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探偵に憧れる少年、異世界に飛ぶ  作者: AOSSS
出会い&ドワーフ殺人事件
4/7

#04 「推論クイズ」

 

 ボクは道に横たわっているドワーフの死体に近寄った。

 初めて見る異人の死体に若干の緊張が走り、自分の手を見れば少し汗が滲み出していた。


「……二つほど貴方に伝えておきたい事があります」

 ボクの緊張を察してか、太陽信仰の使徒セメリアが話し掛けてきた。

「?」

「私は争いの種を無くす事に同意しました。しかし、それは決してこれが殺人事件だと認めた訳ではありません。余計な争いを産むようでしたら直ぐにでも止めさせますので」

「分かってますよ」

「むむ。本当ですか」

「本当ですってば」

「それなら良いのですが」

 ほんの少しセメリアは柔らかい表情をしていた。


 一人で戦争を止めようとした責任感から開放されてホッとしているようだった。彼女の白い指は不安そうにボクの服を申し訳なさそうに掴んでいる。その姿だけ見ると、どこにでもいる15才という年相応のようにも感じられた。


 ボクは聞いた。

「……そんな感じじゃないよね。君、なんでカーチャンなんてあだ名が付いてるのさ」

「その名前で呼ばないでください! まだ私は15才なんですよ!!」

 セメリアはちょっと涙目だった。

「ご、ごめん」

「ふん!」

「あ、ははははは……」


 セメリアはゴホンと咳き込んだ。

「……それと老婆心ながら一つ聞きたいのですが」

「なに」

「被害者に刺さっているナイフには誰も触った痕跡はありませんが。それは、どう考えているのですか」

「あえ?」

「痕跡ですよ」

 その突拍子もない台詞にボクは汗がすっごい出てきた。

「……な、な、な、なんでセメリアは痕跡がないって分かるんですか?」


「まさか貴方は、私が何の根拠も無しに殺人事件ではない、と言っているつもりだったのですか」

「うん」

「ひどい!」

「で、でも」

「むむむ。それは心外です」

「あ、あははは。でも、ナイフって」

「ええ。ナイフには触った『マナ』の痕跡はありませんでした」

「マナ?」

「貴方、もしかして『マナ』について知らないんですか」

 何だか知らないとは言えないような雰囲気をセメリアは出していた。

 乳飲み子ですら分かっている事なのに、なぜ知らないのかと彼女の瞳は疑問視が浮かんでいた。


 マルシアーヌ・セメリアは説明する。

 『マナ』とはこの世界の根幹にして、神のお膝元にまでたどり着く事の出来る唯一の道であると。


「根幹?」

「そうです。肉体と精神を紐づけるだけではなく。

 この世の全てを土台と紐づけていけるものです。

 太陽から、生物、そして神に至るまで繋がっているもの」

「……」

「そして、それは一人一人の生命にも紐付かれ、同じ螺旋の和は存在しえない。それが『マナ』です」


 ボクにはその説明でも正直ピンとこなかった。

 だが、セメリアの言葉どおり全ての生物に存在するが一人一人異なるものが『マナ』だとするならば。

 それと似たようなモノがボク達の世界にもあるという事実に気がついた。


 DNAだ。


 『マナ』がDNAと似たような判断基準だとするならば。

 セメリアが凶器に痕跡がないと断言できた根拠も分かった。また、同時に争いを早々に諫めてしまった訳も理解する事ができた。少なくてもセメリアには死体を見ても、『広い道路でDNAの痕跡がない刃物が刺さっていている』不幸な事故としか思えなかったのだろう。

 

 なるほど。

 

 なぜ、セメリアは。

 凶器に『マナ』がない・・・・・・

 と判断できたのか。

 それは後で聞くとして。


 今は別の事を推論しなくてはいけない。

 ボクは言った。

「……となると、やはり、これは殺人ですよ」

「む。どうしてです? 凶器に痕跡はありませんでしたが」

「直接に触らなければ『マナ』の痕跡が残らないんですよね。それなら殺害方法など幾らでもありますよ」

「だとしても、この死体が殺人であるという証拠はどこにあるのですか?」

「まあ、犯人の目星は付いているんですよ」


 ボクは死体から離れた。

「待ちなさい。質問に答えていませんよ」

「それは良いじゃないですか」

「よくありません」

「……大切な事は、そこじゃないですよね」

「む」

「犯人を捕まえるだけじゃダメ。同時に、ドワーフとエルフが戦争を始めないようにもしなければならない」

「……」


「ボクは、この場の諍いの種を無くす、その方法を見つけました」


「ど、どうやって」

「まあ、見ててくださいよ」

 ボクは歩き出した。

 その先には対応に困ったドワーフとエルフの徒党が立ち尽くしている。

 太陽信仰の使徒セメリアがいる手前暴れる事もできず。

 かといって、この戦争に成りかねない問題を投げ出す訳にもいかなかったのだろう。


 その中に犯人はいる。


 ボクはそこに悠悠と近寄っていった。

 本当は心臓がドクドクと鳴っていたが、それを表に出さないよう必死であった。

 過去の名探偵たちが教えてくれる。

 武器を持たざる者が犯人を捕まえたければ、怯えた顔をしてはいけない。いつも笑顔を絶やさず、自信たっぷりでなければいけない。戦う術を持たない探偵は、推論とハッタリこそが最大の武器だからだ。



 ―――ボクは推論する。



 犯行現場はかなり広い『道路』。

 被害者は背後から肩の辺りを垂直に刺されている。

 ドワーフは鍛え上げられた肉体と鎧を纏っているので、『刃を通すには高身長の人が接近しなくては物理的に不可能』に思えた。

 しかし、敵対しているエルフがドワーフに近づけるとは思えない。また、『道路』という目撃されやすい場所で殺しているにも関わらず、『マナ』の痕跡を残さないようにしている。この行動は矛盾した。痕跡を完全に残さない計画なら一人になりやすい瞬間を狙うだろう。


 つまり、この犯人はエルフがやったように計画を企てたのだ。


 ボクの見立てでは犯人はドワーフの青年(仮にAとする)。

 理由は、この場でAだけが部族のマークを象徴する旗を今手にしていた事だった。旗の棒にナイフを引っかけるように仕掛けを作り、それを被害者に目掛けて叩き下ろした。


 これなら『マナ』を付着させず、返り血も浴びない。

 犯行も一瞬、道具を持っていても不自然はない。

 単純明快にして効率的な殺害方法だった。

 DNAが発見される以前から、最も追求が困難な殺人方法の一つだろう。今回、犯人が分かったのも偶然の要素が強かった。


 通常なら、これで解決だ。

 しかし、犯人が分かっても、これで終わりではない。

 ここからが本番だ・・・・・・


 今回の事件。

 『この場の争いのタネを無くす事』とセメリアと約束している。

 まだ殺害の証拠や動機も掴んでない。

 ボクが追求しても犯人Aは「濡れ衣だ」と答えるし、仲間のドワーフもそれを信じるに決まっている。当然、その間に、犯人呼ばわりされるエルフ達は根に持つだろう。


 これらの前提を踏まえた上で推論する。

 ボクがこれから取るべき行動はどれか。


 ①犯人Aを逮捕し、強引に罪を吐かせる。

   →強引の手段は?

 ②一旦はエルフを逮捕し、犯人の逃亡中に別の証拠を集めていく。

   →その証拠のアテは?

 ③犯人Aを脅す。

   →脅す材料は?

 ④人命と道徳について話す。

   →その内容は?

 ⑤犯人を殺してボクが全員の憎しみの対象となる


 どれだろうか。

 ボクの脳は死後、最も激しく推論していた。


 

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