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はじまり

「起きて下さい、朝ですよ。あっ、朝じゃないけど起きて下さーい! 風邪引きますよ−−」

「うーん、ここは……?」

 背中に伝わる冷ややかな石材の床がぼやけた脳内をクリアにしていく。周りを見ると壁も石、天井はわからない。それにしても豪華絢爛な感じで__

部屋?いや、違う。宮殿という言葉の方が正しいだろう。テレビの中でしか見た事無い光景に呑まれていると、誰かが上から覗き込んだ。


「やっと起きましたか、良かったぁ、もー心配しましたよ」


女?いや、子供

この年になると高校生までは同じに見える。何歳かわからんが中学生らへんから高校生あたりだろう。


少女といっても良い、だが何か違和感を感じる。


白いワンピース、金色のカチューシャ、そして透明の靴には光る装飾がついている。

荘厳な部屋に相応しい、そう思わせる高貴さ?みたいなオーラがにじみ出ている。住む世界が違いすぎる。

それが違和感の正体か、と納得した。


「落ち着きました?少し顔色悪いですね、熱あるのかな。うん、計ろうか」 

「熱?……って近い近い近い__」

「大丈夫、すぐ終わりますよ。怖くないから__ふふ」

前髪をかき上げ額を近づけてきた。

顔が近い、唇が近い、色々近い近い近い近い__

「うわああああ__」

「__キャッ」

「あ、すまん」

思わず叫んで押してしまった。

匂いとか整った顔のパーツとかその他諸々が寝起きの頭をシェイクする。

脳汁を垂れ流さなかった自分を全力でほめたい気持ちでいっぱいだ。

なんとか大人の威厳を保たなくては_


「悪いことをした。それより、まずわああああああ」


そこまで口にしてから、目を瞑り、鼻を押さえて顔をそらす。

だけどしっかり見た。下着は黒だった。

心の中で何かカットインぽいのが出て、黒かと呟いた。アホだ。思考が冷静なのは猟師だからか、他の猟師の方すみません。

詳しく説明すると目の前の少女が尻餅をついて体操座りでスカートがめくりあがっていて鼻血が出た。心臓が止まってもおかしくなかった。一瞬止まっていたのかも。

天涯孤独とか強がってたけどずっと独り身で女に耐性は無いに等しい。


だから血が止まらない。

「落ち着け、落ち着け、自然と、自然と同化するんじゃ」

口に出すと共に命じていつもより早い心臓の鼓動を聞く。顔を背けて目を瞑ったまま口を開いた。

言うしか無い。そうしないと心臓が止まる、かもしれない。


「悪かったから座り直してくれ__そのすかーとが__な」


目端でしっかり捉えていた少女は座り直して少しこちらに目配せするとすぐに目を反らして咳払いした。

あまり恥ずかしそうではない、若者は怖い。


「こほん、その感じだと大丈夫そうですね……」

「あっ__これはその朝だから。その早起きでごめんなさい!!」


血の気が引き土下座しながら自分の生理現象に驚いた。

朝こいつが起きてるなんて何十年ぶりだろうか。

鼻血は止まっていた。血は下に行ったんだろう。血まで馬鹿ですみません。


しわしわの年寄りがこんな若い子に、年齢差は六十以上だろう。

そう思うと無性に恥ずかしくってもう警察に逮捕されたい。

そんな気持ちでいっぱいになり、視界が潤んできた。

「わしはなんてことを__」


泣くという行為すら忘れてしまって、何が起こったかわからないまま止まってしまった彼を少女は膝立ちで抱き締めた。


「ごめんね、泣かないで。大丈夫だからねっ!」


ぱにっくと安堵感の後に違和感の正体に気づいた。


滑らかな大理石の床に映っているのは獅子の様な化け物に抱き締められている少年だった。少年はどこに?いや、目が合っている。これは床に映った自分だ。そして、獅子には見覚えがある。白い翼の白銀色の獅子。


現実離れした光景に許容限界を超えつつある頭は再起動し、床に映る白銀の獅子と目の前の少女を何度も見比べる。

獅子は笑い、少女も笑った。

腕を振り払い、視線はそのまま半歩飛び退く。

「気づきましたか?」


わしの手足を喰いちぎり最後に首と共に意識を刈り取ったであろう白銀の獅子であろう少女は目を瞑り、両手で胸を押さえて、息を吸った。両手を下ろすと共に白い翼が背中から現れ一振り、空気がびりびりと振動する。


声は反響し周囲からそして、頭の中からも聞こえてくる。


「私は、ウィルド__君の魂はここに」


「偉大な狩り人よ____!!!」

少女の瞳は獅子の瞳の青白い眼光を放った。


「君のすべてを私が喰らい、私と共にある。このまま私の一部になるか、別の世界、異世界で獣を狩るか__選んで下さい」


別の世界? 何かをわしが狩る?

信じられない話。現実かはわからないが、夢で片付けるには山で喰いちぎられた手足の痛みにはリアリティがあった。


「異なる世界__そこでわしに何を狩らせりつもりじゃ?なぜわしに狩らせる? わしに狩れるならお前にも狩れるだろう。わしを殺したお前なら雑作もないじゃろう……」


白銀の獅子を大理石の床に映しながら目の前の少女はそっと立ち上がる、猟師の目で少女を見定めた。目が合い微笑む少女の瞳の奥底に絶対的強者から弱者への憂いのようなものを感じた。やはり獅子と少女は同じ個で間違いない。


「私の力にも限界がありますし、ずっと守れるわけではないです。それに私より強い魔物もいます__それに…君が思っているより私は君の事信頼してるし期待もしていますよ」


褒められ慣れてなくて、少し嬉しい。喰われた相手だぞ、と自分に喝をいれて嫌味を考えてみる。


「期待と信頼を得るには少し早く喰われすぎたと思うがな」


「どうせ猟銃なんかは効きませんよ。貴方の世界でいう戦闘機や戦車ならわかりませんが、それに貴方を信頼する理由は他にもありますよ。異世界ついたらすぐにわかりますよ♪ 頑張って下さいね」


「ただのぼけ老人じゃよ、だしも何もでない、骨と皮だけじゃ、美味くなかったじゃろ?」


「そうですね〜、今は老人じゃないしとても美味しそうですよ♪ いろんな意味で方法で__食べちゃいたいくらいです」


目が怖い、この目は捕食者の目だ。何か鳥肌がたった。色んな意味ってどんな意味とは聞けない。

話を変えよう。


「そうじゃのお、何を狩るか知らんが人以外なら何でも良い。それと__な。この姿なんとかならんか? もし自由に年を変えれるなら二十歳くらいで頼む。体力、精神ryo__」


パキッ、何かが折れる音がした。少女が何かを折ったのだと理解した。少女はふらふらと歩いてきた。首を折られる想像をしながら見上げる。

身長差二十センチくらい上から見下ろされる。口元は笑っているけど目は少しも笑っていない。


「絶対に絶対に出来ません、無理です。不可能です。その姿で良いです。それ以外は認めません_絶対に!」


「そ、そうなのか__残念だが仕方ない、な」


「さ、行きましょうか。目を瞑っていて下さいね。開けてても良いけど気持ち悪くなりますから」


今度は口元に人差し指を当ててウィンクした。

恥ずかしくって目を瞑る。


__浮遊感とともに頭の中に声が響いた。


「君は生まれ変わり新しい世界に降り立つ。名を与えましょう。ショタ、これが君の名です」

変わった名だなと思っていると、ウィルドはそれと__と続け


「私の事はお姉ちゃんかお姉さんかお姉様か、姉者かおねぇ!と呼んで下さい!絶対です!!!」と叫んだ。









 

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