幼馴染
「俳人、体操着忘れたの?貸そうか?」
「馬鹿。お前の体操着をなんで俺が着んだよ」
なんでも無い話をしよう。
小学校5年の時に転校してきたコイツ高崎 奈緒は腐れ縁で、中学そして現在高校2年に至るまで同じ経緯をたどっている。
「別にええやろ。私やらんでよくなるやん」
「アホ。胸に"高崎"って掲げた俺が体育やってなんでお前が見学なんだよ。問題になるわ。」
「お、そこに気付くとは...なんと、つまんない。」
「ふざてんのか?」
そして俺は内村 俳人。
ナオが「喋りやすいもん」「別に嫌ちゃうやろ?」
とカラカラと笑いながら隣に居るせいで「付き合っている」だの噂されている"独り身"の普通の高校生だ。
はっきり言って迷惑だ。本当に迷惑だ。
「ほんならとりあえず体操着の私でも見ときや」
「...アホ。」
「あー!照れてやんの!スケベ!」
...本当に迷惑だ。ああ、本当に。
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「あーほら、あったろ?小学校だかなんだかに部屋に金魚がいて生き物係が世話する、みたいな。あんな感じだよ。」
担任の橘がいつも通りの緩い口調で金魚を教室の端の机に置いた。
「生き物を大切にするという事はいつやっても学ぶ事が多い」などと最もらしい事を口走っているが数日前に
「いやぁ祭りってのはいいよ。先生、この歳になってもとっても楽しんじゃったよ」
と口走っていたことから概ね"すくいまくった"のだろう。そして飽いたな?わかりやすい。
「ってなわけなんで世話係を決めたいんだが」
「あ、じゃあハイトがいいと思いまーす!」
「なんでだよ!」
本当に勘弁だ。何が楽しくて朝だか夕方だか知らないが自由な時間を削ってまで...
「おー、じゃ内村頼むわ」
「え、ちょっと...」
俺の反論は一同の拍手により掻き消されて橘は命の尊さを語り続ける。
「なんであんな事言うんだよ。ほんとになっちまったじゃねーか」
コイツさえこんな事言わなければ...
俺はナオにぶつくさ文句を垂れた。
「んー、見たかったんだよなぁ」
「は?」
「ハイト覚えてるかな?小学校の時、生き物係が決まらなくて、ハイトは誰も世話しないなんて生き物が可哀想だって自分で立候補したんだよ?しかもめちゃくちゃ真剣に掃除してさ、日が暮れて帰ったりしてたよね。あの時のハイト、見たかったんだよなー。」
ごめんごめん。と軽い動きで笑いながら謝るナオ。しかしその「ごめん」は割と本気の「ごめん」であることは見てわかる。ハァッとため息をつき、返事をする。
「仕方ないな」
「私も手伝うからさ!ごめんってー!」
...その顔、ずるいんだよなぁ。
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