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10 〜GAME START〜

―読者様への注意事項―


本作品は、夏ホラー2008百物語出展作品です。

演出上、残酷な描写および不快な表現が含まれています。

気分を悪くされたり、生理的に受けつけない場合は観覧を中止して下さい。


以上の注意事項を踏まえた上で、閲覧をお願いいたします。

 ずっとずっと昔。

 世界のどこかで戦争がおこった。

 

 ずっとずっと昔。

 日本という国が戦争にまきこまれた。


 ずっとずっと昔。

 子供たちは戦争でたくさんの物をなくしてしまった。



 そんなとき。

 とてもとても大切なものが見つかったら――あなたならどうしますか?


 つかみとりますか?

 自分からつけ離しますか?


 それとも――
















―バクテリアプレイ―












 ■ □ ■ ■ ■ ■



 暗闇を照らす、携帯用高輝度LEDライトの明かり。


 タイルのはがれた、埃のつもった床。

 ところどころを錆やカビに侵食された壁。

 すっかりくもって、外を映さないガラス。

 黒ずんだ、かつての輝きを失った蛍光灯。

  

 それは、どこにでもある廃校の風景。

 少子化・未成年犯罪・吸収合併……事情はさまざま虹のごとし。

 世界から取り残され、人々の記憶から忘れ去られ――ただ、時間の流れだけが変わらない。

 

 校舎を埋めつくすのは――大量の土砂。

 土の重さそのもので建物自体を潰すという、独自の壊し方だ。

 そのおかげで窓は土にふさがれ、一切の光が入ってこない。

 生ぬるい空気と、息を吸うだけで肺が腐ってしまいそうな、そんな場所。


 物音ひとつないその空間に響き渡る――人々の足音。

 こんな不気味な場所を歩くのは、いつだって【興味本位な物好き】だ。

 

 ――肝だめし。

 地球が何十億回と回ってもなお、幼く未熟で無知な子供たちの間でおこなわれるイベントのひとつ。

 宇宙に飛び立つ時代になっていても、ヒトの心は怪奇を求めてやまない。

 恐怖に対する興味は、汲めども尽きることはないのである。


 ましてや、夏という季節ならば。




 しばらく歩いて、階段を上って、別の校舎に移ったりして、廃校ツアーは続く。

 幽霊や化け物がそうそう出てくるわけもなく、子供たちの間でかわされるのは野球の話題やテストの不出来など、地味なことこの上ない話。

 それでもそこそこ盛り上がり、だけど飽きてきたので適当に切り上げて帰ろうという空気になってきていた。



 そのとき――【出会って】しまったのだ。


 

 それは教室の扉だった。

 何の変哲もない、どこにでもある平凡極まりない引き戸。

 だけど、

 だけど……

 子供たちは確かに感じ取っていたのだ。

 気味の悪い【何か】を。


 子供たちは一斉に、口をつむぐ。

 和んでいた空気は一気に冷えこみ、緊張感がただよってくる。

 暗闇が質量をもって、子供たちの背中を舐めてきた。

 好奇心と恐怖の入り混じった手で、子供たちのうちのひとりが扉に触れ――そして開くべく横に引いた。



 …………。

 …………。

 …………。


 ……動かない。



 どういうわけか、扉はいうことを聞いてくれない。

 鍵がかかっているわけではない。

 石のように動かないわけでもない。

 何か、重い何かがはりついているかのような……。

 しかもその何かは千切れかけている。


 それが、子供たちの興味に拍車をかけていた。

 もう少し、もう少し……。

 そんな子供たちの空気を背中に受けて、扉の前にいる少年がさらに力を込める。

 

 引っ張る。伸びる。

 引っ張る。伸びる。

 引っ張る。伸びる。


 引っ張る。【千切れた】。



 

 ――邂逅デアイ


「…………っ?!!」


 子供たちは、唖然としていた。

 子供たちは、呆然としていた。

 子供たちは、愕然としていた。


 子供たちが出会ったのは――黄色だった。


 壁も床も天井も――すべてを覆いつくした黄色。


 脈打つ黄色。

 波打つ黄色。

 胎動する黄色。

 腐った匂いの立ちこめる黄色。


 黄色、黄色、黄色……。


 心臓のような腸壁のような皮膚の裏のような黄色に、子供たちは圧倒されていた。飲み込まれていた。


 膨れ上がっていく、音がした。

 手にもっていた懐中電灯が、ぶるぶると震える。

 光にあてられた黄色が、光にあてられたところだけが――ぶくぶくと膨れ上がっていたのだ。まるで光に刺されて悲鳴をあげているかのように。


 子供たちは動けない。

 黒い闇の中に浮かぶ黄色に魅入られ、あるいは縛られて一歩も動くことができなかった。


 多分、賢い選択は【逃げる】ことだったのだろう。

 それを選べば、よかったのかもしれない。

 だけど、それを選択するには、彼らはあまりにも未熟すぎた。



 やがて、運命のときはやってくる。

 ぱぁんと皮でできた風船が割れる音が、闇に響いて木霊して溶けていった。



 土砂のように覆われた学校のように――


 子供たちの心臓が、潰れていく……。

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