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07 自警団を作りましょう

 「自警団を作りましょう」


 「無理じゃよ!我々は、農民や商人しかいないのじゃ」


 「そんなことはありません」


 「わしらは『農民』や『商人』として神託を受けているんじゃ。いまさら『戦士』や『魔法使い』にでも転職しろというのか?第一、そんな金はこの村にはないんじゃよ」


 「そこに全ての問題があります」


 この国の子供は、15歳になる教会区内の大聖堂に赴き、『神託』を受ける。『神託』によって、その子が就く職業が決定される。神託を受けた少年少女達は職業ギルドに所属し、それぞれの職で一人前になるまで修行を受ける。


 しかしこの神託制度には、問題点が二つある。


 一つは、ほぼ親の職業を引き継ぐ形で神託が下されること。農民の子は農民。商人の子供は商人。


 もう一つの問題は、金で解決できること。金のある親が、大司教に賄賂を渡すことは日常茶飯事であるし、神託された職業が気に入らなければ、教会に多額の寄付をすることで職を変えることもできる。全ては金次第という訳だ。


 そのため、農民の子供は農民として、生まれ育った場所で一生を農民として暮らすことになる。商人の子供も同じだ。


 こんなものは、領民を体よく管理する制度以外のなにものでもない。


 しかし生まれてからずっと教会に通い、この宗教を盲信しきっている人々にとってそれは社会の常識に他ならない。自分の限界を『神託』の職業に限定してしまっているのだ。


 これを説得するのは、少し骨が折れることかもしれない。


 「シュマリス、シュマリス……さすがに神託があるんだから、それは無理じゃない?」


 ジスもその一人だ。ジスは親の職業を引き継いで『騎士』の神託を受けたのだろう。公爵家の子供が『農民』などと神託されてしまえば、大変なことになる。


 「俺は、教会の孤児院で育った。孤児院の近くには大聖堂があってな。そこで『神託』を受ける子供を多く見てきたんだ。大司教が賄賂を受け取るところも、大商人の子供がなりたい職業に就くところも何度も見てきた」


 「シュマリス……」


 「教会の近くで育ったからこそ、教会に疑問を持って孤児院を飛び出し、俺は旅をした。そこで賢者に出会い、その教えを受けて、今では魔法使いの術も聖職者の奇蹟も使うことができるし、暗殺者の短刀術も使える。普通の人間と賢者の違いは、『神託』に囚われているか、いないかの差だけだ」


 もちろん才能によるところもあるが。


 「じゃがな……」


 「では、あなたのお孫さんをお借りできませんか?」


 「リリーを?」


 「あの子には、魔術の才能を感じました。あの子の神託はなんでしたか?」


 「リリーは、『農民』じゃったが……」


 「では、お孫さんに初級魔法を教えます。魔法を使えるようになれば、信じてもらえますか?」


 「うーむ……お前さんには何度も借りがあるし……わかった。リリーを預けよう。ただし一週間だけじゃよ?」


 「ありがとうございます。それだけあれば十分です」


 そうして俺たちは村長の家を出た。扉の前に村長の娘ことリリーが立っていたのは予想外だったが。


 「賢者さま……」


 「リリー……」


 リリーが俺の手を両手で握って、上目遣いで見上げてくる。


 「あたし、うれしいです。賢者さまに選ばれて」


 うーむ、確かに選んだは選んだんだが。何かが違う気がする……


 それにジスがジト目でこっちを睨んでいるのも気になる。


 「君には魔法の才能を感じる。これから一週間もあれば十分に初級魔法を覚えられるだろう……」


 「あたし、頑張ります!」


 不意に抱きついてくる。


 「シュマリス……とっても嬉しそうね。リリーちゃん、おっぱい大きいもんね……」


 ジスがそんなことを冷ややかな顔をして、そうつぶやくもんだから、不意に身体に当たる二つの柔らかいものを意識してしまった。




 それから俺はリリーに魔法の手ほどきを始めた。


 リリーは、桃色の髪をおさげに結んだ女の子だ。今年、神託を受けて『農民』となった。身長は低いが、出るところは出ている。


 この一週間で魔法使いの基本中の基本、火の玉を具現化して投げつける『ファイアーボール』を習得させる。


 「そう、目を閉じて集中して。両手の間に何か感じるかな?」


 「……なにか、とても暖かいです……」


 「うん、いいよ。それがどんどん大きくなって、どんどん熱くなっていく。そうイメージするんだ」


 「ああ、賢者さま。どんどん熱くなってる」


 「うん、とても上手だ。そのまま続けて……」


 「――すっ、すごい、すごく熱いです」


 ジスが、ジスがすごい怖い目でこっちを見ているが、こっちだって真剣だ。


 「リリー、目を開けてごらん」


 「うわぁ」


 リリーの両手の間には、小さな炎が具現化されていた。


 ここまで来るのに3日間かかったが、十分に早いほうだ。筋がいい。


 「よし。ここまでくれば大丈夫だ。それをどんどん大きくしていくぞ」


 「はい!」




 そして、村長との約束の日になった。


 「賢者殿、孫は魔法が使えるようになったかね?」


 「はい。やはり才能があったようです」


 「では見せてもらおうかのう」


 「リリー」


 「はい。おじいちゃん、見ててね」


 リリーは両手を構えて、集中する。標的は、村の外れに生えている木だ。


 「煉獄の精霊たちよ。集いて、罪深き者たちに鉄槌を下したまえ――ファイアーボール!!」


 リリーの両手から放たれた炎の球は、勢いよく目標の木に到達し、木を燃やした。


 見ていたものにどよめきが起こる。


 「な……本当に魔法を使えるようにしてしまうとは……」


 「お孫さんの才能です」


 「……仕方あるまい。賢者殿、わしらはあなたに従おう。なんとか、わしらを救ってはくれぬか」


 「村を救うのは、あなたたちです。俺はその手助けをするだけで」


 「賢者殿……」


 こうして、この村は自警団を組織することになった。


 しかし俺はまだ気が付いていなかった。この一部始終を遠くから目撃していた人物の存在に。


 その人物はこの村の教会で働く、唯一の聖職者であった。 


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