヴァリーナが魔法で見張って知り得た事だが、エヴァンの前では元気いっぱいの少女のような態度をとり、アイゼアの前では儚い少女のような態度をとっているようだった。その『時』によって、カロリーナは選んだ相手に合わせた好ましい性格を演じている。おそらく、エヴァリーナが知らない『時』でアイゼンらと結ばれた時は、また違った性格を演じていたに違いない。

 そんなカロリーナを見ていてヱヴァリーナが思った事は、一つ一つのやりとりが相手を絡め取る蜘蛛の巣の一本一本の糸か何かのようだという事。面白いくらいに相手の男が掴み取られていく。

 まるで相手の男の好みだけでなく行動パターンを把握しているように、ターゲットの前に現れて接する場を設けて、その度に好感を上げていく。面白いくらいに前の『時』と同じ行動をとらない為、本気でそれぞれの相手に対して台本でもあるのではないかと疑ったくらいである。

「まるで色々な殿方と結ばれる為にやり直しをしているみたいですわね」

 前にティートが言っていたように、こんな風に毎回違う行動をとっているのはカロリーナ以外におらず、彼女の異質さを目立たせる原因となっていた。

 他の生徒達を観察しなかったわけではない。他の生徒達も変わったところがないか目を凝らしてあちこちへと注意を向けていたものの、カロリーナ程違う行動をとる者は誰一人としていない。いるとすれば、カロリーナが違う行動をとる事によって関わり合いにならざるを得ない人達くらいである。

「ティート様のいう通り、やはり彼女が一番疑わしい、という事でいいと思いますが…………白魔法の適性があるだけで、カロリーナ様に時魔法の適性はないはず…」

 一人で幾つもの適性がある人もいるにはいる。エヴァリーナがそのよい例で、エヴァリーナは得手不得手こそあるものの時魔法を除く全ての属性においての適性をもっていて、様々な魔法を行使することができる。だがこれは稀な例でしかなく、大半は一つか、もしくは二つくらいの適性がある者が多い。そして適性がなければその魔法を使うことはできない。

 口元に手を当てて考え込むエヴァリーナに、ティートが言う。

「何か魔道具を持っているという線が強いんじゃないかな?」

「そうですわね…。それくらいしか考えられませんが………、ですが時魔法の効果がある物となると、国家管理レベルの魔道具になりますわ」

「……そんな物をどうやったら彼女が手に入れられるんだろうか」

「それはわかりかねますが………。女性である事を考えると、やはりアクセサリー関係が怪しいですわね」

 エヴァリーナはそっと耳元の髪を掬い上げて、自身の耳をティートへと見せる。

 そこには綺麗なエメラルドの耳飾りがつけられていて、普段は髪で隠れているものの、綺麗に輝きを放っていた。

 一見普通のアクセサリーに見えるものの、見る者が見ればこれが魔道具の一つである事がわかる。

「私もこうして魔力を抑える魔道具をつけております。一応、学園で魔道具を使用する場合は申請をする必要はありますが、見てそれとわからない物も多くありますし……」

「彼女も耳飾りをつけているし、見えないけれど首飾り等をつけている可能性はあるね…」

 もとも学園で宝飾をつける事は禁止されていない。貴族の子女にとって宝飾をつける事は日常的なことであり、多くの貴族が学園に在学している事もあり、禁止にすることはできなかったのだろう。

「手にとって見る事ができれば魔道具かどうかはすぐにわかるのですが……」

 エヴァリーナにカロリーナとの接点はない。

 よって、近くでそれを観察することもできず、判断が難しい。

 ほう、と息を吐くエヴァリーナは、とても残念そうな様子を見せた。

 その後も幾つかカロリーナについて話し合っていた二人だったが、ふ、と湧き上がった疑問をエヴァリーナは口にする。

「そういえば、『今回』のターゲットは、レオだと思うのですけど、ティートはどう思いますか?」

 その、言葉に。

 ティートがカチン、と固まる。

 あまりにさらっとエヴァリーナはその名前を口にしたが、話の内容を考えるのであれば、そんなさらっと告げていい名前ではなかった。

「え……? レオ……なのかい……?」

 おそるおそる尋ね返すティート。

 今回の『時』が始まってからまだ二週間程しか経っていない。その為、ティートはまだ、今回カロリーナが目をつけた相手について把握できていなかったのだが、エヴァリーナは違ったらしい。

「ええ、レオですわ」

 頷きながら。

 はっきりとした口調で言い切るエヴァリーナに、ティートの顔から血の気がひいた。

「ちょ、ちょ……っ、レオは君の婚約者じゃないか……っ!?」

「そうですね」

「そうですね、って、そんなあっさりと……っ」

 過去、カロリーナが見事に落としてきた男達にも婚約者である女生徒がいる者がいた。――当然だ。爵位の高い者程、幼い頃に婚約者を決めてしまうものが多いのだから。

 そんな相手がいる男を落としたということは、元いた婚約者との婚約が破棄されたという事に他ならない。

 ある時はその婚約者がカロリーナに嫉妬してしまい彼女に嫌がらせをしてそれを糾弾されて婚約破棄。またある時はその婚約者を男の方がどんどんと蔑ろにしてカロリーナに惹かれていき婚約破棄を男が願い出てしまったり。

 その工程は様々ではあるが、結果として婚約者達の結末は可哀想なことになってしまっている。

―――レオナルド・ジャッロ。

 エヴァリーナと同学の二学年に所属し、ティートと同じ騎士学科に所属する男子生徒であり、爵位は公爵。太陽のような金色の鮮やかな髪をした彼は、嫡男ではなく三男である為に、ヴィオーラ家の跡継ぎであるエヴァリーナの婿養子となる事が幼い頃に決められた、エヴァリーナの婚約者である。

 エヴァリーナとの仲は良好で、学園の誰もが認める恋人同士でもある。

 レオナルドも優秀である為に生徒会に所属しており、さらにいえば女生徒達が黄色い声を上げるくらいには容姿が良い。――つまり、カロリーナが今までにターゲットにしてきた男達と同じ条件が揃った物件といえた。

「だ、大丈夫なのかい……?」

「何の事ですか?」

「いや、だから、レオが彼女に誘惑されたり…とか……」

 心配そうに眉を下げるティートに、エヴァリーナはにっこりと微笑む。

「ご心配ありがとうございます。―――でも、絶対に大丈夫ですわ、レオは」

 自信たっぷりに。

 言い切るエヴァリーナの瞳には、全く心配の色は浮かんでいなかった。


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