07
ボクはリップス達に案内されるような形で、中央市場まで足を運ぶ事となった。
この通りの向こう側に太陽信仰の教会があるらしい。
市場では、多くの生鮮や雑貨が取り扱われており。
まさに生活の中心とも言えるような店舗の多さであった。
屋根の付いたフリーマーケットようなの小さい商店が、ザッと数百並んでいる。その隙間を数倍の人達が歩いているのだ日本でも中々お目に掛からない規模だろう。
その光景にボクは目を奪われていた。
何より、そこを利用している『人種の多さ』に驚かずにはいられなかった。
スケルトン、オーガ、ケンタウルス、人魚、シルフ、ゴーレム何でもござれ。
とてもボクと同じ生物とは思えない体格の者もので。
ごった返していたのだった。
「……この市場は中心部に近いですから、利用客も様々なんですよ」
見取れていたボクにセメリアが説明してくれた。
「ほんと大きいですね」
「ええ。郊外からきた旅人は、この光景を見て頭がクラクラすらしいです」
「へー。何か名物でもあるの?」
「あ。この辺りのですか」
「うん」
「どうですかね。色々な人達がいますので、これが名物、という物はないのではないでしょうか」
「へー。そうなんだ」
「はい」
「言われてみれば僕の住んでいた所も人は多かったけど、これといって名物はなかったかなぁ。観光客、目当てのに作った名物だったらあるけど」
「ふふ。それでしたら私も知ってます」
「あ。やっぱ、こっちでもそういうのはあるんだ」
「ええ。甘い果実を砂糖で煮込んだソースを小麦粉で包んだだけの料理が有名ですが」
「あはは。小麦と果実なら、どこにでもありそうだね」
「ええ。そうなんですよ。だから大切な人に名物と聞かれも、それを答えるのは少し抵抗がありまして」
ボクとセメリアの二人はしばらく笑っていた。
遠くの方で妖精リップスが、のんきに試食品を食べて回っている姿が見えた。「にしししし。ばーか」地元の人間も馴れているらしく、それを棒きれでブンブン追い払っていた。
ガヤガヤと辺りの騒ぎは大きかった。
何を話しているのか分からなかったが、妖精は楽しそうに舞っていたのだった。
「……気を使わせてすいませんでした」
やがて通りを歩いていたセメリアはポツリと呟いた。
「え」
「先ほど質問の事です」
「……ああ」
「突然だったので言葉につまってしまいました」
「別に良いんだよ。だれだって、そういう事はあるから」
「いえ、そういう訳にも、いかない事情があるんです」
「え」
「これから先に向かう太陽信仰の部署ですか。そこで、カッキーは様々な憶測を耳にする事があると思います」
(……関係ないけどカッキーは定着したのね)
「ですが、これだけは信じてもらえませんでしょうか。私は誰かに危害を加えるつもりだけはないと」
「……」
「……」
「え。それだけ?」
「はい」
「いやいや、何か、こう続きの説明があるのかと思っちゃったよ」
「そうでしたか。すいません」
「いや、別に誤らなくても良いんだけど。もっと色々と聞けると思ってたからさ」
「しかし、私に他に秘密なんてありますでしょうか……」
「それをボクに聞かれても」
ポンとセメリアは手を叩いた。
「ああ。後は私がこの世に一人だけの、エルフと妖精のハーフという事ぐらいですか」
「それねっ!」
「え」
「そういう大事な情報はもっと意味深な感じで欲しいなぁ! ほら、もっと窮地に落ちているような状況とか、死にそうになっている時とかでさ! それがセオリーじゃないの!?」
「は、はぁ」
「だってケッコー大事な情報だよ」
「そ、そうなんですか。私にはよく分かりませんが」
「もしかしてカマトトぶってない?! ダメだよ。もったい付けて情報を小出しにするけど、蓋を開けてみたらベタだった、みたいな事山ほどあるんだから」
「はぁ」
セメリアどん引き。
「だって君とお姉さん、全然、体の大きさが違うじゃん!」
「そ、そうですね」
「それなのに姉妹って言われてもさ! でも、そこはナイーブな話しっぽいから、ズケズケと聞けないしさ」
「今聞いてますけど」
「ボクとしては、なんでだろう、って疑問がずっとわく訳よ」
「あー」
「で。どう!? ムリには聞き出さないけど」
「なんで、なんでしょうね」
セメリアは真顔で答えていた。
「おぉぉおおおぉぉいいいっっ」
「ふふふ」
「笑う所じゃないでしょう。何で知らないのさ」
「さあ」
「じゃあ、さっき言っていた事情って何さ」
「?」
「分からないの! せめて文字で返してよ」
「はぁ」
「ボクが憶測を耳にするとか言っていたじゃん」
「ああ、それは太陽信仰は割と誤解されやすい所なので。訂正です」
「それだけ!」
セメリアは商店のよく磨かれたリンゴを手にした。
「私は、あんまり深く考えた事はないんです。私たち姉妹は幼いころ、太陽信仰の教会に預けられました。父と母の手紙と一緒に」
「……」
「確かにどうしてだろうと思う事はありました。他の家庭と、どうして違うんだろうって、幼い頃は悲しくもなりました」
「……」
「確かに欠けているものは沢山あります。でも、私には、いつだって大好きな姉が側にいました。いつだって、ずっと神と共にきたんです。それだけで私の心は何時も満ちてりているんですよ」
セメリアは微笑んでいた。
それは春を迎えて雪解けした水のようにキラキラと、どこまでも透き通った笑みであった。彼女は心から今幸せだと答える事ができる、そう確信させる表情であった。
「おーい、二人して何してるのさ。早く行こう」
戻ってきた妖精リップスはボクの頭に座っていた。
隣ではセメリアが微笑んでいる。
さっきのは無粋な質問だったかな。
そうボクは心の中で反省するしかなかった。
焦らずに、この世界を推論していこう。
彼女たちと共にボクは歩き始めたのだった。
練り直します




