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08 二人の少女

 「もっと腰を入れて!」

 「はいっ‼︎」

 

 ジスが村の男たちを集めて、戦闘の訓練を始めていた。初日の訓練は槍術だ。

 

 槍は村人が初めに覚える武器に丁度良いだろう。間合いが遠いから恐怖心も薄れるし、遠いだけで有利だ。構造も簡単で、木や穂先に使う少しの鉄、若しくは石を削ったものでもある程度、代用が効く。今の辺境の村でも十分に作成可能だ。

 

 将来的には馬上から槍を使えるようになれば、立派な騎兵の誕生だ。

 

 槍とともに、村人に扱いやすい武器として弓矢も考えたのだが、驚くべきことにジスも含め村人の中にも弓矢を扱ったことがある者はいなかった。『神託』が重要視されるこの国にあって、弓矢の使用は、アーチャー(弓兵)ギルドと狩人ギルドの専売特許だった。村であれば、一人くらい狩人がいて、鹿や猪の生肉を提供していてもいいものだが、この村は肉を商人が運んでくるものに頼っている。

 

 じきに腕の良い狩人か弓兵を雇って、弓の扱い方も覚えてもらいたいものだ。

 

 「――それじゃ、そのまま『突き』1000本‼︎」

 

 ジスが早速、なかなかの鬼教官ぶりを発揮している。――と慣れない槍の扱いに四苦八苦している村人達に睨みをきかせながら、近くに腰掛けている俺のところに寄ってきた。

 

 「シュマリス、どう?結構いい感じだと思わない?」

 「ああ。初めてにしてはなかなかいいんじゃないか」

 「そうよね!私も村の人たちがここまで動けるとは思ってなかったわ」

 「農作業の重労働で、身体は出来ているのだろう」

 「それもそうなのだけど……シュマリス、本当に『神託』って何なんだろうね。今まで信じてたものが……」

 「……ショックか?」

 「うーん、それも、ないことはないけど。でもね、今はすごく色々な可能性を感じているの」

 

 可能性――か。それはすごく素晴らしいものだ。

 決まった職業に就いて、決まった場所に住む。今までは自由と程遠い生活をしてきたこの国の人々。

 皆が未来に可能性を感じられる国になったら、この国はどうなるのだろう。

 

 「……村の人たちも、みんな希望を感じているんじゃないかなーーみんな、そんな顔している」

 「ああ、いい顔をしている」

 「ねぇ、シュマリス……」

 「ん?なんだ?」

 俺の隣に腰掛けていたジスが、上目遣いで俺の瞳を見つめる。

 

 「もしも、私がこの国を変えたいって言ったら、協力してくれる?」

 

 国の役人に聞かれれば、反逆罪に問われても仕方ない言葉だーーが俺も同じことを考えていた。

 ジスを巻き込んでしまうのが考えもので黙っていたのだが。


 「ジス、その言葉の意味はわかっているか?」

 「……ええ、わかってる」

 「それなら、わかった。協力しよう」

 「ありがとう」


 お互い黙ったまま、少しの間があった。


 「わたしね。本当にあなたに出会って良かったと思っているの」

 「ジス……」

 「まだ出会ってから、ほんの少ししか経ってないけど、本当に感謝している。私の知らない世界を見せてくれるし……それに……ね。ほら……うーんとね」

 

 ジスの顔が赤くなっていた。目をそらされてしまう。その顔が魅力的で、俺も少し照れてしまった。俺らしくもない。

 

 「とにかく!わたしには、あなたが必要ってことなの!」

 

 なにかを誤魔化しながらジスがそう言ったあと、座りながらもぞもぞと近づいてきて、俺の肩に頭をもたげてきた。顔は全く見えないが、どんな顔をしているのだろう。まったく、女心はわからない。賢者の守備範囲外だ。

 

 ジスの髪の色香が鼻孔をくすぐりーーと、当然、後頭部に二つの柔らかい物体を押し付けらけた。

 「賢者さま、あたしという存在がいながら何をしているんですかぁ?」

 リリーが後ろから俺の首に腕を巻き付けて、後頭部に胸を押し当てていた。


 「リリーちゃん、わたしたちは大切な話をしていたのだけど」

 ジスがムッとした表情で窘める。

 「あたしにはそうは見えませんでしたけど。それに、あたしはシュマリス様の一番弟子ですから、当然その大切な話とやらを聞く権利もありますぅ」

 「いつの間にリリーちゃんは、シュマリスの弟子になったのかな?」

 「あたしは、シュマ様に選ばれましたから。もう、おじいちゃんとも話はついてますし」

 シュマ様って、俺か?

 「シュマ様ですって!?初級魔法覚えるまでって話だったじゃない!」

 ジスが怪訝な顔で俺を睨む。いや、俺何もしてないよ?

 「そんなことありません!シュマ様には、あたしの初めて(の魔法)を捧げたんだから、責任を取ってもらいまーす」

 「なっ、何言っているのよ、この子。わたしだってね、シュマリスとは同棲する仲なんだから!」

 ま、まだ城にはそんなに泊まってないけどな……

 「その割には、シュマ様に近づくのがぎこちなかったですけど?」

 「くっ――」


 ジスが怒りと羞恥で赤くなって、泣きそうな目で俺を睨む。俺を睨まれてもなぁ。

 ジスはそのまま、訓練中の村人のほうへ早足に歩いて行った。あとでフォローしておこう。


 リリーについては弟子にした覚えはないが……リリーをだしに使って村長を説得したのは事実だ。

 弟子というわけではないが、魔法は教えてやらなければならないか。

 

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