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4 〜True Lies〜

 ノックもなしに、ドアが開いた。

 蹴り上げるような乱暴な勢いで、陸雄りくおが植物研究愛好会の扉を押し開いたのだ。

「どうしたの? リク。なんかイライラしてるけど……」

「どういうことだ、そら!」

ヤブからボウに何……ちょっと、やめてよ! なんでパソコンのコンセント勝手に抜くのさ、いま粘菌の仮説を――」

「悪ィが無期限休止だ」

「ねえ、なにがあったの? いきなりそんなことを言われたって――」

 そらの文句を押し黙らせる、陸緒の射殺すような視線。

 怒りの原因を――答えを彼は吐き出した。


「おまえ――夏川の告白断ったらしいな」


 さすがに驚いて、そらは言葉を失う。

「……どこで聞いたの? そんな恥ずかしい話」

「本人からだよ」

 ……うわぁ、ごまかしようがないや、とそらは観念したように苦笑いした。

「……うん。言ったよ」

「部活にいることが多いのはそういうことか? あいつを無視するためか?」

「…………」

「俺といっしょにいるのもそういうわけか!?」

「…………」


 しばらく、何かを考えるふりをして、そらは陸緒と目を合わせた。

 とても真剣なまなざしで。


「リク、きいて。粘菌の特性を解析したら――」


 期待とまるで違う内容に、陸緒はキレた。

「うるっせェ!!」

 殴る代わりに、そらのそばにあった机の上のビーカーや試験管をなぎ払う。無力なガラス製の実験道具が床ではかなく砕け散っていく。

「怪物だろうが殺人だろうが妖怪だろうがバイ菌だろうが……ンなの俺たちにゃカンケーねェだろーが!」

「――っ!?」

 いかなる理由か、その言葉にそらはひどく傷ついたような顔をする。

 不可解だった。

 自分たちとはかかわりのない話ではないか。


「わかったよ。そんなにバイ菌の話がしたけりゃ存分にしてやる……」

 なかばキレ気味に叫ぶと、陸緒はポケットの中からくしゃくしゃの紙切れを、そらの前に叩きつける。

「これが何かは、言うまでもないよなァ?」

 言われて、そらは目を見開く。

 なぜなら、それはそらの自宅にあったものなのだから。


 それは白い紙

 それは手紙。

 それは――


 文末に書かれた文字――【さよなら】。

 つまり……遺書。


「なんでこんな縁起のねーモンがお前の部屋にあるんだろうな?」

「……どうやって忍びこんだの?」

 驚いているそらに、陸緒はほんの少しだけ勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 ポケットから出して、指にぶら下げたのは――ピッキングツール。

「シリンダー錠なんてな、今どきカギなんて言わねーんだよ」

「分解したんだ……さすが機械工学科だね」

「安心しろ。夏川にはまだ言ってない」

「ごめん……」

 そらは苦笑するが、陸緒は真顔のままだった。

 いや、今にも崩れてしまいそうな、泣きだしそうな顔をしていた。

 だって遺書を残すということは――それは、つまり……

「お前……まさか――」

「…………」



 突然、

 世界の悲鳴が、平手打ちのようにふたりに不意打ちをかけてきた。


「なっ……?」

「爆発!!?」


 突然の揺れが学校を襲う。

 ケンカを中断して、ふたりは外を見やる。

 悲鳴におびえるガラス窓。

 遠くから響いてくる、爆発の音。



 二人は知ることになる。

 体育館に爆弾がしかけられていたこと。

 犯人は、化学技術科の生徒であること。


 

 それから――


 爆発に巻き込まれたのが一名。



 夏川なつかわ愛海あみという名の乙女であること……。

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