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01 追放、追手

 アルトリア王国が冬の時代を迎え、すでに5年が経過していた。


 豊かであった国土は、突然の魔王の出現によって、その半分が支配され、荒廃の野と化していた。


 しかしこのところのアルトリア王国軍の奮戦、特に勇者として神託を受けた第一王子ブライアス・アルトリア殿下のパーティの活躍により、王国は魔王の支配領域の解放を進め、いよいよ追い詰めつつあったのだ。


 ところが、突然もたらされた国王アルフレッド・アルトリア陛下の訃報。


 魔王討伐の軍は進撃を停止、防衛戦を構築して戦線は膠着。勇者のパーティは王都への帰還を余儀なくされた。


 国王急逝の報を受け、国内では多少の反乱騒ぎがあったものの、ブライアス殿下が王都に帰還したことにより、王国内はおおむね平静さを取り戻した。


 あとは今年16歳を迎えたブライアス殿下が正式に国王として即位し、自らが軍を率いて魔王を討伐する。それは全国民の希望であるとともに、実現すれば後世語り継がれる英雄譚となるはずだったが、現実とはそう上手くはいかないものである。



 「シュマリス、君はもうパーティに必要ない」


 シュマリス、つまり俺が、一時帰還中の王都で、勇者兼もうじき国王として即位するブライアス殿下にそう伝えられたのは、突然のことだった。


 「君は確かに優秀な賢者だが……今、パーティに必要なのは、屈強な近接職だ」


 「優秀とは、恐縮至極」


 突然とは言え、全くの予想外という訳でもない。余裕たっぷりそう返答してやった。


 ブライアスは余裕の態度を示す俺に対して、納得のいかない様子だった。


 「君を僕の教育係に任命したのは父王だ。父王亡き今、追放するのにもう許可は必要ない」


 ここにきてようやく、勇者であるはずのブライアスの整った顔が、対照的なその心の醜悪さを隠しきれず、歪んだ笑顔を向けてきた。


 (まあ、そうなるだろうな)


 先王アルフレッド陛下に教育係として召し上げられ、勇者ブライアスのパーティに参加。最善の選択肢をブライアスに説き続けた結果、俺はパーティを追放される。

ようは邪魔者なのだ。特に強欲なブライアスにとっては。


 「先王の後ろ盾をなくして惨めなものね。シュマリス。さっさと殿下の前から消えてくれない?」


 こう発言した赤い短めの髪にローブを纏った少女は、魔法使いのローレットだ。挑発的な態度からわかるとおり、直情的な性格であり、この女の興味は、殿下のお気に入りになることだけのようだ。将来は妃の座でも狙っているのだろう。


 「仕方ありませんわよね。今、パーティに必要なのは貴方ではないのですから」


 そう言ったのは、パーティの回復役を務める聖職者。ヒルダだ。長い銀髪、美しい顔立ち、聖職者らしい黒色の僧衣では隠し切れない色香を持っている。腹のうちを見せない女だ。おそらく、こちらも殿下の力を利用して教会組織のトップにでもなる算段なのだろう。


 ブライアスが金色の前髪をかき上げた。


 「パーティの総意だ。悪いな」


 (これ以上、このパーティにいるのは理由はないな)


 「……わかりました、殿下。ご武運をお祈りいたします」


 俺は言葉だけでも礼を失さぬようにし、城をあとにした。空は赤みがかっていたが、城下の商店街を抜け、すぐに王都を離れた。


 できれば馬の一頭でも調達したかったが、時間がない。


 刺客、毒殺、事故や自殺に見せかける。ひっそりと殺す方法はいくらでもある。いずれにしろ、殿下に命を狙われるのは間違いない。


 とにかく今は、一刻も早く街を離れるのが最善だ。


 辺りが薄暗くなる中、街道を北へ向かって歩いていると、後ろから騒々しい地鳴りが響いてきた。複数の馬蹄の音だった。


 (王室直属の親衛隊か。思ったより早かったな)


 白いマントの中央には赤いドラゴンの刺繍。王室親衛隊の装備に身を包んだ騎士達はすぐに追いつき、俺に誰何の声を上げてきた。


 「そこのお前、ちょっと止まれ」


 「なにか用かな?」


 振り向いて返答した俺の顔を見て、騎士の一人がにやりと笑みを漏らしたが、すぐに真顔に戻る。おそらく隊長格だろう。


 「賢者シュマリスとお見受けするが?」


 「そうだが。親衛隊に呼び止められる覚えはないな」


 「王室への反逆罪により、連行させていただく。しかるべき裁きを受けられよ」


 (しかるべき裁き?どこか目立たぬ場所で処刑する腹づもりだろう)


 「悪いが、お断りする。」


 親衛隊は一斉に抜刀し、周囲を囲んだ。


 「致し方ない。この場で構わん。殺せ!」


 ……12人か。殿下も容赦ないお方だ。しかし、俺を甘く見過ぎていたようだな。表向き冴えない教育係として力を隠しておいた甲斐があった。


 「それでは、俺の賢者としての妙技。――お見せしよう!」


 俺の不敵な笑みを見た騎士たちが一斉に襲い掛かってくる。が、遅い。


 俺が掌を地面につけた瞬間、周囲は白の世界に包まれた。冷気、吹雪、凍結。


 鋼鉄製の鎧に身を包んだ騎士達は、声を上げる間も無く凍死した者、身体の一部が凍結し苦痛の叫びを上げる者、凍ったまま落馬し粉々に砕け散った者など、一撃で壊滅状態に陥った。


 俺を先刻、呼び止めた隊長格の男は、凍結した右腕を押さえながら苦悶の表情で、睨みつけてくる。


 「無詠唱でこんな……化け物か!」


 「失礼な奴だな……戻って殿下に伝えろ。黙って殺される気はないとな」

 

 「この……」


 「あと、その凍った腕だが、溶けても元には戻らんぞ。今のうちに切り落とすべきだな」


 「くそが!」


 氷に閉ざされ壊滅した騎士達を残し、俺は足早にその場をあとにした。


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