3 〜Chocolate Days〜
100以上の破片が全身に埋没。
損傷した右半身のうち、もっとも被害のひどい右手の神経が損傷。
それ以外の箇所に重度の火傷。
右目の失明。
それが、愛海の受けた聖疵。
手術や治療を終え、峠を越えたころ――
丘の下にある、大きな市立総合病院。
療養施設をかねていて、手術を終えたあともしばらくはそこで休養ができるのだ。
愛海も、今はそこでお世話になっている。
そして――
「昔はね。よくいっしょにいたよ。……いっしょに遊んでた」
誰もいなくなった、薄暗い待合室に、彼らはいた。
そらと陸緒が。
「空薬莢拾ったり、レジスタンスのラクガキで字の勉強したり、燃え残った戦車を家にしたり……」
それはそらの独白。
意味のなさない、思い出の引き上げ。
だけどそれを陸緒は、口をはさむわけでもなく、ただ黙って聞いていた。
「神徒学校に来てから、別々に暮らすようになって……。愛海が泣くところ、はじめて見た……」
「…………」
「しょうがないからよく部屋に忍び込んだ。ときどきケーキとかパンとかお土産に買って持ってきてさ。喜んでくれたよ。――何も買わなくても喜んでたけど」
「…………」
「愛海はね。ああ見えて結構がんばりやなんだ。疲れて寝てることが多くって……」
「…………」
「僕がいっしょにいても、平気で寝てるんだ」
「…………」
「無防備な愛海の姿が……どうしようもなく怖くなった」
「…………」
「自分の中で、自分じゃない感情がわきあがってくるのがさ……」
「…………」
「ケモノみたいな――感情なんかじゃない感情が……怖いよ……」
とうとう、押し潰されてしまったかのように黙ってしまうそら。
ただでさえ小さいその体が、今は子供みたいに縮んでしまっているかのようだった。
その小さな背中に、陸緒はつぶやいた。
「……安心しろ。男はみんなケモノだ」
陸緒はそらの肩をつかんで、思いっきり握りしめてやる。
そらは「痛いよ」と困ったように顔をしかめたが、陸緒は力を緩めなかった。緩めたくなかったんだ。
「俺帰るわ」
もう消灯時間だしな、とつぶやきながら、陸緒は腰を上げると、凝りをほぐすように肩を回す。
「おまえは行けよ」
「……?」
「今の夏川に必要なのは医者でも薬でもねえ。――おまえだよ」
立ち止まって、くるりと振り向く。
「今までさんざん無視コいてきたんだ。たくさん話せとは言わねェよ」
そのまま、にかっと笑った。
「うんと、甘えさせてやれ」