1 社長魔王は勇者になりました
空が青かった。
小さな雲が右から左にゆったりと流れる。
そよ風が額の上をなぞるように吹く。
草の冷たさを感じる。
鳥のさえずり。
草木の擦れ合う音が聞こえる。
体に力が入らない。
全てをを邪魔するように眼に映るステータス
lv1 ジン・マサカ
職業 勇者
HP 10/10
MP 115/115
鬱陶しさから目をそらす。
ゆったりと、しかし確実に時間が流れていく。
そう、そうやって時に身を任せていればいずれ肉体は滅びる………………
筈
なのにあれ……あれ……
おかしい
ステータスが見えている!けど、減ってない!
「いや、そんな細かいこと以前におかしいことたくさんあるだろ」
思わず一人で突っ込みをいれてしまう。
まずここどこ?
さっきまで魔王城にいたよね?
何故道端の木陰で休んでる?
そもそも死んだよね?
何で生きてんの?
不滅宣言したから? 別にあれは魔法でもなんでもないのだが。
そういえばあの時何て言ったっけ?あぁそうだ「私は……」どうも記憶も一部喪失しているらしい。顔を真っ赤にしながら自己分析を続けた。
「ここが死後の世界」という可能性はすぐに消え去る。以前聞いた話だが、ゴースト族のゴウさんが、死んだら冥界の神に
「ゴースト or ヘブン」
と聞かれて今後を決めると言っていた。また、実体と記憶のどちらも持っていくことはできないとのこと。
因みにゴウさんがゴーストを選んだ理由は生前できなかった女風呂の覗(自粛)
げふんげふん。毎回思考が脱線する。こんなんだから不滅宣言の時もあんなミ(絶句)
……………………
……………………
落ち着こう。
まずここは道端の木陰。私はなぜか寝ていた。ついさっきまで勇者と戦い負けた。よし、いいぞ。
それよりもさっき見えたステータスは何だ? 勇者 だと? しかもLevel1 だと? 今さっきまでずっと殺し方を考えていた、消し去りたいランキングぶっちぎり1位の相手ではないか。
どこのどいつだ?今すぐ肉片に変えてやる……
……どうも犯人は私です。
この瞬間、というか目が覚めた瞬間から、前世でで宣言した来世での目的は達成不可能になっていた。
「こらっジンっ! 一体どこで道草食ってたの?」
現状に混乱し、慌てふためいていた……わけではないが、突然黄色い声が差し込まれる。
恐らく私に対して向けられた言葉。思わず振り返る。
マーメイドか? いや違う。足がある。
流れるような青髮
クリスタルのようなブルーアイ
透き通るような肌
無理に強調はしてないがはっきりと分かる魅力的な胸
俺の死の間際まで詠唱を続けていた魔術師と似た、あの白いローブをつけた少女が
仁王立ちして
(あ、パンツ見えそう)
私の頭をポカリと殴っていた。
やはり魔術師はドsらしい。
魔術師の癖に筋力値高いらしい。
気絶(嘘)
「痛」
「自業自得よ、バカ。それよりジン! 何してたの? 叫んで飛び出したと思ったら、いなくなって。探したんだからね!」
困った。全くもって身に覚えがない話である。どうも天から人が降ってきたという状況ではないらしい。
目の前の少女に見覚えはない
①話す ②戦う ③道具 ④逃げる
①の場合私は道草食ってた馬になる。
②の場合こぶが増える。
③に至ってはそもそもない(なら選択肢に出すな)
ならば残された選択肢はただ一つ
逃げるのみ。さあ、
「ほら、さっさと帰るよ。村長に事情説明しに行かないと」
首根っこ掴まれて引かれては、そもそも一つも選択肢はなかった。
……
「私は人形ではないので歩けますから、とりあえずその首元の手を離して頂けませんか」
引きずられること三分ほど、出来るだけ丁寧に①の選択、別ver.をとる。
「勇者になったー」とかなんとか叫んで、村を飛び出したという奇行を行なったというジンくんこと私。
村長はその勇者について真偽を確認したいだけらしい。決して私は犯罪者として連行されているわけではないようだ。彼女の独り言の節々から分かった。
(勇者であることについて、隠し通す選択肢がなくなったことに多少絶望したが、その前に)犯罪者でもないなら女の子に首ねっこ掴まれて光景は恥ずかしいことこの上ない。
流石に視線が痛い。
ケツも痛い。
彼女は不意に足を止め、無言で手を離した。
よかった。
どうも、正解のよ…う…あらら、なんかこっちを見る目がおかしいですよ?! 何か珍獣か珍魚か珍子でも見るような目ですよ?!(どんな目でしょう)
もしかしてあれですか?呼んでおいて実は人違いでした〜的な?そんでもってなんとも言えない空気が残るあれですか?
ごめんなさい。
目の色が違いました。
明らかにこっちを見下す目、哀れみの目でした。
あー
また何処かで何か間違えたのでしょう。
ああ、また何が悪かったのかも分からずに死ぬのかー短い人生だったなー(実に10数分間)
それではサヨウナラ、また来世で会いま
「ジンって、まともに話ができるんだ。驚いちゃった。」
あれ、なんか少し泣いてる?
あれ、もしかして
いや、まともに考えろ。
いまいち立場が分からないが…同じ人間に対していう言葉にしては、
絶 対 バ カ に し て る だ ろ。
読んで下さる方がいて感謝です